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Fuse2

「ちょっとキてる? レッツ・エレキテル!」


 ──経済産業省は【激情汲み取り方式による人力発電】を推進しています──


 新調したワイヤレスイヤホンが反抗期だ。

 ただでさえまぶたの重い時間帯に、余計気の抜けるAM電波をかっさらってきたんだから。

 物心がついてから少なくとも十数年、天気予報よりも耳にしてきたキャッチコピーは、隕石でも落ちない限り変わることはないだろう。


 まだCM途中だったラジオアプリのアイコンを爪弾き、きっかり10秒後に消灯したスマートフォンを、ブレザーの右ポケットへ突っ込む。

 通信相手を見失った黒光りの耳栓が、《Power off》と仕事を放棄した。


 くぁ……とあくびをかみ殺したあかりは、赤いタータンチェックのマフラーへよりいっそう鼻先を擦りつける。

 鬱陶しがって夏の間に髪を切らなかったのは、我ながら英断だった。漆黒の艶髪は幾重にも巻いたウールへ滑り込ませて、武装は完了。

 あとは背中に貼りつけたカイロが、頭も洒落も寒い担任のホームルームが終わるまでもってくれれば──


「おはよう碓氷(うすい)! 絶好の勝負日和だな!」


 ──前言撤回。

 これ以上の防寒対策は、蛇足のようだ。

 見飽きたT字路の突き当たりで、嫌でも目に入る人影を尻目に右折する。


「無視はやめないか、碓氷 あかり! おいっ!!」


「おはよ。今日も発電日和だね、暑っ苦しいあつきちゃん」


「俺のファーストネームを馴れ馴れしく呼ぶなぁっ! しかもちゃん付けでっ!」


「熱気やば……脱いでいい? あつきちゃん」


「んなぁあっ!? 曲がりなりにも年頃の女子が、異性の前でみだりなことを言うんじゃなぁいっ!」


 いや、中に着込んだセーターの裾を少し持ち上げて、後ろ手にカイロを剥がそうとしていただけなのだが。

 しかし、顔を真っ赤に上気させて人を露出狂呼ばわりする青年には何を言っても無駄だろうことを、あかりは経験上よく理解していた。


「今日は期末考査の最終日なんだぞ! 最も重要な『環境学』の試験があるのに、なんだその寝ぼけた顔は! ライバルの君がそんな様子じゃうんぬんかんぬん……」


「ウン、ウン、ソウダネー」


 大股で肩を並べたかと思えば、ガミガミと母親よりもやかましい説教を垂れる同級生。その眉間に半目を返しながら、口先だけは賛同してみせる。

 黙ってりゃ薄幸の美青年なのに。

 甘いマスクの清潔感あふれる黒髪男子がいつの時代においても需要が高いことを、本人だけが知らない。


 うっすらと粉砂糖をまぶしたアスファルトを30メートル進むごとに、『トゥーン』と独特な電子音が鳴り響く。

 世界的に有名な配管工が軽快なジャンプを決めたときの音に似ているそれが、合図だ。

 左手側の熱気が引く代わりに、ぼんやりとした朝の通学路がぺかぺかと明滅をはじめる。


 通りすぎる電信柱の太い胴体にはことごとくLEDパネルがくくりつけられていて、青白いドット文字で一様にこう表示されているのだろう。


『送電完了』──と。

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