5.私は、何をすればいいの?
そんなに時間は経ってないと思う。喉は痛いし鼻水と涙できっと顔はひどい。これじゃあ六花の事言えないな。
「うわっ」
脇のあたりに何か来たと気づいた時には、逆さまになっていた。
「訓練の妨げになる」
声からして緋色のマントを貸してくれた人に間違いない。
「団長ー! 訓練再開させますよー!」
肩に担がれている私は、苦しい態勢ながらも、どでかい声がしたほうに顔をなんとか向けようとするが、次の言葉でやめた。
「顔を見せたくないのでは?」
そうでした。
* * *
なにやら暗い細道を通過し、地面がでこぼこの石じゃなくアイボリーの磨かれた石に変わったなというか、この体勢に限界がきた頃、下ろされた。やたら慎重で、ちょっとあの怖そうな人がと内心驚いたのは、勿論口には出さない。
なんとなく目を見て話す元気がなくて自分の借りたルームシューズを見ていたら、感情のない声で聞かれた。
「部屋の場所は覚えていますか?」
寝てた場所。
「バルコニーからしか出た事がないのでわかりません」
答えた直後、なんか強い視線を感じる!
もしかして怒っているのかな?
沈黙が間が辛い。と思えば、下を向いていた私の前に手袋をした大きな手がうつり逃れる間もなく、それはマントの結び目を丁寧に解いていく。白い手袋に、暗い赤い色の服の袖には豪華な刺繍が見える。
格好いいけど、さっきの訓練場には合わなさそう。ぼんやりとしているうちに、金色の紐は完全に解け、マントが外された。
とりあえず建物まで連れてきてもらったのは、正直助かった。あとは、その辺の人に道聞くことにしよう。
「えっと、ありがとうございま…ふぶっ」
頭を下げようとしたら上から何か降ってきて、それは、今借りていたマントだ。
「あの、これは?」
返事がくるまえに、体が浮いた。
「人がいる場所を通ります。貴方の服装は外を出歩くには不向きだ」
確かに顔も酷いけどパジャマというか丈の長いストンとしたワンピースだけど。非常識なのかな。
「すみ…ありがとうございます」
とりあえず、送ってくれるのは助かるのでお礼を伝えた。担がれた時より格段に居心地がいい。なんだか眠くなる。
そういえば、私、これから何をすればいいのかな?
寝落ちそうになりながら、そんな事を考えていたら訓練場でいなくなった蝶々さんが、いきなり現れた。
「あっ、蝶々さん」
『今、試す? できる』
頭に入ってくる声
「試すって、何を」
何をするの? と言い終わる前に視界が変わった。
「うわっ、浮いてたよね」
横抱きから、姿勢を正したと同時に、ふわりと着地した。
凄い。って喜んでいる場合じゃない。強い風が借りているマントをはためかすので飛ばないように急いで胸元で結んだ。絡まって上手くできなかったけど、とりあえずいっか。
『この国 名 グラス 今 いる搭 昔作られた 城壁の一部 なる 』
蝶々さんに言われて、回りをぐるりと見た。二重の壁で内側には立派なお城と規則正しく並ぶ茶色い煉瓦作りのような建物が無数ある。そして二枚つめの壁との間も色が灰色の建物が。その先は。
平らの草原に茶色い色の線が何本か見えるけど道かな。
「ここ、一番高い場所だ」
雲ひとつない青空とずっと先がわからないほど広がる草原の緑はとても綺麗だ。
『少し 前 草ない 人 血 流した たくさん だから かえた』
風が強いのに、ゆったりと浮いている蝶々さんは途切れながらも教えてくれる。
「えっと、蝶々さんが綺麗にしたの?」
そうだと強く光った。
「うーん。じゃあ私は、何をすればいいの?」
蝶々さんが、凄いのは理解した。というか普通じゃない存在なんだなと訓練場でなんとなく気づいていた。
なら、その蝶々さんが出来ないような事って何だろう?
「え?!」
自分のお腹辺りが光だしていて、何かが出てきた。
『ヒイラギ 鍵 かける 者 』
手に掴んだそれは。
「──ヴァイオリン?」
それも子供用の物だった。