表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たたみでソファー  作者: 瀬山藺人
12/15

家主

 翌朝、目が覚めると、昨日の事が嘘のような気がしてならない。将来に対する急激な変化に、心が追い付いていないみたい。今日は少し早めに家を出て、外のベンチで湯山を待つ。一応、毎日一緒に登校することになったんだよな? このまま来なかったどうしよう。

「おはよー藺山」

 右側から湯山が現れる。

「じゃ、行くか」

 森を抜けて道路を歩いていく。

「急に色々あるから、朝起きると夢だったような気がしてならないんだよね」

「うん、夢みたい」

「小四で婚約だぞ、さすがに気が早くないか?」

「でも、小学生の頃にはプロを目指したりするでしょ?」

「確かにそうだけど……」

「大丈夫だって、コーヒー好きなんでしょ?」

「ああ、好きだよ。紅茶も緑茶もね」

「なら大丈夫」

「そうだな……」

 一組の教室の前で湯山と別れ、遅刻になる時間の五分前に席に着く。

 稗田にいつ話そうか。いや、稗田には話す必要はないか。稗田の親にだけに話して、稗田には黙っておこうか。訳を話したら変に噂が広がるかもしれないし。とりあえず、稗田の家に行って話したついでに教えて、あとは黙っておいてもらおう。


 昼休み。

「あとで稗田に話す事ががあるから、家にいてね」

「家に? いいけど、何の話?」

「詳しくはあとで話す」

「分かった」


 下校の時間になり、湯山と帰る。

「昼休みに稗田の家に行くって言っといた」

「私も行った方がいい?」

「本当ならもちろんいいんだけど、稗田に深夜のられたらややこしくなりそうだし、俺だけでいく」

「じゃあ、近くまで行く」

 ランドセルを置いて、稗田の家の近くまで湯山と歩いていく。

「じゃあ、その辺にいて」

 湯山は稗田の家の周りに広がる草地で待たせることにした。呼び鈴を押すと稗田が出てくる。

「じゃあ、入って」

 居間にいると、稗田の両親が入ってくる。

「話はお母さんから聞いたよ、自由に使ってください」

「ありがとうございます」

「なんの話?」

 稗田は全く知らされてないのか。

「森に俺が建てた空き家があるだろ、あそこで響人君が店を開きたいみたいなんだよ」

「へー凄いなぁ、藺山がそんな事を考えてたとは意外だな」

「ま、まぁね」

「こっちとしても、やっと使いたい人が決まったから助かるよ」

「なんの店?」

「まあ、お茶屋かな。俺はコーヒーが好きだし」

「そうか……」

「一応、この話は秘密な」

「ああ、分かった」

「それじゃあ、この書類に必要事項を書いてね」

 自分が所持する書類と、市役所に提出する書類に氏名などを記入する。

「あとはこっちゃが手続きをしておくから」

「ありがとうございます」

「それにしても急だな、まさか藺山がもう将来を決めてるてとはな」

「いや、俺も驚いてるんだよね」

「なんでコーヒーの店をやりたくなったの?」

「この前、空き家を覗いたらなんとなく興味が湧いちゃって、で、母親が市役所に行って持ち主を調べてもらったら、稗田ということが分かって……」

「まあ、使」

「楽しみにしてるからね」稗田母

「はい、それじゃあ帰ります、ありがとうございました」

 稗田宅を出ると、湯山が離れた所に立っている。

「どうだった?」

「とりあえず、持ち主は俺になったよ」

「おめでとう、藺山」

「どうも」

「空き家に行ってみる?」

「行くか」


 自宅を通りすぎ、木々がまばらになり始めた所に建つ一軒家に着く。中に入ってみたが、前に来たときと何も変わっていない。蛇口を捻ると水が出た。電気コンロを付けると熱が伝わってくる。

「持ち主が俺になったといっても、今すぐ店を始める訳じゃないからなぁ」

「でも、使うのは自由なんだし、試しにコーヒーを作ってみればいいんじゃない?」

「やってみるか」

 湯山を空き家に残し、家からコーヒー豆と砂糖と牛乳とペーパーフィルターを持ってくると、カウンターで湯山が道具を用意し、注ぎ口の細いポットで湯を沸かしていた。お湯が沸くと、お盆に載せて、窓際のボックスソファーに持っていく。缶から二人分の豆を入れてお湯を注ぎ、コーヒーカップに注ぎ分けてると、まずはそのまま飲んでみる。

「香りはいいけど、やっぱり無糖はまだ早いな」

「私は少し好きかも」

「湯山は味覚も大人だな。まあ、今日はいつもと違って無糖もいりな気分かな」

 少し飲んだところで、俺も湯山も砂糖と牛乳を入れる。

「やっぱり飲めないな」

「ふふ」

「そういえば、お店の名前を決めないと」

「そうだな。まあでも、良いのが思い付かないし、あとでいいんじゃない?」

「ホホ、ホーホー、ホホ、ホーホー……」

「山鳩か、湯山の家からも聴こえる?」

「うん、よく鳴いてる。でも、なんの鳥なのかは知らなかったから、フクロウだと思ってたけど」

「確かにちょっと近いよな。でも、山鳩はホーホーの前にホホって鳴くからな。山鳩はよくその辺りを歩いてたりするけど、見たことある? 尻尾が雉に似た模様をしてるんだけど」

「見たことある。あれが山鳩かぁ、普通の鳩かと思ってた」

「ちょっと違うんだよね」

「そういえば、尻尾が少し長かったような」

「よし、店の名前は山鳩屋にしよう」

「いいね、山鳩屋」

「山鳩屋かぁ、俺としてはなかなか上出来だよな」

「でも、なんで知ってたの?」

「よく鳴いてるから気になって仕方がないから、なんの鳥なのか図書館で調べてみたんだよ」

「藺山も図書館によく行くの?」

「新刊の漫画を読みにね。でも、湯山みたいに年中行ったりはしないな」

「そうなんだ」


 片付けを終えて、持ってきた紙袋に道具を詰めて、空き家を出る。

「どうせなら、近いうちにでも開店できるんじゃない?」

 さすが藺山、気が早い。

「え? でも、色々大変だし、そもそも俺達は学校があるし」

「親に手伝ってもらうとか」

「確かに暇そうだからやってくれるかもね。道具は用意しておいて、片付けや支払は客任せ。うちの駄菓子屋も、支払いは客に任せてるし」

「開店時間は?」

「普通は早くて九時からで、閉店は夕方辺りだっけ? 自営業はそんな感じだろうけど、全国でやってる店とかはもっと早くから夜までやってるよな。まぁ、うちはせいぜい九時から五時かな」

「営業時間も客任せでいいんじゃない?」

「つまり、客が朝に明かりを付けて、夜中に誰もいなくなったら、最後の客が明かりを消すってこと?」

「でも、どうせなら二十四時間営業でもいいんじゃない?」

「そりゃまあ、客が勝手にやるんなら、二十四時間営業もできるな」

「うん、二十四時間営業にしよう」


 湯山と別れて家に入る。テレビを付けながらゲームをやっていると、母親が帰ってくる。夕飯の時間になり、居間で夕飯を食べ始めたところで父親が帰ってくる。

「空き家の持ち主は俺になったよ」

「良かったじゃない」静葉

「近いうちにお店を始めようと思うんだけど、俺達は学校があるし、店員がいない時はコーヒーを作ったり洗ったりは客に任せで、品を揃えたり、売り上げとかの計算とかはよく分からないし、二人に任せるから」

「いいけど。それにしても急じゃない?」母

「いやまあ、湯山がかなりやる気があるみたいで、営業時間も二十四時間らしい」

「まあとにかく、響人の将来が決まったんだから、手伝ってやるぞ」勇人


 夕飯を終えて部屋に戻る。

「もう店を始めるのかよ。さすがに早すぎだろ。小四だぞ」

 忍の刃を始める。

「うーん、集中できない。もっとサクサクとやれるのがいい」

 天の雲を作り出してテンポ良く上に上がっていく。急激な生活の変化に心が追い付いてこれていなかったが、ゲームをやっているうちに平常心を取り戻していく。

「湯山は焦りとかないのかな。やっぱり凄いな湯山は」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ