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第1章③1人の女性

 講義終わり、あてもなく図書館を目指していた。定年退職した老人が暇つぶしに図書館に入り浸るようなものだ。

 他も講義終わりや次の講義に向かう人が多く行き交う交差点となっている図書館前は、歩行者天国のようなものだった。まあ、僕はなめ猫も何も知らない世代だから、適当に思っただけだが。とりあえず、そんな若者の場所に老人のような僕が、交通事故を起こすわけではなく突っ込んでいくのである。

「ちょっと待ってー!」

どこからか誰かが誰かを呼ぶ声が聞こえた。それは黄色い声で、性欲旺盛だなと老人まがいの僕はトボトボ歩いていた。

「待ってってばー!」

誰か知らないが待ってやれよ。せっかくの女性からのアプローチだぞ。たまには老人の言うことを聞きなはれ。

「待ってって、言ってるでしょー!」

「でゅは?!」

僕の右腕に勢いよくくっついてくるものがいた。僕はレゴブロックのように腕が取れそうだった。反時計回りにワルツを踊った。

「(ちょっと、こっちに合わせて)」

「(え?)」

暗殺者の脅しのように後ろから小声がした。そして、目の前には暗殺者を追いかける悪役ように男が現れた。

「ちょっと、逃げることないじゃん」

絶滅危惧種ではないかと思うくらいいかにもチャラそうな金髪ロン毛のアロハ姿の男は、僕の横の女性に言いよった。

「しつこいわね」

 そう突っぱねる女性は、黒髪長髪に白いTシャツとジーパンだった。僕が言うものなんだが、女性はもう少しおしゃれしたほうがいいのではないか?こちらもこちらで絶滅危惧種のようだ風貌だった。しかし、とても綺麗な顔立ちだった。少しキツそうな眉毛につり目、どことなく芯が通っているような雰囲気だった。

「ちょっと話をするだけじゃない。暇だったらでいいからー。ね?」

ああ、なるほど。ナンパか。ドラマとかで見たことがあるステレオタイプなナンパだ。こんなこと、現実であるんだ。

「暇じゃないのよ。さっきから言っているでしょ」

 だらしない声のチャラ男と違い、こちらの女性の生徒会長のごとく立派な口調は僕を快くさせた。

「そんなこと言って、ほんとは暇なんでしょ?」

「違うわよ。それに、今から彼とデートなの」

……え?

「なーにー?そんな奴が彼だとー?」

「そうよ。ね?」

……え?

「お、俺は信じないぞ」

「信じてもらえなくて結構」

……え?

いや、僕も信じられないのですが。

そんな僕にお構いなく彼女は僕の腕に胸を押し当ててきた。柔らかいかどうかよくわからなかったが、興奮はした。

そんな僕たちを見て、チャラ男はゲームに飽きた子供のようにつまらなそうに去っていった。

周りの人達が知らないあいだに僕たちを見入っていたようであったが、その幕切れを見て電池の入ったおもちゃのように自分たちのリズムに戻った。

僕は横を向いた。

「あのー……」

「すみませんでした」

僕が言うが早いか、彼女は就活生でもしないくらい体を90度に曲げるまで頭を下げた。

「勝手に彼女のふりをしてしまい、すみませんでした」

彼女は先ほどの凛とした感じではなく、半べそになりながら謝ってきた。

「いえ、別にいいです。はい」

状況はわかった。チャラ男にナンパされて困っていたから、僕を彼ということにして撃退したのだろう。そして、さっきまでの凛とした姿は精一杯の虚勢であり、本当は泣きそうなくらい怖かったのだろう。それにしても、なんだこのギャルゲーやラブコメみたいな展開は?ギャルゲーとかならここから知り合いになっていくのだが……?

「ありがとうございます。失礼します」

彼女は人ごみに消えていった。

まあ、わかっていたけどね。

現実はこんなものさ。

――僕は腰を曲げながら図書館に向かった。


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