44.*私は諦めた*
私は、今になってこの状況の意味が理解できなかった。
とにかく理由を聞きたい。
話をしたくて意思表示をする為に両手でフランネルさんの胸を押せば、その手は掴まれ固定されてしまった。加減してくれているのか痛みはないけれど圧倒的な力の差を気づかされる。
怖さがないと言ったら嘘になる。だけど、ふとお城で耳にしたお飾りの妻という陰口を思いだした。ならば、このまま流されればいいのかなという考えが頭の中を過った。
「すまない」
唇から違う場所へと移動して暫くしたら、ふいに小さな謝罪の言葉と共に自分にかかっていた重みが消えた。
「どうして謝るんですか?」
夫婦だったら普通の事だよね。むしろ遅いくらいだ。というか、自分がそういう対象になりえる存在と思っていなかったから驚いたけど。
「ベッドに連れてきたのはフランネルさんなのに。何でそんな顔しているんですか?」
目の前にいる人は、悲しそうな苦しそうな顔をしていた。思わず彼の頬に手を伸ばせばお風呂上がりのはずなのにひんやりと冷たくて。撫でたらその顔はもっと歪んだ。
今までこんな顔、見たことなかった。
「さっき、庭に出て偶然見つけた場所があるんですけど、あの珍しい作りの建物は温室ですか?」
「…ああ。父が昔使用していた場だ」
やっぱり温室なんだ。
「私は、高価な服も食べ物もいらないので、あの建物をお借りする事は可能でしょうか?」
私は、フランネルさんに近づきたいと思っていた。でも理由はわからないけどこんな顔をさせたのは私なんだよね?
そんな顔させてまで距離をつめるつもりはないよ。
「使えなくはないと思うが随分手入れをしていない」
「構わないです」
屋根が雨に濡れない場所ならいいよ。
「明日から借りますね」
お飾りの奥さん、期間限定の聖女から解放してあげるね。
──もう、私の存在は忘れていいよ。