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プロローグ

何も考えずに書きました

誤字は疲れてないときに直します

 人は死んだらどこに行くのだろう。

 目の前の「霊魂案内人」は天国に行くと言った。

 天使と言うにはビジネススーツが板についている七三ヘアーの男性姿の霊魂案内人が、シルバーフレームの眼鏡を押し上げて小刻みに頷いている。

「天使もいるのですが、他にもいろいろいまして。私もその一人です」

「はぁ、とりあえず転生の順番が来るまで天国で待ってればいいんですか?」

 霊魂案内人は頷いた。背景が真っ白なせいで、やけに怪しく見える。

 今いる場所は天国への入り口らしく、白い空間が広がっている。意思の力で前後左右上下に動ける不思議空間だった。

「ハナ様ですと、ざっと百年ほどで順番が回ってきますね。前世から積み上げてきた徳が多いので」

「いや、そう言うのいいので。寝たいというか、疲れたというか。そんなに早く転生して良いことなさそうと言うか……」

「まぁまぁ。貯まったポイントで俺つえーとかもできますし」

「いや、天国にそういうの求めてないんで」

「お求めのスキルなどありましたら、おっしゃっていただければご用意できますよ。いろんな世界の法則を使えますので。皆さん魔法など使って楽しんでいる様子ですし」

「いや、だからいらないし」

「そうおっしゃらず!」

「だらだらしたいんです」

「そ、そうですか」

 眼圧を強めて言えば、霊魂案内人が視線をそらした。

 こういう押し売りっぽいやつに二時間もセールストークされた事があったが、天国と言えど、無駄なものを買ったら後でどんな恐ろしい目に合うかわかったもんじゃない。

「いえ、私共は安心安全慈悲の塊ですので、そういうの全く考えていませんので」

「とりあえず百年ほど寝ます。天国連れてってください」

「う、ではこちらへどうぞ。気が変わったらいつでも言ってくださいね!」

 信用を得られず打ちひしがれた霊魂案内人は「ノルマが……」などなど言いながらすっと動き始めた。宙を滑るような動きについて行くと、大扉が現れた。薄青い水晶でできた門は正方形で、左右対称の飾りがつき、中心には24分割された円にツタが複雑に絡まった模様が特徴的だった。

「おい、こいつの能力は何だ?」

「口が悪い白猫……」

 手のひらサイズの猫がじろりとハナを見た。背中に毛と同じ色の羽が生えていて、緑色の目をしている。

 霊魂案内人はもごもごと口の中で言葉を遊ばせる。

 見ていた白猫は、腕組みをして深いため息をついた。

「なにやってるんだよアンタ、何も取らせないってどうかしてるぞ」

「いえ、それがいらないの一点張りでして……」

 へこへこした霊魂案内人を見ると白猫の方が格上のようだった。まさか天国目前でこんなものを見る羽目になるとは思いもしなかったが、世知辛さは世の中だけではなく死後も支配しているらしい。つらみ。

 半目で見ていると、すっとこちらを向いた白猫が近づいてくる。腕組みしたまま。

「とりあえず何か取れ。じゃないと生活が大変だぞ」

「天国なのに何を生活するってんだ」

「……説明してないのか?」

 顔だけ振り返った猫は嘆息して戻す。

 背後の霊魂案内人は仕事ができないみたいだ。

「天国ってのは面白おかしく暮らす場所だ。拒否するなら地獄に落ちろ」

 強制的に楽しく暮らさなきゃいけない天国って一体何だろう。

 地獄じゃないか。

「百年寝っぱなしになる布団ください」

「ねぇよ。あと、他のやつもいるから、何も取らねぇと馬鹿にされるぞ。ガキみたいなやつもいるから面白くない事になる。天国っつても甘くねぇんだよ」

「天国とは」

「舐めてるとぶち殺すぞ」

「死んでるのに……」

 理想と現実の天国は違ったみたいだ。

 死んでからも苦労の連続なんてどういうことだ。こういうことなんだろうけど。

 仕方なく霊魂案内人から分厚いスキルブックをもらう。

「日本の皆さんには、この本が人気なんですよ。RPGお好きでしょう?」

「天国ってRPGじゃないんでしょう?」

 言えば撃沈した霊魂案内人が「で、ではこの中から選んでください」と電子パネルを見せてくる。天国もハイテク化が進んでるのか。

 直径三十センチくらいの正方形のパネルを見ると、中にはジャンル選択画面がある。

「ところで私、ご飯とか食べなくていいんだよね?」

 猫が答える。

「そうだな。食っても食わなくてもいい。何か交換できるものがあれば珍しいものと変えてもらえる事もある」

「天国って現実とあんまり変わんないんだね……」

「前世で叶えられなかった夢を実現できるぞ」

 生きてるときに思っていたことは、全部しょうもない事だった。ただ、死ぬ前に行きたかった温泉旅行は惜しかったな。

「じゃあ、庭と温泉つきの一戸建てください。家具類全部完備で」

「喜んでー!」

 息を吹き返したように言った霊魂案内人。

 ノルマ達成なんだろうな。

「おい、家の維持に魔法も取っとけよ」

「え、天国なのに老朽化するの?」

「現実と懸け離れすぎると精神がおかしくなるぞ。転生する前に変質すると良くないんだよ。今は人数も多くて待ち時間も長いしな」

「頑張れよ」

「お前に手伝わせんぞ」

 それは嫌すぎる。

「魔法ってどんなのがあるの?」

「なんでもある。ポイント使えば簡単に覚えられるしな。あと、お前が転生すれば魔法は全部塵になる。使わなくても覚えられるが、法則の勉強からだぞ」

「じゃあ、サルでもわかる魔法の学習本とか一式ちょうだい」

 本だけもらって覚えない。これで行こう。何かあっても調べればなんとかなるだろう。ならなくても引きこもって寝れば良いし。

「それなら家に本を付属でつけておきますね。あ、池とかもつけませんか? 釣りとかしたくなるかもしれませんし」

「じゃあお任せで」

「畑も広げとけよ。格納庫も」

「なんで」

 じろりと白猫がハナを見る。

「言ったろう。魔法は転生すれば塵になるって。うまい店があっても経営者がいなくなれば全部パーだ。ハンバーガー、フランクフルトにポテトサラダ。ドレッシングのサラダに味噌キュウリ……格納庫は時間が止まる。大量に作っておけばだらだら間食できるぞ」

「うっ。レシピ本とかも完全完備がいい」

 ハナの性格を掴みつつあるな。

 白猫と霊魂案内人は顔を見合わせ、しばらくコソコソと話し合うとハナの方を見た。

「レシピブックはお店のものも入れておきます。それから、この規模だと一人で住むにはいささか大きくなりますが、十分ポイントは足りるのでご安心ください。料理の材料調達ですが、天界には様々な世界の生き物がいます。殺してはいけない動物にはマークがありますので」

「んじゃ、ここにサインして行くぞ」

 少し疑問に思ったがペンを差し出されて「根酒ハナ」と書く。

「お前がしばらく困らないように、サポートで僕が付く。リーベだ。よろしくな」

「ペット……」

「ちげぇから。気安く触るなよ」

 伸ばしかけた手を前足で払われる。

 ハナは促されるままに門をくぐった。



「や、今回はどうなるかと……おっと隠れなければっ!」

 霊魂案内人は慌てて門を消し、自らも透明となた。

 とたん、視界に怒り心頭の天使が舞い降りる。六枚羽の天使は杖を振り回しながら怒声をあげた。

「また異界から盗まれた! 一体誰だ、こんなことをするのは!! 必ず見つけ出して八つ裂きにしてくれる! ああ、哀れな魂がまた一つ増えてしまった。神よ、お許し下さい!」

 そう言うと、天使は純白の翼を広げて去って行った。

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