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54.私の異世界での二回目の誕生日は

皆が寝静まった夜。私は、普段人前では見せたことのない腕時計を腕につけていた。淡い光の中で秒針とにらめっこ中だ。


3・2・1


電波時計に記されている日付が変わった。


「ハッピバースデーテューユー♪ ハッピバースデーテューユー♪ ハッピバースデーディア…」


控えめなノックに私は小さく口にしていた歌を中断し、扉を開いた。


「すまない。こんな時間になってしまった」


ひんやりとした空気をまとわせ温室に入ってきたフランネルさんは、かなり疲れて見えた。


「髪、いくら短いからって風邪をひいちゃいますよ」


奥の棚から清潔なタオルを出して彼の髪を拭くようにと腕を伸ばしたけど背の高い彼の頭に到達するわけもなく。


「ありがとう」


私の背伸びをしていた状態にすぐ気づき、なんの気負いもなくお礼を言われて体を屈めてきた彼の仕草にちょっと嬉しくなった。


と思ったのもつかの間で。


「後は自分で」


タオルから手をゆっくりと離された。やっぱり嫌だったのかな。やんわりだけど拒否された事にチクリと何かが刺さる。



* * *



「施設は予想より早い段階まできているな」


「はい。皆さんの協力もあって、落ち着いてきたかなと思います」


身寄りのない子供達に衣食住だけではなく将来の事を考えた職業訓練校をその近くに建てた。訓練校はモデルスクールとなり、春が来る頃にはあと数校増える。


これには後ろ楯となったヴァンフォーレ家だけではなく講師役を勤めてくれた方々の力も大きい。


「シンシアは迷惑をかけていないか?」


フランネルさんは、まだ疑っているらしい。


「とんでもない。礼儀作法や刺繍の講師をして下さりとても感謝しています」


私の長い道のりであろう施設の計画に彼女はなんと無給で手伝うと言ってくれたのだ。勿論少ないけど支給はしている。


シンシアさんは、生粋のお嬢様で格が違った。その無駄のない美しい動きや見事な刺繍の腕、意外にも時に砕けた口調にと子供達から大人気である。


「色々な力が集まっている」


「え、ああ、これですか?」


仕事の話は終わったので収穫した種を光にかざしながら半分はその宝石のような煌めきに見惚れての選別をしていた私は彼が見ている物を手渡した。


「お屋敷の方達が私の元いた場所で妹とお揃いの玩具だったんですと言ったら、光を注いでくれました」


『お二人に幸せが降りますように』

『穏やかに健やかに過ごせますよう』

『ご家族共に幸あらんことを』


皆、言葉といっしょに水色や黄色、緑など人それぞれ違う色の光を手から出たしコンパクトにかざしてくれた。


「昨日、違った。今日は、六花りっかと私の誕生日なので嬉しかったです」


聞けばフランネルさん達みたいに力の保持量が多い人なら効果はでるけど一般市民のそれは、特に放たれた光に効果はないらしい。


「皆のくれた光はとても綺麗でした」


何の力もなくてもいい。

気持ちが嬉しい。


やっと最近無条件な好意に慣れてきた気がする。


「ヒイラギの国では誕生日の度に祝うのか?」


「はい。特に七五三と成人の歳は特別です」


この国では成人、男女共に17歳の時だけお祝いをすると習った。なんかちょっと寂しいけど風習の違いはしょうがないよね。


「あの」

「私もまぜてくれないか?」


大きな手がコンパクトにかざされた。水色の光が強く放たれた。他人から見れば、ただのコンパクトなのに凄い高価な品の扱いだ。


「何を想ってくれたんですか?」


返されたコンパクトを受け取りながら小さな好奇心が生まれ少し勇気を出し聞いてみた。


「想像にまかせる」


食い下がっても教えてくれなかった。

気になるなぁ。


「おやすみなさい」

「戸締まりをするように」

「はい…フランネルさん?」


フランネルさんは、玄関と呼んでいる扉の前で止まって私の頭を撫で髪に指を通した。


「さんはいらない」


つい、いつもそう呼んでしまうのだ。


「…フラン」


なんとか頑張って口にしたら、彼の顔が目の前にあって。


「おやすみ」


頬っぺたにキスされた。

結婚して一年近く、いまだ夫婦の真似事な状態で。主に温室で寝ている私がいけないんだろう。


「おやすみなさい」


離れていく指と微かに笑った顔。もの足りなさそうな、私が絶対勘違いしているんだけど、その顔はとても名残惜しそうに見えてしまった。



* * *



「私も寝なきゃ」


玄関で彼を見送り伸びをしながら戻りかけた時。


「光ってる?」


玩具のコンパクトから黄色の光が溢れていた。この色。


恐る恐る手にとり、ゆっくりとコンパクトを開くと。


「眩しいっ」


目を開けているのが辛い程の光で、細めてしまった。でも次に見えたモノで無理矢理目を開いた。


だって、そこには。


「りっちゃん…」


コンパクトの鏡の中に六花がいた。





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