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自称悪魔と付属品 ~魔力なしの異世界攻略法~  作者: ひのる
第一章 悪魔の潜む街
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巣立ちの日に

 翌日。

 どこぞの引きこもりのように、宿から……部屋から出たくないと駄々をこねる男が一人。

 それを慰める幼女が一人。

 それを横目に、アワアワしている少女が一人。


「そう嘆くなって! ほら、資金も俺らと半分だぞ半分! これから俺らはどう生活していけばいいんだってくらいだぞ!」

「でもなー……女神様は、固有スキルを与えたり、言語適正してくれたりするのになー……」

「で、でも! ヨーヘイさんの言葉は通じるので、きっと大丈夫ですよ! 文字も覚えればなんとかなります!」

「そうそう! それに……『本』? だっけ。召喚されなかったけど、何かスキル使えるじゃないか! ダイジョブダイジョブー」


 第一、文字が読めないのに街中へ放り出すって、鬼か。

 いや、数字が読めて、言葉が通じればなんとかなりそうだけどさ。

 それでもスキル……スキル、かぁ……。


「召喚できない……役立たず……うぅ」

「あわわわわっ、そんなことないですよ! そのおかげで、わたしたちが助かりました!」

「そ、そうだぞ! お前がいなかったら全滅していたかもしれないしな!」

「じゃ、じゃあ……俺も仲間に」

「それはダメだ」


 チッ……そこは譲らないのか。

 まあ、もしここで『しょうがないにゃあ……』と言われても断るが。

 ここまでお膳立てしてもらったんだ。リョウタとは良いライバルでいたい。


 しかし、まだしばらく滞在するみたいだし、どうしようもなくなったら泣きつこうか。

 命あっての冒険だ。一人で野垂れ死ぬくらいならプライドを捨てる。


 ……よし、覚悟完了。



「さて……そろそろ出て行くよ」

「おぉ、ようやく決心したのか!」

「ヨ、ヨーヘイさん!」


 なんだよお前たちは。息子を見守る夫婦かよ。

 見た目は姉妹だけどさ。なお一人は男である。


「この街は結構賑わっているからな! 酒場に行けば、気の合う仲間も見つかるんじゃないか?」

「じゃあまず、この街の酒場とやらに行ってみるさ」

「酒場の場所は、ここを出て右に進んでいくと看板が見えるはずです」


 この世界では、冒険者が集まる場所というのが酒場なんだろう。

 それはどこも同じだな。

 冒険者ギルドがないという点は気になるが、ともかく最初の目的は決まった。


「ありがとう。さて、まずリョウタに忠告だ。邪魔者がいなくなったからって、いつまでもリアンとイチャついてるなよ? シーシアが悲しむぞ」

「うっ……それもそうだよな……わかった、減らすよ」


 減らす?

 まあいいや。こいつのことは放っておこう。


「それとリアン。この世界に来てから随分と助けられた。もし次に会うときがあれば、一緒に旅がしたいな」

「そ、それは……勇者さまが決めることなので」

「お世話になりました。ありがとう」

「ヨ、ヨーヘイさん……」


 空気となっている幼女は無視して、そのまま部屋を立ち去る。

 さて、この宿を出たら、まだ見ぬ冒険の始まりだ!






 ……そう思っていた時期が、私にもありました。

 宿から出て、まずは情報収集だ! と思い、酒場を探すも……この街広すぎない?

 右に進んでいったは良いが、看板も読めないし、かといって通行人に聞くのも気が引ける。

 こんなことなら、あいつらに聞いておくべきだったな……戻るか。


 いや、ここは尻込みしている場合ではない。

 知っている人はいないんだ。堂々としていればなんとかなる。


「あのー、すみません。少しよろしいでしょうか?」

「……………………」


 一人目、無視。

 ま、まあおっちゃんだし、こちらを見もしなかったな。


「そこのあなた、少しよろしいですか?」

「………………ちら」


 二人目、無視。

 立ち去った後に、少し振り向いてくれた。

 あれ、俺の言葉……通じるはずだよな?


 次はなるべく反応して貰えそうな……あの娘だ!


「すみません。助けてください!」

「え? きゅ、急にどうしたんですか?」


 よかった。ようやく聞いてもらえる。

 言葉は通じるみたいだな、安心した。


「実は道に迷ってしまいまして……酒場を探しているんですが」

「あ、えーっと……酒場なら、すぐ横ですけど」

「え?」


 そういって、彼女は俺の後ろを指で差した。

 ゆっくり振り向いてみると、そこには記号の書かれた板が……ああもう、文字が読めないから仕方ないだろ!


「あ! 気づきませんでした! ありがとうございます」

「いえ……もしかして、文字が読めないのですか?」

「ご察しの通りです。おかげで助かりました」

「あの、この街は人が集まる分、貴方みたいな人が多いので……その」

「ん? ああ、大丈夫です。数字は読めますので」

「では、証書などの書類に……騙されないように注意してくださいね。その、何人も……見て、きましたので」


 何か契約を持ち込まれても無視しろ、か。

 初対面の人にそんな忠告をしてくれるだなんて、優しい子だな。


「わざわざありがとう。何かお礼を……」

「い、いえ! ただ親が……そうでしたので。では……」


 それだけ言うと、彼女はそそくさと立ち去ってしまった。

 親か……嫌なことを思い出させてしまったかも。


 俺の親も元気にしているだろうか。

 あの日は家にいなかったから、爆発に巻き込まれた……ということはないはずだが。


 とりあえず、今は酒場で情報収集だ!


 ……………………。

 あれ、扉が開かない。押しても引いても、ビクとも動かない。

 どうにか開けようと試行錯誤していると、だんだんと人が集まってきた。


『…………おいおい、こんな昼間っから不法侵入か?』

『…………装備がないところを見ると、魔法職かもしれない』

『…………やべぇな、機嫌を損ねたら辺り一面消されるぞ!』

『…………馬鹿! 聞こえるだろ!』

「…………………………………………」



 聞こえてますよ。

 どうやら、昼間は営業時間外らしい。

 なんだよ、昼時って繁盛しないのかよ! 昼というか、まだ朝ですけど。


 周りにいた奴らを軽く睨んだ後、今度は酒場の周辺へ目を向ける。

 お、あんなところに店が連続して並んでる。

 この街にも、いわゆる商店街って奴があるらしい。


 それにしても……そうか。武器や防具か。

 旅に必要な服や日用品も含めて、どこかで買ったほうがいいな。

 まずは入れ物か。


 勇者特有のアイテム異空間は、俺には備わっていないからな!

 だって、勇者ではないみたいだし。


 まずは手頃な大きさのリュックや、最近の流行を取り入れた服装。その他に携帯食料など、必要なものを思いつくかぎり購入していった。

 ゲームの知識や、俺の世界の常識では、これくらい用意していれば大丈夫だろう。


 あとは異世界ならではのアイテムや、何に使うかわからない便利グッズでも見ていきましょうか。






 店頭に並べてある商品を頼りに、何か面白そうなものを探す。

 そうやって一軒ずつ観察していると、ふと展示されている長剣が目に入った。

 見ると、近くにも短剣、槍、弓などが並べてある。

 なるほど、ここが武器屋か。


「いらっしゃい…………おや、あんちゃん」

「ん?」


 店に入るなり、俺のことをジロジロと見てくるハゲ店主。

 おっちゃんだし、こいつが店長なんだろう。


「見たところ……何の装備もしてねぇが、ここは初心者の来る街じゃねーぞ。それとも、魔法使い様か?」

「いや、初心者で合っている。武器を見に来た。銀貨5枚で適当に武器を頼む」


 俺が選んでも良いが、まず専門家の意見だ。

 銀貨5枚なら、初心者には申し分ないモノが手に入るだろう。


 体型からしてどういった武器が適しているか。

 戦闘スタイルによると、相性が良い武器は何か。

 他のメンバーとの相乗効果が狙えそうな武器はあるか。


 ……もっとも、ソロプレイヤーにはほとんど関係ない質問が多かったが。

 色んな質問に答えたが、結局は一本のダガーナイフに落ち着いた。


「オイオイあんちゃん、本当にそんな装備で大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題ない」


 自動防御オートガードさえ使えれば、防具は要らないだろう。

 ……使えればの話なので、保険として用意したほうが良いか。


 保険なので、一番安物のラウンドシールドを購入する。

 それでも銀貨2枚分はするので、そこそこの性能はあるそうだ。

 武器のほうは、このダガーさえあればどうにかなりそうな予感がする。


 ……他の武器は、初心者には重すぎました。

 本を持つ可能性も考えて、邪魔にならないような武器があれば良いんだが。

 鎖鎌とかもあったが……攻撃が高い代わりに、自らもダメージを負う場合があるので、回復魔法は必須らしい。


 回復魔法とは無縁の今、回復薬は大量に用意しておいたほうが良さそうだ。




「短剣と盾、合わせて銀貨7枚……たしかに。ほら、どうだ? 早速装備していくかい?」

「当たり前だ」

「セットの鞘だ。それと、これは腰ベルトだが……これは銅貨10枚だ」

「金取るのかよタコが」

「誰がタコだ」


 装備するためには、このベルトも必要らしい。

 世知辛い世の中だ。


 まあいい。せっかくだ、ついでに買ってやろう。

 買ったベルトに鞘を通し、短剣を刺す。これで見た目は冒険者だ。


「腰ベルトも知らないところを見ると、本当に初心者なんだな……どうやってこの街まで来たんだ?」

「それは……秘密だ」


 実際のところ、俺にもわからない。

 ただ、客が秘密にしている以上、これより深入りはされないだろう。




 他に客もいなかったので、並べてある武器の特徴を詳しく聞いていると……慌ただしい音と共に、数人の男が店へなだれ込んできた。

 見た目からして屈強な男たちが皆、殺気立っている……これは、面倒事の予感がプンプンしやがる。


「……おおっと。なんだなんだ? こんな昼間っから強盗か?」

「ゴードンの旦那! 力を貸してくれ!」

「どうしたお前ら? おら、客が驚いているじゃねぇか」


 どうやらこの店主はゴードンというらしい。

 状況から見るに、中々の緊急事態だ。


「魔物だ! すぐそこに魔物が現れたんだ!」

「……っ! 待て。門番はどうしたんだ? 正面から入れるはずが……」

「空からきたんだ……あいつは多分、悪魔だ」

「悪魔だと? 何故こんな街中に」

「どうやら、この街に来た勇者を探しているらしい……だが、その勇者も何処にいるかわからない以上、俺達で食い止めるしか無い」

「あの場所に依頼は出したのか?」

「そんなん待ってられるか! もう被害が出ているんだ!」


 おいおい、街中にモンスターが出て来るなんて、聞いてねぇぞ!

 しかし、悪魔か。


 この世界の悪魔がどれ程の強さか知らないが、男たちの顔が絶望に染まっているところを見ると、相当な強さの筈だ。

 勇者とは多分、リョウタのことだろうが……今のあいつを勇者と言う者が、どれだけいるのやら。


「よし、お前ら! 好きな武器を持っていけ! なぁに、全部俺がメンテナンスしているんだ。どうせなら俺の武器に泊を付けてくれよ!」

「「「「「おおおおお!!」」」」」


「うるせぇ……」

「……というわけだ、悪いなあんちゃん。今日は店じまいだ」

「大丈夫なのか?」

「どうだろうな。ただ、ここまで頼られたらやるしかないだろ」


 話によると、どうやらゴードンは元Aランクの冒険者らしい。

 Aランクというのがどれ程の強さなのかはわからないが、この街にいる冒険者でも、上から数えたほうが早いのは確かだろう。


「一応聞くが……店主、俺も好きな武器を使っていいか?」

「やめろ。危ないからここにいな……死ぬぞ」


 これは……死地に赴く男の目だ。

 歴戦の戦士と思われるゴードンさえこれだ。

 初心者の俺が行っても……足手まといか。


 大人しく見送りそうになったが、それでも俺には情報がある。

 俺にも出来ることがあるのなら、後は……追いかけるだけだ!


 出遅れたせいで随分と距離が開いたと思ったが、幸いまだ見える位置にハゲ頭がある。

 俺は多少距離を取りつつ、それでも見失わないように気をつけながら、太陽光を反射して輝く頭を追いかけていった。

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