13.私は、私の影響力を知る
それは突然、存在していた。
誰?
私は、別に散歩なんてしたくなかったけど部屋にばかりいると周囲が、フローラさんや執事さん達が心配しているように感じたから。
やっぱり止めればよかった。
メイドさんが、お茶を淹れてくれたので椅子に座っていた。一人のはずなのに、今、私の目の前には全身が灰色の服の人がいた。
逃げないと。
でも実際は動けなくて。
「…あ」
目の部分以外は灰色一色の布に覆われているその人の手が目の前まで迫ってきて。
他が一色だから際立つ色は赤。赤い瞳はいまや私だけしか見ていない。
もう捕まるな。
でも、次には消えた。風が私の前髪を動かした直後、鈍い音がした。
「この私の屋敷に侵入するとは」
剣を持つフランネルさんが、低く威嚇するような声をだした。灰色の服の人は、一人だったはずなのに今は二人に増えていた。
「レイヴィル」
「承知致しました」
私の景色は一瞬で変わった。レイヴィルさん、執事さんに抱きかかえられた私は、室内にいた。
移動した? それも一瞬で。借りているドレスが私の着地と同時にふんわりと広がりまた戻る。
「お怪我はございませんか?」
何も言わない私に覗き込むように背の高い身を屈めて全身を目で確認しながら聞かれた。
何かいわなきゃ。
「大丈夫ですよ。この部屋は屋敷の奥で外からは作りがわからないようになっており、護りも強くかかっておりますので」
「助けてくれて、ありがとうございます」
「すぐ終わりますので、この部屋から出ないで下さいね」
「はい」
レイヴィルさんは、素直に返事を返した私の手に、何かを数個握らせ去っていった。
手を開いてみると、小さな可愛い模様の包みが三つ。ソフトキャンディだ。私が好きな味のだった。
カサリと小さな音をたて包みを開き口に放り込む。噛まずに転がせば口の中が甘い果物の味でいっぱいになって。やっと力が抜けた気がして。そんな自分に驚いた。
──私は、怖かったんだ。
ふと、隅にある物に目がいく。近寄ってレースの布をとると見覚えのある形。
「ピアノだ」
迷ったのは一瞬で。飴色の木の蓋をそっと開けると見慣れたでも、少し違う鍵盤だった。キーはすべて同色で塗られてない薄い茶色だ。そっと人差し指で押そうとしたけど。
「無事か?」
それは、入ってきたフランネルさんによって叶わなかった。
私を上から下まで見ているのと同時に、私も彼の、袖についているモノや胸に飛び散っている少だけど、その赤い色を見た。
「聖女?」
私は、それを見て震えた。
襲われたのが怖かっただけではなく、私は。
「…ヒイラギ?」
私は、自分が存在しているだけで人が傷つき合う事があるのだと、例えそれが敵だとしても私にとっては同じで。
この世界に来て私は、今、初めて恐怖を感じた。それはフランネルさんが、私を名前で呼んだことすら気がつかないほどに。
早く終わりたい。
そう強く願った。