表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/41

第2章①悪魔異世界転移


「ほんと信じられない信じられない信じられない!」

翌日の図書館でそう繰り返す女性がいた。

その女性は、今日も本から出てきた。

今日は昨日と違い、晴れていた。

「ほんと信じられない。どうしてあそこから本を閉じるわけ?普通、最後まで聞くでしょ?あたし、せっかくかっこよく喋っていたのに台無しじゃない」

 ポニーテールで少し幼げな顔、いわゆる童顔の女性が幼い口調で怒ってきた。着ている服は白いワンピースであり、着る人が着れば女神さまのように感じるが、今目の前にいる人は小さな子供がそのまま体だけ大きくなったようにしか見えなかった。

「ちょっと聴いてる?あたしの話聴いてる?ねえ、聴いてる?」

 壊れたロボットのように同じ言葉を繰り返す彼女は、その小さめな体から僕の顔を見上げていた。その顔は、自分の言っていることを聞いていないことを怒っている子供のようだった。その顔の後ろについている大きなポニーテールが犬の尻尾のようにピョコピョコ動いていた。

「ああ、聞いています」

「ほんとにホントにホント?だったらいいんだけど」

 この嘘っぽいほど子供っぽい女性が、昨日のあの神々しいものの正体だと思うと、世の中の神秘はわからないままのほうがいいものが多いのではないかと思ってしまう。実際、分からないようにぼかして魅了させる表現技法は物語の中には存在する。そういえば、『スラムダンク』の優勝校はどこだったのだろう?

「それで、君は何者なんだ?」

「あたし?あたしは悪魔だよ。あ・く・ま」

ニシー、と歯を思いっきり見せる笑顔で言う言葉、それが悪魔である。なるほど、悪魔か……

「え?悪魔?」

僕は素っ頓狂とはこのことだと自分でも認めるくらい素っ頓狂な声が出た。

「そうなの。悪魔なの」

え?これが悪魔?

「悪魔ならもう少し悪魔らしい雰囲気じゃないのか?」

「どういうこと?」

「例えばその服装。真っ白な服を着ているが、それは清らかなものが着るものじゃないのか?女神とか天使とか。普通、悪魔っていうものは黒いものを着ているイメージがあるが」

「え?そうなの?あたしの友達も白のワンピ着ている子多いよ」

「白のワンピを着ている悪魔たち?」

僕は西洋画とかに出てくる鬼のような不気味な悪魔が白いワンピースを着ている想像をした。ある意味悪魔的な光景だった。

「あー、やーらしいー姿を想像したでしょー」

その子は小悪魔的な表情を見せた。悪魔なのに似合っていなかった。

「いや、悪魔的な姿を想像した」

僕は彼女とはホットコーヒーとアイスコーヒーくらいの温度差を感じながら、冷静に応えた。

「そりゃあ、悪魔だからそうっしょ」

「いや、そういうわけではないのだが」

「じゃあ、どういうわけ?」

その無邪気な顔はやはり悪魔には見えなかった。僕は刑事コロンボほどの観察力がないので、見間違いかも知れないが。

「君、本当に悪魔か?いや、女神みたいにも見えないが」

冴えない3流探偵みたいな聞き方しかできなかった。

「だからさっきから悪魔だと言っているじゃない。てか、女神?私が女神?女神だって?そんなわけないじゃない。あははははは!」

そう言って腹を抱えてケラケラ笑う姿を漫画ではなく現実で見るとは思わなかった。

「そんなにおかしいか?女神と間違えられるのは」

「だってだってだって、女神だよ。このあたしが女神だよ?どう見ても女神なわけないっつーの。あははははは」

たしかに女神には見えない。しかし、悪魔にも見えない。

「繰り返し言うが、本当に悪魔か?」

「はーはー。あー笑った。あはは」

大きく息を継ぐ彼女に僕はため息混じりにもう1度同じ質問。

「君は本当の本当に悪魔か?」

「だーかーら、そうだって言っているじゃない。しつこい男は嫌われるぞ」

悪魔かどうかはわからないが、本から出てくる時点で普通の人間ではないことは鹿が鹿せんべいに寄ってくるくらいわかることなので、悪魔ということにしておく。

それに、僕は嫌われるのはなんとも思わないが、無駄に会話が続くのは嫌だから話を移した。

「それで、その悪魔さんが、どうして本の中から出てきのですか?」

僕はなんとなく『カードキャプターさくら』を思い起こしながら聞いた。

「それが、覚えていないんだ。なんでだろう?」

おーい、典型的な展開が来たー。アニメとかでよく見る展開。ベタベタの展開。

「まあ、なんか悪いことでもしたんでしょ?」

「してないよ、悪いことなんて」

エサを蓄えたハムスターのようにほっぺを膨らました彼女はブースカ垂れていた。『ハム太郎』でもそんなにほっぺたを膨らまさないだろうし、『ブースカ』でもそんなにブースカ垂れないだろう。『ブースカ』のこと知らないけどね。

てか、悪魔が悪いことしていないのは職務放棄では……

「君、悪魔なのに悪いことしないのか?」

「しないよ。なんで悪いことしないといけないの?」

まさか悪魔からこんな質問が飛んでくるとは……

小さな子供が母親に悪いことをしてはいけない理由を聞かれることの悪魔バージョンだろうか?悪魔の世界の親御さんも大変そうである。

「別に悪いわけではないけどさ……」

「じゃあいいじゃんいいじゃんいいじゃん」

張り倒すぞこのガキャ、と思うくらい鬱陶しくなってきた。そういえば、お盆終わりの高速道路くらい会話が進んでいない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ