VS 悪魔
ゴードン達の背中を追っていくと、先ほどの酒場から少し離れた場所に広場があった。
そしてその広場の中心……悪魔というには、あまりにも人間すぎる人物を囲んで、武器を持った人々の壁ができていた。
「私の用は勇者のみ。この街に逃げ込んだという情報は入っているんです。大人しく差し出してください」
「知らねぇって言ってんだろ! 第一、顔が割れてる勇者さまってんなら、街にいれば俺らも気づくはずだ!」
「おかしいですねぇ……これは皆さん、嘘をついているのでは?」
「くっ、話にならねぇ……本当に勇者さまがいるなら、さっさと倒してもらいたいぜ」
「貴方達を倒せば、勇者も出てきます……よね? 呼び寄せる為のエサにはなってもらいましょう」
悪魔だ。
見た目は人間だが、中身は悪魔そのものだった。
その時、いつかの戦いの時みたいな声が聞こえた。
『――次に奴は、闇を放つ』
『――視界を失った人間の背後から、意識を刈り取る』
……何だ今の。
周りを見てみるも、俺の方に視線を向けている人はいない。
それに、脳内に直接響くような……。
「では皆さん、さようなら」
「逃げるのか! うっ、しまっ……皆、飲み込まれるな!」
その時、悪魔の周囲から黒い霧が発生した。
霧は、近くにいた男たちを瞬く間に飲み込み…………すぐに霧は晴れたが、飲み込まれた男たちは全員伏せていた。
数秒。
見渡せば、後からきたゴードン達以外の男は、全員倒れていた。
というか、この街の戦闘員って男しかいないのか。
「さて、後は君たちか。君たちなら、勇者の居場所を知っているかい?」
「はっ! 知らねぇなそんなもん」
「では、残念ですね」
『――左から横薙ぎされる』
『――大男以外、立ち上がれない』
……大男というのは、ゴードンのことだろうか。
いや、今はそんな場合じゃない!
「左だ!」
「っ!!」
俺の叫びに、咄嗟に動けたのはゴードンだけだ。
横からの攻撃に対し、持っていたハルバードで、防御する。
そうやってゴードンが防御したおかげか、悪魔の動きは攻撃を防がれた状態で止まっていた。
「何、ですか。今の声は…………貴方ですか」
「うっ……」
ゆっくりと。
獲物を見定めるように、奴がゆっくりと視線を這わせる。
こちらに向けられる全身を撫でるような視線に、思わず身震いしてしまう。
「っ、うらぁ!」
「邪魔です」
防御した体勢のままゴードンが反撃をするが、すぐに返しの攻撃をくらって倒れてしまう。
同時に、先ほどの攻撃を受けなかった数人も倒され、このだだっ広い場所に今立っているのは……悪魔と俺の二人のみ。
おいおい、もっと頑張ってくれよ。
「先ほどの攻撃……貴方、視えてましたね?」
「いや、知らねぇな」
「……ほう、知らないフリですか。では……これはどうですかっ!」
実際、攻撃なんて視えていない。
ただ頭の声に従っただけだ。どちらかと言えば、予想できたというほうが正しいだろう。
『――下からくる……その後、右から蹴りがくる』
『――体勢を崩すが、反撃してはいけない』
……まただ。
しかし、従わなければ俺もやられる!
今は、この声だけが頼りだ。
俺は奴の行動を見越して、左へ転がった。
転がった後、先ほどまで俺の頭があった位置に、奴の蹴りが炸裂した。
あの指示がなければ、聞こえたのは蹴りが空振った音ではなく、代わりに俺の頭が潰れるような音が響いたことだろう。
俺も奴も、今は地面に手を付いたまま、いつでも立ち上がれる状態で様子を伺っている状態だ。
今思うと、魔王といい、悪魔といい……序盤から大物ばかりだ。
初心者らしく、まずはスライムあたりから戦いたいところだが。
「……やはり、簡単にはいきませんね」
「俺には効かないな」
「……なぜ、攻撃を仕掛けて来ないんですか?」
「一見隙だらけに見えるが、カウンターされそうだったからな」
「ほう……これはこれは」
すると奴は、興味を失ったのか、こちらに背を向けて立ち上がった。
チャンスだ!
今なら、反撃は出来ないはずっ!
俺は買ったばかりのダガーを抜くと、奴の背中に投げ飛ばそうと構える。
投擲しようと力を込めた時、またあの声が聞こえた。
『――君は投げた武器で命を落とす』
『――動くな』
っっ!
その声に、強制力はない。
ただ、俺の本能も危機を察したのか、奴に投げつけることは……出来なかった。
お互いに動かないまま、数秒とも、数十秒とも言える時間が経過する。
……これじゃ、埒があかないな。
俺は力を抜き、その場で構えを解く。
それを察知してか、奴もこちらに振り返った。
「なあ、ここは引いてくれないか? お前の目的は勇者なんだろ? 俺らは関係ない。エサは……諦めてくれ」
「貴方は、引き際をわきまえているようですね……いいでしょう」
いつの間にか、奴の背中には翼が生えていた。
このまま何処かへ飛び去るのだろう。意外と話が分かるじゃないか。
「最後にお聞きします。貴方は勇者の仲間ですか?」
「ん? 残念ながら、俺はアイツの仲間じゃないみたいだ」
「そうですか。それでは…………死んでください」
「――ッ!」
空へ飛んでいくと思ったが、そう思わせるのが奴の策だったらしい。
奴は少しだけ空へ飛んだかと思うと、放たれた矢のように急加速して突っ込んできた。
声が聞こえなければ俺に避ける術もなく、保険のラウンドシールドでどうにか防御できたものの、その一撃により壊れてしまった。
それでも、奴の勢いを殺す事はできずに、まるでトラックに跳ね飛ばされたような衝撃が襲ってくる。
「ぐっ……! ふっ……」
「貴方はどうやら、勇者の居場所を知っているらしいですね。どうです? 教えて貰えるなら、見逃しても良いですよ」
「っぁ……! 誰が……言うかっ!」
……最後にミスってしまったようだ。
多分、俺の反応から『知っている』と思われたのだろう。
口は災いの元、とはよく言ったものだ
「さて、援軍が来られても厄介なので、手早く済ませますか」
「うっ……チクショウ」
おいおい、まだ最初の街から出てもいないんだぜ?
冒険もしていないのに、初っ端からにやられるとか……冗談じゃない!
全身を走る痛みはまだ抜けていない。
身体を動かすこともままならない状態で、俺が取れる行動は……
「……来い! 『本』よ! 自動防御!」
「……何ですかね、それは。何も起きないですよ?」
「やっぱりダメか……」
「では、最後に。勇者の居場所は何処ですか?」
「……………………知らないな」
例え仲間ではなくても、今のリョウタとコイツを戦わせる理由はない。
あいつと、あいつの仲間には借りがある。
それに、いくらあいつに固有スキルがあっても、魔法が使えない状態で何発か喰らえば、すぐに倒れてしまうだろう。
それくらい今のリョウタは……弱い。
「手間が省けるかと思いましたが……残念です。さようなら」
やばい! やられる!
この状態で、例えあの声が聞こえたとしても……身体が動かなければ、どうしようもないだろう。
どうしたらこの場を乗り切れる? 考えろ、最初に能力を使えたのはいつだ。
思えば、リョウタのときも能力は発動しなかった。
てっきり勇者の前では発動しないものだと思っていたが……そもそも、発動の仕方が間違っていたのだとしたら?
……どうせ発動しなければここで終わりなんだ。
最後に縋ってみるか。
「なら…………顕現せよ! 俺の……悪魔っ!」
そう叫んだ途端、辺りが白い光に包まれる。
あまりにも眩しい光に、つい反射的に目を瞑る。
視界を手放す直前に見た景色は、高速で突っ込んでくる奴と、目の前に現れた銀色に輝く何かだった。
「――ッ! 何ですか、これは!」
「やれやれ、ようやくボクを呼び出してくれたね」
「…………え?」
目を開けると、そこには……魔王の攻撃を受け止めた懐かしの本、と。
その本を持つように、銀髪の髪をなびかせた女性が……宙に、浮いていた。




