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鈴の音が聞こえたら  作者: クープ
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母との時間

神父様やお医者様の来訪から、母は少し明るくなった。今まではあまり積極的には話してくれず、恐る恐るといった感じだった。なかなか喋りださず、ベッドから立ち上がろうともしない私は親目線で言えば不安でしかないだろう。私は私で、いまだに整理がつかずにいる。今の私はエーラで、エーラの母はもちろんこの女性だ。なんてことのない当たり前のことだけど、すずなとしての私がどうしても割り切れないでいた。この世界に産まれてから、私はまだ母を呼んだことがない。それは、どちらの母に対してもだ。どっちつかずの半端な気持ちが、すずなでいることも、エーラでいることも許さなかった。こうしてどうにもならない問題に悩んでるうちに、また日が暮れた。畑仕事から戻った母が食事を作る音が聞こえる。しばらくして、自身の分の食事と私の食事を持った母が入ってきた。最近あった変化と言えば、これも大きいだろ。私が乳離れをしてから、母は私に食事を食べさせた後、別の部屋で自分の分を食べていた。それが最近では、私に食べさせた後、そのまま部屋に残って食べるようになったのだ。ゆっくり匙を口に運びながら、その日あったことなどを話してくれる。そんな話題の中で一番驚いたのは父のことだ。大変失礼ながら、エーラにとっての父はいないものだと思っていた。自意識が芽生えてから一切顔を合わせたことはないし、近所の人も母もその話をしていなかったのだから、仕方ないこととしたい。……っと、ちょうど母の話題が父に関するものになった。

「エーラ、お父さんに会ってみたいでしょう?私も会いたいわ……あの人も、あなたに会いたがってたの。そうね、まだ難しいかもしれないけど、お父さんはあなたに会うために遠くで頑張っているのよ。さて、今日はもう寝ましょうか。お皿洗ってくるわね。」

母は、遠い目でそう締めくくって、部屋を出た。父の話題はいつもこんな調子で、結局父はどこにいて、何をしているのかわからないのだった。あれだけ悩んでいるとはいえ、両親に興味がないわけではない。平和な現代日本で前世を過ごした身としては、肉親の行方が分からないというのはとても気になる。幼児ながらに父の身を案じていると母が帰ってくる。寝る前に昔話を語ってくれるのも最近の変化の一つだ。私の横たわる幼児用の寝台の横に置いた木箱に座った母が、

「今日のお話はね、お母さんにとっても思い出のお話なの。」

懐かしそうに目を細めて語りだした。

遠い遠い空の上、そこには太陽を守る神様がいました。神様は毎日、人々が凍えてしまわないように、また干からびてしまわないようにその大きな炎を操作していました。世界が始まって、人々が生まれてから神様は毎日その仕事を続けています。ちょっと頑固なその神様は、他の神様が代替わりをしても最後まで一人で仕事をしていました。ある時太陽の神様のところに友達の神様がやってきます。太陽の神様はお茶とお菓子を出して休憩することにしました。もう仕事を譲ってしまった友達の神様は、太陽の神様にこう言いました。

「あんたはもう十分働いただろ、そろそろ休んだらどうだ。」

それを聞いた太陽の神様は、つまらなそうに鼻を鳴らしてこう答えます。

「よく知りもしない人にこんな大事な仕事は任せられないわよ。」

友達の神様は、それもそうだとうなずいて少し悩みました。そしてひとつの考えを言います。

「じゃああんたが子供を作ればいいんじゃないか?」

太陽の神様はなるほどとつぶやきました。神様の子供は、その神様が仕事をして貯めた人々からの感謝を空っぽの魂に注ぐことで産まれます。さっそく空の上を漂っていた魂を捕まえるために太陽の神様は出かけることにしました。支度をしながら友達の神様に向かってこう言います。

「じゃあ、私は魂を捕まえに行きます。せっかく初めてのお休みだからそのままその子を少し育ててみるわね。あなたが言い出したことだし、留守番を頼んだわね。」

待て!と止める友達の神様を置いて太陽の神様は旅立っていきました。それ以来、少しだけ太陽が出すぎていたり、隠れすぎるようになってしまいました。

話し終えた母は、そのまま部屋の窓に板をはめ込んで、私におやすみとささやいた。そのまま部屋の隅の干し草の束に横たわり、すぐに寝息を立て始める。私は話の途中から目をつぶり、眠ったふりをしながら先ほどの話を振り返っていた。学校の授業でやった内容に合わせれば、先ほどの太陽の神様のお話は自然災害を神様が変わったからだと理由を付けたものだろう。洪水を龍に例えたり、病気などを呪いと言ってみたりするのと同じだろう。しかし先日みた半透明の板。あれが何かはわからないが、あのように不思議なことを、何か知っている風なこの世界の人たちを見ていると、神様も本当にいるのではないかと思えてくる。母の語ってくれるお話は神話のようなものが多い。この世界の神話は日本の神話やギリシャ神話などと同じように多くの神様たちが、人間臭い物語を紡いでいた。他を知らないのであくまで暫定的にだが田舎と言えるこの集落に暮らす母がこれだけの話を知っているあたり、神様は人々にとってとても近い存在なのだろう。先ほどの話に出てきた太陽の神様。すずなの世界ではどのように描かれていただろう。そんなことを考えながら、母を追いかけるように眠りに落ちた。


少し忙しくて更新遅れました。

時間はかかるかもですが止まらないように進めていきたいです。

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