1.私は、目覚め追う
『起きて』
『早く 起きて 間に合わない』
誰?
『あなた 大事 人 消える』
私の大事な…人。
「六花!」
いきなり起きたからか目眩がして頭を押さえた。
「ここは」
暗がりで確認すれば自分が寝ていたのは、アンティークのようなベッドだ。
「夜明け?」
鳥の囀ずりは、カラスでもなく雀でもなく綺麗な声。私の服装は足首近くまである、あわせの病院で着替えた服一枚。
「そうだ。りっちゃん!六花は!」
パニックになる私の目の前にゴルフボールくらいの黄色の光が突然現れた。それはよく見ると蝶々の形をしている。
「呼んだのはあなた?」
『早く 付いてきて じゃないと 大事な人』
言葉が単語のように、ぼんやりと頭に入ってくる。
「あっ、待って!」
その蝶々は、大きな窓ガラスを通り抜けていく。急いでベッドから出て足元に置いてあったルームシューズらしき履き物を借り、ふらつきながらその窓へ。
開けたとたん、ひんやりとする冷たく清んだ空気に迎えられた。やはり外の空の色は夜明けぐらいか。
「蝶々さん!」
小さなベランダ、バルコニーからは霧で覆われていてよくわからない。黄色い蝶々は、バルコニーから下へと飛んでいく。
『早く 早く』
高さはマンションの2階くらいだが飛び降りるという行為は無理だった。
『間に合わない』
悩む間にも蝶々にせかされ焦りと苛立ちが生まれる。
「ああっ、もう!」
ふと、半円を描いているバルコニー近くに繁る木の中の一本に目がいった。
いけるかもしれない。
「怖いし痛い」
木登りなんて小さい時田舎でしたくらいだ。落ちたくない一心で手を慎重に下にずらす。
「はぁ。降りれた」
心臓に悪い。でも息を整える時間はくれなくて。
『広い場所 こっち 早く』
私は、ふわふわと飛んでいく蝶々を追いかける為に霧の中を走り始めた。
「はっはっ」
大事な人、六花を助けてくれるという声だけを信じて。