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ショートショート6月~

あげます屋

作者: たかさば

森の奥に一軒のお店がございます。

看板には、「あげます屋」の文字。



からん…からん…


「いらっしゃい。」


店に男の子が入ってきました。


「こんにちは!」

「はいこんにちは。」


お店には何も入っていないショーケースがあり、その向こう側にニコニコしたおじさんがいます。


「今日食べるご飯を三人分ください!」

「はい少々お待ち下さい。」


おじさんは、後ろのほうでごそごそとやっています。

大きな風呂敷包みを男の子に差し出しました。


「お父さんとお母さんと君の分の晩御飯だよ。」

「ありがとう!風呂敷を返しにまたきます。」


「気をつけてお帰り。」



からん…からん…


「いらっしゃい。」


店に女性が入ってきました。


「こんにちは。」

「はいこんにちは。」


「就職試験に着ていく服をください。」

「はい少々お待ち下さい。」


おじさんは、後ろのほうでごそごそとやっています。


「靴とストッキングとバッグはどうする?」

「いただいてもいいのですか。」


おじさんは大きな風呂敷包みを女性に差し出しました。


「使っていただけるならお渡しするよ。」

「使います!ありがとうございます!」


「自信を持って挑んでね。」



からん…からん…


「いらっしゃい。」


店におじいさんが入ってきました。


「こんにちは。」

「はいこんにちは。」


「生きがいをもらえんかね。」

「はい少々お待ち下さい。」


おじさんは、後ろのほうでごそごそとやっています。


「重たくなるけどいいかな?」

「持てるものであれば。」


少し大きめの日記をおじいさんに差し出しました。

表紙には若かりし頃のおじいさんと最愛のおばあさんの写真が貼ってあります。


「毎日書いてくれるならお渡しするよ。」

「書くよ。いただいて、いくよ。」


「その日記は、おばあちゃんとの交換日記だからね。」



からん…からん…


「おい、金を出せ。」

「挨拶もないのかい。」


店におっさんが乗り込んできました。


「早くしろ。」


おじさんは、後ろのほうでごそごそとやっています。


「いくら欲しいんだい。」

「あるだけ出せ。」


「持ちきれないよ、どうするの。」

「持てる分すべて持っていく。」


ショーケースの上に、札束がわんさか積まれていくます。


おっさんは札束をわしづかみにしてかばんに詰め込んでいます。


「すべて使ってくれるならお渡しするよ。」

「使うに決まっているだろう!これは俺の金だ!」


「必ず、使うようにね。」



おっさんは、まず車屋に行って、2600万の車を買いました。


車を買っただけで夕方になってしまったので、晩御飯を買って家に帰りました。


牛丼を食べながらおっさんはお金を数えました。


かばんがそんなに大きくなかったからか、あと一億二百万と少々しかありませんでした。


明日は家を買いに行くかと決めて、その日は眠ることにしました。


次の日目を覚ましたおっさんはおどろきました。


かばんの中にあったお金が一円もありません。



からん…からん…


「おい、どういうことだ。」

「挨拶もないのかい。」


店におっさんが乗り込んできました。


「金がなくなった、返せ。」

「使わない分は消えてしまうんだよ。」


おじさんは、後ろのほうでごそごそとやっています。


「もう一度出せ。」

「使いきれない人にはあげることはできないよ。」


後ろを向いているおじさんに、おっさんが襲い掛かりました。


「いいから出せ。」

「使いきれなかった分を返してくれないと出せないよ。」


前を向いたおじさんは、大きく口を開くと、一口でおっさんを食べてしまいました。


ぼり、ぼり、ぼり、ぼり。


「三回分の人生ってとこかな。」


じーこ、じーこ、じーこ。

おじさんは黒電話のダイヤルをを回して電話をかけました。


「魂を収穫しましてね。ちょっと査定をお願いしたくて。」


「…今回の人生はゼロ円。」


「…次回は苦労して学歴積んで途中で挫折して2000万円」


「…次々回は努力してのし上がって恨まれて8000万円」


「…次々次回は耐えて我慢して恨んで3000万円。」


「…なんだ、もう生まれるチャンスないんですね。」


「じゃあ、お渡ししますので、取りに来て下さい。」


がっちゃん。


「魂の消滅まで行くとはねえ…。」



からん…からん…


「いらっしゃい。」


店にお兄さんが入ってきました。


「すみません、車の納車に来ました。」

「ああ、おっさんのやつかな。」


おじさんは、後ろのほうでごそごそとやっています。


「こんな遠くまでご苦労様。」

「いえいえ、お買い上げありがとうございました。」


「車は店の前に置いといてね。」



からん…からん…


「いらっしゃい。」


店に悪魔が入ってきました。


「魂をもらいに来ましたよ。」

「ああ、今ちょうど車も来た所でね。」


おじさんは、後ろのほうでごそごそとやっています。


「両方持ってってもらっていいかな。」

「いただいていきますね、ずいぶん派手な社用車になるなあ…。」


風呂敷に包まれた、ぴょこぴょこ動く何かを差し出しました。


「何で人ってのは使いきれないもんを欲しがるのかねえ。」

「たくさん持つことに憧れがあるのかもね、君みたいに。」


風呂敷に包まれた、ぴょこぴょこ動く何かを悪魔は受け取りました。


「そりゃあ悪魔は人の魂集めてなんぼだからさ。」

「似てると思わない?」


「ただの紙切れと命を一緒にすんなって。」

「命四回投げうって欲しがる紙切れですよ?」


「人の価値観ってのは、わからねえなあ…。」


悪魔は車に乗って、森の奥に消えました。






からん…からん…


「いらっしゃい。」




貴方は「あげます屋」のドアを開けました。




さあ、貴方は何をもらいますか?



欲しいものがもらえます。

ただし、使うことが条件です。


たまに長く使うものを渡されますよ。

たまに重たいものを渡されることもありますよ。

たまに手に余るものを渡されますよ。


でも、おじさんは、貴方だったら使いきることができるものを探して渡してくれますよ。





おじさんに無理なお願いをしたらいけませんよ?

おじさんはとっても優しいから。


ごくごくたまに、使い切れないものを、渡しちゃうんです。





使いきれなかった場合は使いきれなかった分、返さないといけません。




それはごくまれに、人生を狂わせてしまいます。



それはごくまれに、人生を失うことになります。





「あげます屋」は何でも取り揃えておりますよ。


お困りの際は、ぜひ森の奥までお越し下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは良い商売。リターンが大きすぎる [気になる点] こんな怪しい店に強盗なんて。なかなかファンキーなおじさんですね [一言] どうしましょう。とりあえず欲しいゲームを10本貰いましょうか…
[一言] これ、面白いですね。 使いきらなければ、それを返さないといけない。使いきれないものを欲しがるな、ってことですね。慎ましく生きよう。みたいな感じですね。 うまくまとまってますよね。
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