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6.私は、思い出を鍵にする

『今までの 強く 深い おもいで』

「思い出? 確かに習ったけど」


うんうんと光る蝶々さん。

これはやっぱり。


「弾けって事だよね」


自分の記憶より小さく感じるな。


『ねぇ、ひぃちゃん! レッスン明日だよ。練習しないと』

『不味いよねー』

『わかってるなら今からでも弾こうよ!』

『なんかなぁ』

『ほらっ、一緒に練習しよ!』

『えー』


真面目にコツコツ積み重ねていく六花とは違い好きにも波が、ようは気乗りしないと使い物にならない私。まぁ粘り強い六花の勝ちで結局練習するんだけどね。


そんな会話を思い出して驚いた。いやに鮮明で不思議だな。


なんとなく構えてみて音を出してみれば、ハンカチを顎の下に敷きたいなんて思う自分。


…弾いてみようかな。

気持ちが懐かしさが強くなって。


「あーの音ちょうだ…って」


もう、声をかける相手はいないのに。


ーーン


「蝶々さん、ありがと」


頭の中に欲しかった音を送ってくれた。そんなやり取りをしていたら。



「おいっ! あれ見ろ! 今までいなかったよな?!」

「ああ! 誰だ? あのマントの色!」


なんだか周りが騒がしい。

けど、やめられない。


意識的に周囲を遮断。弓を弦にあて、ゆっくりと記憶に任せてすべらす。サイズも合ってない。それを差し引いてもぎこちない。


弾きながらヴァイオリンに話しかけた。仲良くしようよ。ちょっとの間よろしくねと。何を言ってるんだかと思われそうだけど。


~♪


でも、少し柔らかくなった気がする。指もほぐれて動くようになって楽しくなってきた。


短い曲を何曲か奏でた頃。


「あれっ」


手にしていた弓の感覚は消え、緑色の光が集まってきた。


私の身長くらい細く長い。淡く光る緑の棒は、上にはお洒落な透かし模様のデザイン。下の先端は細かくギザギザと複雑そう。これはズバリ。


「鍵だ!」

『そう ヒイラギ ここ 感じた色 作る鍵 使う』


えっと。


「私がイメージした鍵の色になるの? 鍵ってことは閉めてって事だよね。でも鍵穴は?」


ぐるりと探したけど、周囲は長く続く塀とその先は草原だ。ドアなんて物はないような。


『解放する すぐ 閉めて じゃないと 溢れ出す』

「ならやっぱり、ドアでも出すの? えっ!」


違った! 足元に小さな穴が。そこから勢いよく赤い物が吹き出した。思わず後ずさる。


「何これ!?」

『良くないの 多すぎる 駄目 閉じこめ 良くする』


おろおろしているうちに公園の口で水を飲むタイプのハンドルをマックスにしたようになって。もう私の背はとっくに越えている。


怖すぎる! 得体が知れない真っ赤な色も嫌だ!


『早く 早く』


蝶々さんが私の回りを飛び催促しはじめた。


「ううっ。分かりましたよ。約束は守る」


距離を置いていた穴にへっぴり腰で近づき。狙いを定めて。


「えぃっ!」


穴らしき場所に差した。でも、これって。


「まだなんか吹き出てるよ! 鍵閉めるって回すの? どっち回し?!」


赤いのが何故か液体のはずなのに私にへばりついてきた。生き物なの?


『回し押す』


もう、どうにでもなれ。


左に回せば、カチリと大きな音がした。でも押すって言ったよね。差し込んだまま押してみると動いた。体重をかけて押していく。


「これ、また最後はいんないよ」


あの鏡の時と同じだ。


『早く 鍵 壊れる』


焦るように小刻みに上下する蝶々さん。そんな事言われても。


「手を止めるな」


声と同時に私の握っている棒の上に二つの大きな手。


『早く』


蝶々さんの声で我にかえった。いいや。全部後回し。とりあえずお礼は言おう。


「ありがとうございます! せーの!」


さっきの音なんて可愛らしいものだった。先端の飾りを残し派手な打ち上げ花火に似た音とついでに緑の光まで発生して。


「綺麗だけど、この光は何?」


搭の縁から身を乗り出せば、幾つもの光る緑の線が遠く先が見えないくらいのびていて。所々に模様も刻まれているみたい。


「なんか世界規模の魔方陣?」

『世界の 基礎 遥か先に また鍵 かける』


まさか。


「この何本もある線の先にある鍵穴に鍵をかけろと?」


目につく範囲だけでも、かなりの数だ。毎回あの気持ち悪い赤いのとご対面なのと暗くなっていたら。


『ヒイラギ 縁 できた その男 一緒 鍵かける』


蝶々さんが不吉な台詞を吐いた。私は、忘れていた存在を確認する為に向きたくない方向へ嫌々ながら首を動かせば。


とっても不機嫌な、緋色のマントの持ち主がいた。


えっと。


「蝶々さん、それは出来かねる」


緋色マントさんに頂いた視線で魂半分抜けそうです。



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