40. 私は、驚く
「お店屋さん…かな」
「何か気になる物があったのか?」
街についてからは、フランネルさんが宣言した通り、お洒落なアクセサリーのお店や可愛いカフェ、噴水と花が沢山咲いている広場で屋台の食べ歩きをしたり。
映画でもなく遊園地でもないデートコースは、売られている食べ物が物珍しかったり、また道行く人々の服を観察したりと思っていた以上に楽しかった。
* * *
空の色が深いものに変わり、そろそろ帰ろうかという時に、その扉を見つけた。大通りの脇道の壁に無理矢理ドアをつけたような、その周辺だけいやに違和感を感じた。
「入ってもいいですか?」
「私が開けよう」
怪しさ満点。だけど、とても気になった。その様子に気づいたフランネルさんは、先に足を進めドアのとってを掴み勢いよく引いた。
リンッー
軽やかなドアベルと共に室内へ恐る恐る入り、フランネルさんの後ろから除き見るとそこはなにやら不思議な物ばかりが置かれていた。
骨董屋さんという感じかな。
「いらっしゃいませ」
いきなり聞こえた声に思わずフランネルさんの服を掴んでしまい、慌てて放した。
「あ、今日は」
今晩はになるのかなと思いながら声の主方を向くとそこには、とても綺麗な女の人が立っていた。
「ここは何屋だ?」
フランネルさんは、私も知りたかった事を店員さんに聞いてくれた。
「この店の名は、マリアージュ。この店には限られたお客様しか入る事ができません」
「限られた者?」
とっても怪しい。フランネルさんも警戒している。
「はい。私は、店主のマリーと申します」
でも、この人は、悪い人に見えない。綺麗な明るい葉っぱの色の瞳と私よりも艶々で緩やかなウェーブの長い髪の女の人はとても生き生きとした裏表のなさそうな感じにみえたのだ。そんな時、懐かしいような匂いが、というか。
「なんか、焦げくさいような」
「あっ! いけない!」
私の独り言に反応したマリーさんは、大きな瞳をさらに見開き慌てだした。
「今、試作を作っていたのですが、焼きすぎたのかしら?! ヤキオニギリという名だから時間をかけて焼くのだとばっかり思っていたのに。少々お待ちくださいませ!」
小走りで小さなカウンターの奥へ消えていくマリーさんの姿を目にしながら、私は、今聞いた言葉に衝撃を受けていた。
「ヒイラギ? 具合でも悪いのか?」
「いえ」
私は、フランネルさんが、心配そうに見ている事にも気づかなかった。それよりもマリーさんがヤキオニギリと発した、その言葉に気をとられていた。
「申し訳ございません。これを試作していたのですが、大丈夫でした」
マリーさんが、よかったら召し上がりますかと目の前に出されたそれに、私はフリーズした。
何故なら。
「これ、焼おにぎりじゃん!」
高価そうな楕円形のお皿に置かれていたのは、見慣れた三角のこんがりと焼かれたおにぎりが鎮座していた。