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47.*私は捕まる*

扉を開けたくなかった。


でも、家主は彼だ。そっとドアを開くと浅い息をしている制服姿の彼がいた。


「今、帰宅したんですか?」


日付はまだ変わっていないけれど、かなり遅いし急いで帰ってきたように感じた。息を乱しているフランネルさんなんて滅多にない。


仕事で何かあったのかな。


「ああ。いや心配ない。城で何かあったわけではない。ただ話がしたい」


よかった。


自分がいた場所とは違うこの世界、この国は現在は平和だけどいつ何が起こるか予測がつかない。


「ヒイラギ」


名前を呼ばれて彼を見た。話って何を話すの? 数日前にも言われたけど微妙な空気のまま話をする事はなく終わった。


「入っていいか?」


変なの。

この屋敷内は全て貴方の所有物なのに。


変だな。

この人から他の女の人の話を聞きたくない。

私は、話なんてしたくない。


「嫌です」


私の声は夜の静けさの中によく響いた。


「来ないで下さい」


大きな手は私の肩に触れる寸前で止まったはずだったのに。


「嫌がる事はしない」


踏み込まれ頭を抱えられた。


大きな手が頭を撫で背中へと移動していく。あやすような仕草に頬に当たる冷えた硬めの生地、嗅ぎなれた微かにする石鹸の香り。


──駄目!


「どうした?」


思いっきり両手でフランネルさんの胸を押した。自分ではかなり力をいれたけど、少し離れただけだった。でも扉の外に一歩下がることになったので、私は急いでドアを閉めようとしたのに。


「何故目を逸らす?」


あと少しで閉じるはずの扉は、フランネルさんの片足が入り込み叶わなかった。


どうして放っておいてくれないの?

邪魔しないから一人にさせて。


「何故泣く?」

「…え?」


戸惑いを含む声にわけが分からず聞き返し、そしてやっと気づいた。ドアノブを掴んだ手に滴が落ちているのを。それは増えていく。


「うわっ」


下を向いていたので、いきなりの浮遊感に思わず目の前の物を掴めば彼の肩だった。彼越しに扉が閉まり鍵の音がした。


「入るぞ」


ソファーに横抱きに抱かれたまま。


「離して下さい」

「断る」


そんなバッサリ切り返さなくても。


「泣くな」


顎を上げられ、あまりの顔の近さに驚く間もなく温かいけれどぬるりとしたものを頬に感じた。


「なっ!」


その正体は、フランネルさんの舌だった。


「泣き止むのが早いな。次回からそうしよう」


泣けば舐められるって事?!


「嫌です!」


キッと睨めば、そこにあるはずの冷たい顔はなく、クスクスと笑う、ありえない姿を見て固まった。


「そのほうがヒイラギらしい」


私を見るその目は優しい。


「抱え直さないで下さい!」

「逃げられたくない。それに暖かくて落ち着く」


いつものフランネルさんと違いすぎてついていけない。


「時間はとらせない」


だけど、低くいつもの口調に戻った彼の声にもう話を聞かない限り彼の腕は緩む事がないと私は悟った。





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