23.私は、静けさのなか赤面する
『人 いない なら いいよ』
「蝶々さん!」
呼べば黄色い見慣れてしまっている光が現れた。確かにペット化しているかも。
私は、蝶々さんに口には出さず、残りの日数は絶対言わない、また私の事は教えないようお願いと伝えたら蝶々さんは強く点滅した。
「可能だろうか?」
フランネルさんが蝶々さんから視線を私に移した。
「はい。人がいない場所ならいいよと言っています」
そこで私は、肝心な事に気がつきフランネルさんに試してもらう。
「私は、いつも蝶々さんの言葉が頭に入ってくる状態で会話しているので周囲には聞こえてないと思います。他の人も可能かどうかフランネルさんも口に出しても、どちらでもよいですが試したほうがいいかもしれないです」
出来なかったら連れていってもただの散歩にしかならない。いや、灯りくらいにはなるかもしれない。というか、蝶々さんと何を話したいのかな。
フランネルさんの目線に移動した蝶々さんは、しばらく無言だったけど、終わったのか私の側にふわりと戻って来たので手のひらをだせば降りてきた。
『ヒイラギ 明日 朝 この人 一緒 鍵は その後』
そう私に伝えると消えた。蝶々さんって家があるのかな? 会ってから何日も経つけどあまり深く考えてこなかった私は、今になって色々疑問が出てくる。
「ヒイラギ、会話は問題なかった。ただ明日の鍵は午後に」
「はい。消える直前に蝶々さんが言ってました。食器は執事さんに聞いてみます。では…また」
返事をしながらも聞いてみたい事に気をとられた。でも、私がいるのは明後日迄だし今更か。挨拶をし出ていこうとすれば呼び止められた。
「何か言いたい事があるなら聞くが」
「え?」
変わらずの無表情な人が。いや、ちょっと首を傾げてる。
……なんだか最近この人の僅かな動きに気づく自分が嫌だ。
「言いたいというか不思議に思って。何で蝶々さんの話を皆は疑わず信じるのかなと」
蝶々さんは、わるいモノじゃない。ただ私はなんとなくそう思うだけだ。でも他の人達は会話すら交わすことがないのに蝶々さんは、驚かれることはあっても怖がられたりはしないのだ。
「貴方の呼ぶアレは素の塊だ。そんな者は存在しない。私やロイズなど他者より強い力を保持する者はいるが、全ての色を持つ生き物は存在しない。よってアレは古代の生物、この地を守る何かだろう。また気づいてないようだが、貴方も全ての色を持つ」
「えっ?! 魔法なんて使えないけど。しかも私は人なのに! あ、ありがとうございます」
私がドアノブに手をかけるより一足早く背後から腕が伸びドアを開けてくれたのでお礼を言えば、なんとなく空気が緩んだ気がして、つい振り向いてしまった。
「貴方がこんなにも話をするとは思わなかった」
会話くらいするよ。
「失礼した。悪い意味ではない」
廊下は静まりかえっていて、壁にある規則的に配置されている花を象ったガラスからほのかな灯りのみ。
「部屋まで送ろう」
ほんのちょっと、この微妙な暗さと無音を嫌だなと思ったのを見透かされた気がして恥ずかしくなった。
フランネルさんも私以上に疲れているに違いない。しかも屋敷内なのにビクついてる私ってないよね。
「今いる場所も分からないだろう? おいで」
右手をとられいつの間にかフランネルさんは、私より前に出て歩き出した。大きな手に握られ緊張する反面この手に安心する自分がいて。
……おいでって言われたの、恥ずかしいな。
「ありがとうございます」
お礼を言えば此方をちらりと見て微かに笑ったようだった。
顔、薄暗くても赤いのがばれちゃったかな。
落ち着かないけど手の温かさが気持ちよくて。部屋の前で手を離された時、寂しく感じた私は変だよね。