三つの疑問
…………見知らぬ部屋で目が覚めた。
いや、ここは俺が滞在している部屋だ。
あの勇者、思いっきりやりやがって……まだ身体が重い気がする。
ベッドのすぐ横に、何か手紙のようなものが置いてあったが、生憎と文字は読めないのでね。とりあえず、身だしなみを整えてから訪ねてみるか。
今気づいたが、俺も着替えをもらっておけばよかった。
窓から見える景色は明るい。
ということは、俺が倒れてから一日は経過しているのだろう。
メンバーに加われない以上、残りの三日間をどう情報収集に役立てるか……いや、まず協力者を探すか。
俺みたいな何も知らない人物に、親切心のみで手を貸してくれる人は多くないと思う。いてもリアンくらいだ。
まあ、いま悩んでも仕方ない。ここから出ていく時に考えよう。
しかし、隣の部屋の前まで着いたはいいが、中々入る決心がつかない。
あんな事があった後だ。向こうが訪ねてくるまで待つほうが得策か。
待つか訪ねるか数十分悩んだあげく、いざノックをと構えたところで目の前の扉が開いた。
「あれ、起きていらしたんですか」
「あ、ああ。ようやく目が覚めたよ……」
リアンに連れられて中へ入ると、ふてぶてしい態度をした幼女が、ベッドに寝転んだ状態でこっちを見ていた。
気にしていなかったが、この部屋もベッドが一つしかないよな。
ということは二人一緒か……リョウタはどう思っていたのやら。
案内されるまま、ベッドの横にある椅子に……座ろうとして止めた。
あの行動の後だ。多少は警戒が必要だろう。
「早速だが、お前には明日、この宿から出ていってもらう」
「ちょ、ちょっと待てよ! 急すぎるだろ!」
警戒していた内容とは別方向から攻撃がきた。
たしか七日間は安心じゃなかったのか?
「もう、六日目なんです……」
「え? どういうこと?」
「ヨーヘイさん。二日間寝てましたよ」
……どうやら、知らぬうちに二日経過していたらしい。
つまりあれか、ここは俺が倒れてから二日後の世界か。
「約束通り、明日には出ていってもらう。もっとも、滞在費があるなら延長しても構わないぞ」
「そもそも、俺はお金も何も持っていないぞ?」
「だろうな。あの時助けてもらったお礼としての行動だったが、俺らが面倒を見るのは明日までだ」
俺は隣のリアンへ助けを求める。
さながら捨てられそうになっている子犬みたいな目で。
一瞬目が合ったが、リアンは気まずそうに顔を逸らした後、俯いた。
「……わたしたちも、ほぼ全滅後ですので、あまり贅沢はできないのです」
「そういうことだ。仲間でもないのにここまでしたんだ。わかってくれ」
「……そうですよね。この部屋も二人用でベッドは一つですもんね」
仲間でもないのに、という言葉に反応して、つい口に出してしまった。
リアンは何とも思っていないようだが、対するリョウタのほうは、顔が見る見るうちに赤くなっていく。
俺はそんなリョウタをジト目で見てやると、彼は大袈裟にジェスチャーをしながら弁解を始めた。
「ち、違うぞ! それでも最初は別々で寝ようとしたんだ!」
「さいしょは?」
「う……俺は床で寝ると言っているのにな……リ、リアンが抱き枕みたいに俺を離さなくて…………おかげで寝不足だ」
「だ、だって! わたしとシーシアさんが寝るときは、いつもこうやって!」
そういって、リアンに正面から抱きつかれるリョウタ。
思いっきり抱きついてるところを見ると、普段からシーシアはそういう扱いをされていたのだろう。
しかし、いまその身体にいるのはリョウタだ。
遠目からでも、奴の顔がどんどんニヤけていくのがわかる。
女の子の身体で、リアンのモノが潰れている感触を堪能しているのだろう。
あの調子だと、一緒に水浴びとかもしているんだろうな……実にうらやま、いやけしからんな。
目の前の光景は大変なまでに眼福である。しかし、俺も用がある。
「お楽しみのところ悪いが、質問を三つほど良いか?」
「別にお楽しみでも…………あっ」
「すみません。つい……」
俺が話しかけると、リアンはすぐに椅子へ戻った。
名残惜しそうにしているリョウタが気になるが、今は質問が優先だ。
「まず一つ。結局、俺は魔王と繫がっていたのか?」
「それについては不明だ。手応えはあったが、お前は意識を失う程度で済んだ。予想では、何かに憑かれていた……と見ている」
先ほどの様子はなんとやら。目の前にいるのは立派な勇者だ。
女性とくっつくのが好きな、ただの幼女ではない。
しかしだとすると……あの声の主か。
「なら、俺は潔白ということだな」
「不明だと言っただろ? それに、この世界で憑かれていたとなると……よほど耐性が低い。つまり敵に操られる可能性があるんだ。味方から攻撃される可能性……そんなリスクを負ってまで、お前を仲間にする必要性がない」
「辛辣だ……」
たしかに何の役に立たないかもしれないけどさ。
そこまで拒絶しなくてもいいじゃないか……この幼女め。
だが良いだろう、次だ。
「二つ目だ。どうやったら魔王と戦えるんだ?」
「! まさかっ、一人で戦いに行くのですか!」
「……俺はお前を仲間にしない。だが、俺でも一人では無理だ。そのくらいに奴は強い」
拒否されたのは残念だが、逆に言えば、リョウタやリアン以外の仲間を探せるチャンスだ。
こいつが仲間にしないっていうなら、勇者一行に負けず劣らずのメンバーを揃えてみようじゃないか。
しかし、リアンと旅をしたい気持ちも捨てきれないので、なるべく友好関係を築いておきたい。
そのためにも、だ。
まず、この世界がどうなっているかを知る必要がある。
「お前がいきなり現れたあの場所だがな……本来なら、そこまで行くのに倒すべき敵がいる。俗にいう四天王だ」
「なんかそういうの、ワクワクしてくるな」
「俺も最初はそうだったな……しかし、こいつらが厄介だ。なんせ、何処にいるか分からないくせに、何度も鞍代わりしやがる」
「鞍代わり? 世襲制か何かか?」
「わからない。しかし、個々に対応した対策が打てないことは確かだな……まっ! 俺には固有スキルがあるから関係ないが!」
しまった。
話に聞き入っていたおかげで、自分語りを許してしまった。
お前の固有スキルなんざ、身を持って体験したから興味ねーやい。
「四天王を倒すのは別グループに任せて、魔王に挑むときだけパーティ参加とかはできないのか?」
「な、中々すごい事を考えますね……」
「はぁ……まず、相手にする必要がないと判断された者は、魔王の場所へ行けないぞ? とある場所から、奴の好みそうなアイテムを捧げる……あの部屋にあった美術品とかだな。そうして、認められたパーティがあの場に転移される」
「あくまで美術品はおまけみたいです……大昔には四天王を倒すだけで、そんな必要もなかったらしいですよ」
「なんだ、奴の趣味か。しっかし、転移でしか行けない場所とは厄介だな」
「ああ。バフとかの準備を整えても、奴が認めなかったおかげで全て無駄になったパーティもあったな。周辺の魔物に八つ当たりをしたらしいが」
四天王を倒すのは前提としても、魔王の気まぐれで挑戦できるかどうかも変化するのか。
中々に難易度が高いな。
召喚魔法が禁止な場所といい、何かを阻止しているみたいだな。
しかし、大昔というと……今の魔王も鞍代わりしているのか?
奴はまだ子供みたいだったが、美術品収集が趣味の二代目ジュニアだったのかも知れない。中々良い趣味をお持ちで。
「しっかし、大昔から変化して、その事実が伝わっているとなると……今の魔王が現れてからどれくらいだ?」
「さあな……俺がこの世界に来たときには、既にあいつがいたらしい。あいつに関しても、他の四天王とは違って情報通りだったな」
「ちょっと待て。あいつってガキじゃないのか!」
「ん? ああ、魔族には成長しないやつもいるんだ。文献から予想するに……二百を越えたあたりじゃないか?」
…………なんということだ。
あいつは永遠の若さってやつを手に入れていたのか。
永遠の中二病……せめて、大人の姿なら威厳もあっただろうに。
いや、ただの痛々しい青年になりそうだな。なんとなく予想ができる。
「で、質問はそれだけか? じゃあ明日からの為に、せめて資金だけでも渡しておこう」
「それは有り難いな。でも、最後の質問だ」
「なんだ? 言っておくが、仲間には入れんぞ」
明日からこの世界で生きていく。
まだ外にも出ていない俺が、一人で旅をする。
そのことに不安もあるが、同じ異世界人として……重要な疑問がある。
「リョウタ……いまから俺は真面目な質問をする。日本から来たということを信じて問おう」
「ああ。急にどうしたんだ?」
「リョウタは、この世界の『文字』が読めるのか?」
「当たり前だろ?」
……………………。
どうやら俺は、スタートから一種の縛りプレイを強制されたみたいだ。




