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たたみでソファー  作者: 瀬山藺人
10/15

図書館

ゲームをしたり、図書館に行ったり。

 五月八日火曜日、振り替え休日。

 今日も朝から湯山がうちに来て、黙々とゲームを続ける。

 伝説の装備を揃えると入れる空の塔を登り、最上階にある空の扉で、遥か上空にある空の城に転送される。空の城が闇の世界に通じる闇の洞窟の真上に移動すると、勇者達は言われた通りにそのまま飛び降りる。地上に近づくと落下速度が減少し、ゆっくりと着地した。

 闇の洞窟を下りていくと闇の扉があり、そこから闇の世界に転送される。闇の世界にある闇の城を攻略し、昼過ぎにはついにラスボスを倒した。そして、魔物達の心は穏やかになり、世界は平和を取り戻した。

 エンディングが始まり、仲間達はそれぞれの故郷に帰っていく。戦士も城に戻ると、人間になった座敷わらしが町外れで戦士の帰りを待っていた。戦士と座敷わらしは共に城へ報告に向かっていったい。最後に勇者が故郷に戻り、待っていた人々に迎えられた。

 一年後、平和な日々を送っていた勇者は、毎日一人で町外れに来ては、世界を旅していた頃を思い出す。目の前に広がる平原から青空を眺めていると、遠くの空から何かが近づいてくるのが分かる。もしやとじっとり見つめると、あの日々に乗っていた気球だと確信する。久しぶりに仲間達が再開したところで物語は終わった。

「たったの一週間で終わりか。普通なら何度もやり直したり、レベル上げに時間をかけたりするけど、一回目で無駄のない効率の良さでクリアーだから凄いよな。俺には何度やってもここまで早くはクリアーできないな」

「たまたま運が良かっただけだって」

「いや、やっぱり頭脳が違うんだよ。実力だって」


「それじゃ、昼飯にするか。今日は二人共店に行ってるし、焼そばでも作るかな」

「私が作るから、藺山は待ってて」

「それじゃあ、頼んだ」

 居間で待っていると、台所から野菜を切る音や、食器が鳴らす音が聞こえてくる。一人で作らないと気が済まないところに、湯山の頑固なところが表れてるよな。

 湯山がお盆に皿を載せて居間に入ってくる。湯山が作った焼そばを食べながら思った。

「あの二人が店で揃うのって珍しいぞ、見たことある? 昨日、店を開く話を聞いて昔を思い出したかな? 初心を忘れないって大事だよな」

 湯山は微笑みながら頷く。

「これ食べたら行ってみるか」


 昼食を終えて、親がやっている駄菓子屋兼ゲームセンターに行ってみることにした。森を抜けて、反対側にある入口から店に入ると、右端にある机の向こう側に母親が座っている。

「もう一人は?」

「どこかにいるんじゃない?」

 左側のテーブルが並ぶ空間には駄菓子を食べながら騒いでる二人組の小学生しかいない。右側のゲーセンにも居ない。二階に上がってみると、奥にそれらしき姿が見える。

「珍しいじゃん、店に居るの」

「まあな。おっ、鈴葉ちゃんいらっしゃい」

「こんにちは」

「鈴葉ちゃんもゲームはやるの?」

「はい、やります」

「しかも、俺より上手いんだよ」

「それは意外だね」

「じゃあ、俺達もゲームやるか」

 筐体を見て回る。

「これ、やってみる」

「これか」

 湯山は、廃墟の館を探索する『魂の館』に興味を持つ。ゲームが始まると、二組の男女が館の中に入っていく。横視点になり、ステージ1が始まり、男は振り返ると女がいないことに気づく。扉を開けようとしても開かない。やむを得ず、男は廊下を歩いていく。少し進むと、壁に武器が飾られている。と、その時、どこからか女の声が聞こえてくる。

「一つ、選ぶがよい」

 壁には剣、斧、鞭、杖が飾られている。矢印が武器の上に表示され、湯山は考える。

「ちなみに、なにも押さないで一分間待っていると、素手になるよ。でも、難しいから、まずは武器を選んでからだな」

 湯山は剣を選ぶ。最初はよく分からないし、とりあえず剣だよな。剣は振りが速いから初心者向きだし。

 湯山は前後から攻めてくる謎の生物を的確に反応して倒し、ステージの最後に登場するボスを倒して館を進んでいく。攻撃を受けつつも、初めてとは思えない脅威の反応で次々とステージを進んでいく。残り残機0でなんとかステージ7のボスを倒して屋上に上がり、最後のステージ8を進んでいく。稲妻を避けながら進んでいくと、上空からいなくなっていた女が現れる。

「よくぞ来た」

 女はそう言うと、浮遊状態から稲妻を放ってくる。湯山は攻撃を交わし、女が近づいて腕を振ってくるとしゃがんで避けて、振り向き様に跳んでから剣でダメージを与えていく。そして、最後の一撃を与えると女が落ちてくる。

「貴様の力を認めよう。私の妻となるか?」

 画面に、いいよ、いやだ、と表示され、湯山はいいよを選ぶ。すると、女は意識を失って倒れた。朝になり、女は目を覚ます。館のベッドから体を起こす。

「ここは……」

「何も覚えてないのか……」

「酷い夢を見たんだけど……」

「とにかく、ここを離れよう」

 男女は館をあとにした。

「いいえを選んだらどうなるんだろう」

「もう一回やるか?」

「うん」

 湯山は斧を選び、最終ステージの女を倒すと、いやだを選ぶ。

「それもよかろう。さらばだ」

 女は稲妻を館全体に放ち、上空に消えていく。男は燃え盛る館からなんとか逃げ出そうとするが、最後の扉が開かない。そこでまた、武器を選ぶことになり、湯山は斧を選ぶ。後ろからは、炎が生き物の様に迫ってくる。炎からは飛んで来る火の玉を飛んで避けつつ、湯山は連打して扉を壊し、館の外に脱出すると、男は倒れ込んだ。

「起きて、大丈夫?」

 女に起こされ、気づくと朝になっていた。館は何事も無く建っている。

「酷い夢を見たな……」

 二人は森の中を帰っていった。

「ひとまず帰ろう」

 男は、何事もなかったように建つ館をあとしにた。

「女って誰だったんだろう」

「大昔から館に住んでいた一族の一人らしい。操ってたのは、昔住んでた人の魂だとか」


 筐体を離れて父親がいた筐体に行ってみたが、どこにも見当たらない。一階に戻ると、母親もいなくなってる。

「またどこかに行ったか」

 隣の空間も覗いてみるが、さっきまでいた下の学年の子供達もいなくなってる。とりあえず、駄菓子を買って席に着く。

「ほんと、ゲームは湯山がやってるとこを見る方が面白くなってきたな。俺はスティックの操作が苦手なんだよな。ちなみに、武器を選ぶ画面で下を五回押すと、武器を掛けてある板が開いて、壁の中から刀が手に入るぞ」

「そうなんだ」

「刀は強力だけど、防御力が下がるし、苦手な敵もいるから、慣れてからだな」

「杖は?」

「杖は雷で攻撃できて、かなり難易度が下がるから、ゲームが苦手な人用だな。あと、館に入る前に下を入力してると、女が先に入って男が消えてるから、その場合は女を操作できるよ」

「そうなんだ」

「ところで、湯山の両親はなんの仕事をしてるの?」

「図書館で働いてるよ」

「なんだ、結局は湯山の親も図書館で働いてるのか。それなら湯山も図書館で一緒に働けばいいのに」

「でも、あの建物が気になるし」

「湯山も空き家の亡霊にでも取り憑かれたんじゃないか?」

「ふふ、そうかも」


 店を出て、目の前の公園を歩いていく。

「図書館にでも行ってみる?」

「うん、行こう」

 町の東にある図書館に入り、本棚に向かう。

「なんか読みたいのはある? 俺は漫画でも読もうかと」

「じゃあ、私も」

 三階に上がって、適当に見て回ると、ある漫画に目が留まる。

「これ、読んだことある? 『珍しい人はぐる』。俺は全巻持ってるぐらい、かなり気に入ってるんだけど」

「知ってる。アニメやってるよね。毎週視てる」

「じゃあ、これを読もう」

 二人共、一巻から三冊を取って席に向かう。

「同じ巻が何冊もあって助かった、凄く人気があるからね」

 二人掛けの席に向かい合って座って読み始める。

 少し経つと、湯山が声をかけられる。

「鈴葉、いらっしゃい」

「あっ、お母さん」

「あ、こんにちは」

 桃葉さんか。

 一時間ほど黙って読み続ける。

「そろそろ帰るか。ついでに俺も貸出カードを作って本を借りよう」

 適当に探して、目についた題名の小説を取る。

「黄昏の海、芳田忍か。よく分からないけど、これにするか」

「私も黄昏の海を借りる」

「貸出証、持ってるのか」

「うん、一応」

「常に持ち歩いてるとは、さすがだな」

 本を借りて図書館を出ていく。

「はぐるのどうでもいい能力と、なんてことのない日常を描いてるところが良いよな。俺はこういう漫画も好きだから、読む早さが上がるんだよ。ただ早く読んでも頭に入らないからね」

「写真が趣味なところが、藺山と似てるよね」

「何も考えてないところも俺と同じだな」

「そう?」

「いやまあ、組が違うから分かりづらいと思うけど、周りからはそういう奴だと思われてるぞ。もし同じ組になったら印象が変わるはず」

「なんで?」

「湯山や仲のいい奴ら以外はほとんど会話がなくて無愛想からな」

「でも、私の方が話さないと思う」

「湯山は無愛想とは違うし、そのままでもいいと思うぞ」

 商店街を通って、森の脇を歩いていく。

「大型連休って、今日が最後だっけ? でも、あと三日でまた土日だから、本当は来週からだよな。その前に少し慣れておく三日間な訳だよ」


 森を通って家に着く。

「久しぶりにうちに来てみる?」

「おっ、行くか」

 いきなりだな。一度行ったし、なんとかなるよな。

「ただいま、藺山君も来たよ」

「響人君いらっしゃい」

 桃葉さんが湯山に負けず劣らない笑顔で向かえてくれた。二階に上がり、湯山の部屋に入ると、もう一人の女の子がいる。

「あっ、えっと……」

 見知らぬ女の子が、この前買った猫球のゲームを遊ぶ手を止めて、真顔で振り替える。

「妹だよ、二歳下の二年生」

「妹がいたのか。全然知らなかった。えっと、名前は?」

園葉(そのは)

 ほらやっぱり、名前に葉があるんだな。

「まあ、座って」

 藺山に促されて座る。

「あ、はいはい」

「じゃあ……園葉はゲームが好きなの?」

「時々やる」

「そうなんだ。猫球は面白い?」

「運次第で簡単だったり難しかったりするけど、面白いよ」

「園葉は私よりゲームが上手いと思うんだけど、猫球は難しくなる場合が多いみたい」

「運だからしょうがないよな。そこが猫球の面白いところでもあるけど」

「響人は最初にクリアーのはいつ?」鈴葉

「俺は小一でクリアーした。もちろん、何十回もやり直したよ」

「凄いじゃん」

「そもそも、俺はゲームが得意な方だからな。アクションだけだけど。さすがに、猫球を一回でクリアーした鈴葉には敵わないけどな」

「私だって、小一だったらクリアーは無理かも」

「そんなはずはない。それに、小四だからといって一回でクリアーはあり得ないぞ」

 順調に進めていく園葉の攻略を見続ける。

「さっき図書館に行ってきたんだけど、園葉は図書館に行く?」

「よく行くよ」

「園葉はどちらかというと、借りて家で読むんだよね」

「うん」

「私は勉強がまあまあできる方だけど、園葉はかなり勉強ができるの」

「やっぱり姉妹揃って頭が良いんだな。ちなみに俺は下から何番目ぐらい」

「そうなんだ……」

「図書館以外だと、どこかに出かけたりするの?」

「図書館以外はあまり出かけないかな」

「私以上に出かけないよね。休日も買い物に付いていかずに本を読んでるもんね」

 行動より頭脳派って感じかな。有名な推理小説の兄弟の兄がそんな感じだったな。

「そっか。まあ、俺もそうかな。家でゲームばかりしてるし。駄菓子屋はよく行くけど、結局ゲームをやりに行くようなもんだし。園葉は駄菓子屋に行ったりしする?」

「駄菓子屋ならよくお菓子を買いにいくよ。ゲームもよくやる」

「なんだ、よく行ってるのか。それなら見たことあるかな。そういえば、一人で駄菓子を食べてる二年生ぐらいの女の子をたまに見かけるような……」

「多分、私。響人はよく来てるよね」

「そっか、あれが園葉か。それにしても、登校と下校でうちの前を通るはずだから気づくはずなんだけど」

「響人は登校が遅いんじゃない?」鈴葉

「そうだけど、じゃあ、下校も見かけないのはなんで?」

「私は森の中をよく通るから」

「回り込まずに? あの辺りは結構生い茂ってるから歩きにくくない?」

「慣れれば近道だよ」

「そうかもしれないけど、俺は森が苦手だからなぁ。なんか不気味だし、カブトムシを探しに行ったりするけど、カブトムシならその辺にいるし」

 園葉は猫球を順調に進めていく。隠し扉も調べ尽くしてあるみたいで、体力は常に高い位置を維持している。

「二人は同じ組なの?」

「違うよ、俺は二組。でも、家が近所だから、たまたま仲が良くなって」

「ふふ、ね」

「そうなんだ」

「園葉は将来、何になりたい?」

「図書館で働きたい」

「やっぱり図書館だよね。藺山も図書館で働いてたかもしれないって言ってたんだけど、近くの空き家でお茶屋をやりたくなったみたいで」

「そうなの?」

「うん」

「お茶屋さんか……。鈴葉は絶対に図書館で働くと思ってたけど」

「それで、俺も将来は、そのお茶屋で働くことになったみたいなんだよ」

「そうなんだ」

 園葉はラスボスを軽々と倒した。

「あのさぁ、響人はなんで鈴葉のことを湯山っていうの?」

「まぁ、礼儀というか……」

「でもさぁ、私も湯山だから、鈴葉にしてよ。ついでに、鈴葉も響人って言えば?」

「うん、そうする。響人も鈴葉って言ってね」

「うーん、じゃあ、園葉がいる時と、学校にいる時ね」

「なんで」

「なんでって言われても……、やっぱり恥ずかしいんで……。つうか、やっぱり無理。藺山にしてくれ」

「ふふ」


「じゃあ、そろそろ帰るね。ずっと本読んで頭使ったから腹減った」

 湯山と別れて家に帰る。

 これで大型連休は終わりか、かなり楽しかったんじゃないか? ていうより、驚きの連続だったな。

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