33.私の延びた命は
「どうして!」
フランネルさんが、迷わず飛び降りたのを目にし叫んだ。その手は私の腕を掴むとそのまま強く抱えこむ。落ちていく速度が遅く感じ、なんらかの力を彼が使っているんだろう。
でも、このままだと。
「蝶々さんっ!」
この人だけでいいから助けて。そう強く思えばすぐに黄色い光が広がり視界がきかなくなる。
ああ、お願いが通じたのかとほっとするも光がなくなった周囲は、先程いた華やかな自分にとってはとても場違いな所だった。
きらびやかな人達は、突然現れた私達に驚き、護衛騎士達は、雛壇席の陛下を囲み残りは此方に抜きはしてないけど構えていた。
人が多い場が苦手な蝶々さんがなんで此所を選んだの? いまだ漂う小さな光に聞こうとしたらその前に。
「貴方は何をやっている!! 今回で何回目だ? 命を懸けるなと誓いの剣を払うくせに貴方自身はこの有り様だ」
前も同じような場面はあった。だけど、こんなに大声で怒鳴られたのは初めてだった。ビリビリと耳に響く声に怯えないというのは無理だ。だけど、聞きたかった。
「…フランネルさんは、なんで他人の私に命をわけられるんですか?」
浮遊感からの重力の変化についていけず、両腕を掴まれた状態で床に座りこんだままフランネルさんを見上げた。
綺麗な濃い水色は、私を見下ろしていた。
あまり表情がないはずの彼の顔は、今、とても怒っていた。それでもめげずに問う。
「私は、蝶々さんと取引をしました。対価として妹を助けてもらいました」
「知っている」
「なら、貴方は、私に命を分け何をしたいんですか? 私は、何もない」
両腕から手が放され自分の両手を膝の上に広げた。なんのへんてつもない手。
「返すものが本当にないんです」
どうしたらいいの?
「命はお金じゃ買えない1度っきりの大事なもの。私は、だからこの1年近く努力した。引き取ってくれた家に恥じないように。繋いでもらった命だから自分で絶つことはできなかった」
「ヒイラギ」
ゆっくりと立ち上がり、ドレスの裾をなおし、彼をまた見上げた。怒鳴られた時よりは私の名前を呼ぶ声は優しかった。
「この国、この世界で異世界人は私だけ。見た目の色や体格は違うけど、同じヒト。だけど皆さんが気持ち悪がって当然だと思う」
「それは違う」
首を振って否定した。
「違わないですよ。それに小さな残った鍵を昨日まで閉めていましたが、それも終わり私の力は何の役にも立たなくなります」
期限つき聖女とはよく言ったもので、実際その通りだ。
「命を戻すのは」
『「不可能だ」』
私の右肩に移動した蝶々さんとフランネルさんが言いきったから確かなんだろうな。
「ヒイラギ」
両手を大きな手で包まれいまや彼の瞳の中は私を映しているのが見えた。ついさっきの顔が嘘のような穏やかなけれど真剣な顔。
「私は、何も望まない」
「え?」
「私に対価は不要だ」
「…不要」
私は、いらない存在なんだと言われたようなものだった。