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37.私は、足掻く

「時間を作って頂きありがとうございます」


「いや、構わない。最近、帰宅が遅く話す機会もなかった」


──嘘だよね?


先日、お城に用事があった時、副団長に呼び止められたのだ。


『しなくてもいい仕事を団長はしている。上がそんなだと下も休めなくてね』


ため息をつかれ、訴えるような視線に曖昧に頷き逃げた。また、その日はもう一人会った。


『なんか新婚さんぽくないよねー』


義兄のバースさんだ。


『なんとかしないと不味いよね』


無視をすると決めた私が、目で挨拶をし彼の前を通りすぎる時に言われた。


その時、気分はとても悪かった。でも、その反面思った。


私は、彼を好きなのかな?


静かに座るフランネルさんを眺めながら自分に聞いてみる。


側にいたい、手を繋ぎたい、構って欲しい?


ない。


残念だけど、そんな気持ちはない。


ただ。


「ちゃんと睡眠はとれているか?」


会った時と変わらない表情が乏しい整った冬を感じさせられるこの人は、最初から優しかった。


「今日、ミルレリア様にお会いし提出した計画書です」


気遣われた言葉に返事をせず、私の、まだ理想論だと言われた書類をフランネルさんの前に置いた。


彼は、少し顔をしかめながらも、手に取りめくり始めた。彼が終盤にさしかかったのを見計らい邪魔にならない程度の声で話しかけた。


「それらを更に具体化していく予定です」

「もう、決まった事なのか?」


少し棘を含んだ口調で言われたけれど、構わない。


「はい。許可を頂く為に見せたわけではなく、ただ隠し事のように思われたくなかったからです」


「それで、どうするつもりだ? いずれ離縁でもすると言いたいのか?」


温度の感じない口調に、思わず苦笑いが出そうになったのを堪えた。


「ところで次のお休みはいつですか?」


険しさが深まる顔に、今度こそ笑顔を向けた。


「デート、しませんか?」


口を開きかけた彼を制止させるべく伝えたい事を一気にぶちまけた。


「まだ、デート、お休みの日に一緒に出掛けたりした事ないですよね? 私達夫婦なんですよね? 」


誰もいない二人っきりの今がチャンスだ。


「フランネルさんが、私をどう思っているのかわかりません。同情? 親代わり?」


「ヒイラギ」


「私も、自分の事なのに分からないんです。自分の気持ちが。だから、フランネルさんが言ってくれたように最初から小さい事から始めるのはどうかと思って」


命を絶つのは簡単。

今、この屋敷からいつでも鍵を開け出られる。


「せっかく命をもらい、フランネルさんと、フランネルさんは嫌かもしれないけど縁もできた。なのに私は、貴方の好きな食べ物や趣味すら知らない」


「それと、この施設経営は関係あるのか?」


まだ溶けそうにない氷。


「あります。私は、自分で立てるようになりたい。護られているだけじゃない私になれば、消えたいと思う事も全くないとはいえないかもしれないけど減ると思う。なにより」


「なんだ?」


迷いのない、完璧を形にしたような人。


「対等にとまでいかないまでも、それに近づけば変われる気がするんです」


今は、尊敬している存在。


だけど、働いて自分でお金を稼ぎ、貴方と時折同じ時間を過ごせば。


「好きは、色々な形があってもいい気がするんです」


だって、嫌いじゃないんだよ。


お節介でなかなか死なせてくれなくて。

真剣に怒鳴ってくれるこの人を。


「生意気な事を言ってすみません」


19歳の学歴もない私と28歳の命のやり取りを戦をして生き抜いてきた彼。


本来交わる事がなかったはずな私達。


今日、久しぶりにミルレリア様に会って、そしてフランネルさんの前に座り思った。


「足掻いてみようと決めました」


逃げない。


フランネルさんとの関係もただ護られているぬるま湯の状態も変えてみせる。


もしかしたら、ミルレリアさんやこの人のように凛と背筋を伸ばせるかもしれない。


『ただ最後まで全うするだけ』


ならば、やりきったと後悔しない終わりを迎えたいから。


「だから、まず、恋人ごっこ、しませんか?」



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