14.私は、約束の為に生きている
「ヒイラギ」
「あっ。はい」
肩をゆすられて、やっと意識がクリアになった。だけど、その浮上した先には驚きだ。視界いっぱいにフランネルさんの顔があって水色の目はいつもの冷たい目。
「あの、怪我もしてないし大丈夫ですけど」
ちゃんと言ったのに掬うように抱えられ、そのまま近くの椅子にフランネルさんは私を横抱きのまま座った。
シャツの白が近い。そっか。なんとなくわかった。きっと上着が汚れているのに気がついて、怖がらせないように脱いだんだ。
「今、フローラを呼んでいる。私は処理をしなくてはならないので離れるが交代するまではいる」
石鹸の匂いが落ち着かない。こんなに人と密着なんて、六花とだってない。
「この部屋にいますから。言われた通りに従います」
だから、この包まれている状態は嫌だともがいた。可愛くないって自分でもわかってる。震えて護ってもらえばいいのかもしれないけど、そんな気も演技もする気持ちにはならない。
そんな私にかけられた言葉は意外だった。
「何故、生き急ぐ?」
思わずもがくのを止めてフランネルさんを見た。
「鍵をかけるのは早急にしなければならないのか? 寝食を惜しんでまで自国の為だというならば理解もできなくはないが、貴方は違う」
その目に騎士の誓いの時のような敵意はなく、でも温度は低い。
「屋敷の者達は、朝咲きの花を部屋に添えても好みそうな食事を出しても、心からの礼はもらうが貴方が喜ぶ様子を見たことがないと言っている」
そう…かな。飾ってくれる花は綺麗だし、美味しいご飯もありがたいよ。
「私は、約束を守る為にいます」
だから。
「このお屋敷の人達にはとても良くしてもらってます。ただ、返せるあてもない高価な服や装飾品、また豪華な食事は必要ないし苦痛です」
銀色の結ばれた髪が、私の腕にさらりとかかる。もう話すことはないと今度こそ腕を退かそうとすれば。
「ヒイラギの命があの鏡の中の娘を助けた代償か?」
ザクザクと切り込まれた。でもまだ止まってくれない。
「ヒイラギ、貴方は何の為に生きている?」
そんなの。
「二度目になりますが約束の為。それ以外何もない」
特に今の六花の病気が治った私には生きる理由なんてない。
逆に自分のせいで、他の人に影響を及ぼすならなおさら早く鍵をかけないと。フランネルさんの腕はあっさり外れた。
立ち上がり、シワになってしまった服を軽く伸ばす。彼が出ていかないなら私が出ようとドアに向かえば、呼び止められた。
「何か必要な物はあるか?」
ない。と言いかけ視界にはいった、さっき触れようとして叶わなかった隅に忘れ去られている物を指差した。
「あれを、好きな時間に弾かせてもらえますか?」
私の要望はあっさり通った。だけど、その先は予測してなかった。
この緋色マントさんと離れたくなくなる日がくるなんて。そして、なんでこんなに人は、自分は欲張りなんだろう。
そんな事を思うのはもう少し先の話。