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29.私は、終わるはずなのに

「ヒイラギ」


名前を呼ばれた。


きっと気のせいだ。此所は鍵を閉めた時の場所で国内とはいえ数あるなかの一つだった。


小さな青と白の花が絨毯のように咲いており丘のような場所なので、とても空が広く近く感じる。綺麗で解放感はあるけれど特にこれといって目立つ物はない。


だけど私は、鍵を閉める為にこの場に転移した時、最後はここだと即決した。


今、それは希望通り進みあと少しだ。出来るだけ綺麗な終わり方をしたくて、食事を制限し最終的に水分だけをとっていた。準備は完璧だ。


なのに、なんで。


「どう…して?」


「それは私の台詞だ」


身体が浮いたと思ったら、硬いだけど暖かいものに包まれた。


「何故、そこまで頑なになれるのか不思議だ」


呼ばれた声は、幻聴じゃなかったみたい。私を抱えた人は、緋色マントさんだった。


でき損ないの教え子に呆れたと言っているような口調に思わず、余計なお世話だと言い返したいけれど正直そこまでの力は残っていなかった。


彼から逃れたくても私の腕は上がらない。開いているはずの目は、ぼんやりとしか感じとれない。


「この世界、この国は苦痛か?」


私がよく聞こえるようにする為かゆっくり耳元で声が発せられた。


「フローラは、貴方の事を気にかけている。屋敷の者や私の部下達……私も」


だから何?感謝ならしてるって前に言ったよ。それに。


「そこまで…嫌じゃない」


話すのも面倒だ。


「フラン…ネルさん?」


胸元に強い圧迫感を感じた。蝶々さんのお陰で苦しさは感じずゆっくり逝けるはずなのに。


「ならば生きろ」


胸元から強い熱い何かが駆け巡る。


「やめ…て下さい!」


奇跡は滅多に起きないから奇跡と言う。

なら、彼は私を終わるはずの命を繋げようとしている。


無から有はない。

ならば?


「やめて!」



最後の力を振り絞って声にした。

蝶々さん!

なんとかしてよ!

この人を止めて!



「ヒイラギ、最初からだ」



私の声は、蝶々さんにもフランネルさんにも届かなかった。




* * *



眩しい。


「……生きてる?」


目を閉じていても明るさを感じ開いてみた。無意識に光を遮っていたらしい腕を外し手を開き握る。視線だけを動かせば、シンプルだけど豪華な調度品が目に入った。


此処は何処だろう? フランネルさんは大丈夫だったのだろうか?


いまだ働かない頭でぼんやり考えていた時、ノックの音がし、返事をする間もなくドアは開き一人の50代くらいの女の人が入室してきた。


優しい柔らかい表情。その女性がゆっくり近づきながら話しかけてきた。けれどその顔はすぐに陰りをみせた。


「わかりません」


いまや柔らかい笑みは悲しみの顔に完全に変化した。何故なら私は、違和感なく読め話せた言葉を失っていたのだ。


「ごめんなさい。話されている言葉が理解できません」



──私は、どうしたんだろう?






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