19.私のタイムリミットは
「一日二回も力を使い体調は大丈夫なのか?」
寝坊し、お昼ご飯が朝食になってしまった私は、仕事で一度また騎士団に行くという、緋色マントさん、フランネルさんと食後のお茶を頂いていた。
「はい。手伝ってもらうと消耗が少ないので問題ないと思います」
いい加減フランネルさん呼びでいきたいけど、なんとなく心の中では緋色マントさんという呼び名が離れない。
なんだろう。フランネルさんが何か言いたそう。でも躊躇っているようにも見えて。
間違っているかもしれないけど。
「あと5日です」
フランネルさんのティーカップを持つ大きな手はピタリと音がしそうなくらいに空中で停止した。
「あ、今日をいれてです。あと少しの間お世話になります」
「そうか」
止まった左手は優雅な動きを取り戻しカップは、ソーサへ音もなく着地した。
彼の視線は、どこを見ているのかわからない。疲れたのかな? 私の腕の傷を治癒で治してくれた冷たい水色を持つ人は上の空で、こんな様子は初めてみる。
でも、ちゃんと話せる機会は少ないので今のうちに言わないと。
「それで、お願いが二つあって。食事を明日からスープなど飲み物だけにしてもらえますか? そのほうが力を出しやすいので」
あとは、鍵を貸してくれたけれど念のために。
「ピアノ、名前が違うかもしれませんが、今日からお借りしても大丈夫ですか?」
首からぶら下げていた鍵を見せながら聞いてみれば、やっと視線が向いてくれた。
「食事は調理の者に伝えておこう。あれはピアノではなくヴィトという名だ。深夜以外ならいつ弾いても構わない」
長い指は鎖の先の鍵を指していた。
「それを握れば、場所を示す。転移でも鍵を所持していれば室内に入室可能だ」
それは便利だ。手でレリーフをなぞり綺麗な石に触れていたら。
「その鍵は貴方に」
差し上げようと言われた。
「えっ?」
フランネルさんを見たら、なんだか表情が柔らかいような。
「気に入ったのだろう? 予備はあるから問題ない」
「でも」
正直とても気に入っている。でも、こんな高そうな物を? なによりも、あと数日でいなくなるしな。
そんな私を見て微かに、でも確かにフランネルさんは苦笑した。
「貴方は何も欲しがらない。なら、一つくらい受け取ってもらえれば此方も気にせずに済む」
なんか、受けとって下さいよという気配は、フランネルさんだけでなく、少し離れて待機の執事さんやメイドさんにまで圧をかけられているような。
きっと気のせいなんだろうけど。
「…ありがとうございます」
* * *
怪我を心配されたけど日にちがないからと、それだけは頑として譲れなかった。諦めたフランネルさんは、鍵を閉めに少ししたら部屋に来てくれる。
『ヒイラギ』
呼び出したとたん蝶々さんは、私の目の前に飛んできて指先に着地すれば無言だ。
「何?どうしたの?」
私の名前を呼んだくせにだんまりの蝶々さんに逆に聞いてみれば。
『ヒイラギ 残り 違う 』
「会話を聞いてたの?」
そうだと光った。何処で見てたんだろう?全く気がつかなかった。
「うん。わかってるよ」
ひらりと今度は私の肩に留まった蝶々さんに囁いた。
「私の残りは、あと3日」
あと少しよろしくねと伝えたら、蝶々さんは何回も強く体を点滅させた。
蝶々さんと遊んでいたらドアをノックする音がし、どうやらフランネルさんのようだ。
「はい!」
私は元気よく返事をした。
私は、彼には絶対リミットを知られないようにしようとドアに近づきながら改めて気を引きしめた。