新たな偽武器
随分と色んなことがあったが、泊まっていた部屋に戻ると、そこには朝と変わらぬ様子で寝ているシキの姿があった。
「……ふぅ、無事で安心したよ」
「ボクの言葉が信用できなかったのかな?」
「なら悪魔って名乗るのをやめろよ」
対価を払った後の仕事は信用できるが、それでも悪魔と名乗るメフィに対する不信感は拭えない。
どこで聞いたように、こいつの正体は精霊なのだろうか?
「なあメフィ、本当はお前……」
「おっと、そろそろシキが目を覚ましそうだよ」
その言葉に目を向けると、ちょうどシキの目が開くところだった。
朝と変わらぬ様子に今までの出来事が夢だったのかと思いもしたが、これが現実なことは時間が示してくれている。
「シキ! 無事か!」
「うっ……頭が……静かにしてください」
「あっ、ごめん」
寝起きの頭に大声は響くらしい。喜びが先に出たおかげで、つい気遣うのを後回しにしてしまった。
「どこまで覚えている?」
「たしか、ヨーヘイさんを飛ばした後、目の前が真っ暗になって……誰かに腕を掴まれたような」
「それはボクだね。そしてここまで移動したけど、意識を失ったようだったから寝かせておいたよ」
「そうでしたか。ありがとうございます」
深々とメフィに頭を下げるが、それも対価がなければ出来なかった芸当だ。
だとすると、一番の功労者はお金を払ったシーシアではないだろうか?
「そういえば、あのやばい人はどうなりました?」
「やばい人? あいつならリアンを連れてゲール島って場所に行ったよ」
「ゲール島……聞いたことがないですね」
「ちなみに生粋の鬼らしいぞ」
情報源はドライアドだが、あいつも認めていたので事実だろう。
シキのような鬼に変異したパターンでも珍しいのに、滅んだはずの鬼の生き残りか……ゲール島という場所は鬼ヶ島なのだろうか。
「……多分あの人、先生と同じくらい強いですよ」
「ボクが思うに、魔王の幹部だろうね。種族的にもおかしくはない」
「出来れば戦いたくないけど、リアンがな」
恩人を見捨てるという選択肢を取らない分、戦闘は避けられないだろう。
メフィを当てにするなら金策、そして場所がどこか分からないなら、まずは情報収集だ。
「よし、じゃあ報告のためにも、少し休んだらギルドへ向かうか」
「そういえば、この脇差はどうしようか?」
メフィが指差した場所には、ゴウキという奴が持っていた脇差が置いてあった。
そういや、奴からメフィが取り上げたんだっけ。そのまま奪ってきたのか。
試しに持ってみると、俺の腕くらいの長さしかない分、意外と軽かった。
刀武器とかいうのにも憧れていたし、ヴェノムダガーに代わるメインウェポンとしても申し分なさそうだ。
「成る程、良い武器だ。これは俺が……シキ、どうかしたか?」
「い、いえ! 綺麗だなー……と思いまして」
よく考えると、シキに戦闘は任せっぱなしなのに、素手でしか戦ってなかったな。
今後のことを考えるに、これはシキに使ってもらったほうが良いかもしれない。
「マスター、ボクの本体を忘れていないかい?」
「本体? ああそうか!」
せっかくゴウキという名前を聞いたんだ。攻略本に奴の情報も載っているに違いない!
脇差に見蕩れているシキとじゃれついているメフィを横目に、しばらくページを捲り目当ての情報を探る。
幹部というからには後ろの要注意のほうだろうが……ここらへんに。
「あった! 載っていたぞ!」
「どれどれ……何て書いてあるんだい?」
「鬼。所持しているものを巨大化させる。とある島に籠もって何か研究をしているらしい。鬼専用の武器をいくつか所持している……とな」
あまり役立つ情報はないが、こんなものだろう。
鬼専用? 別にこの脇差におかしな場所はなさそうだが。
「この武器俺でも持てるよな?」
「残念だけど、その武器には種族特性があるらしい。ここはシキに所持してもらったほうが良さそうだよ」
どうやら、鬼の種族が持てば斬れ味が格段に上がるらしい。
試しに俺が攻略本に対して切りつけてみたが、傷一つつかない。
しかし、シキに渡して同様に切りつけてもらったところ、力はあまり入れないように言ったにも関わらず深い切り込みが入っていた。
攻略本の傷はすぐに修正されたが、本体が切りつけられる様子をなんとも言えない顔で眺めていたメフィが印象的だった。
脇差はとりあえずシキに使ってもらうことにし、報告のためにもギルドへ向かう。
外に放置していたバルドは起きていたが、状況を理解できない住民に囲まれていたので放置してきた。
どうせ戦いには参加してないんだ。あいつに報告する内容もないだろう。
一応恩人でもあるが、達者で生きてくれ。
「本当によかったのですか? あの方は放置して」
「別にいいさ。あいつは自分でなんとかするだろ」
「さすがマスターだ。ボクよりもよほど悪魔らしいね」
「それ褒めてないだろ」
そうしてギルド方面へ向かっていると、何やら辺りが騒がしい。
街の人はみんな寝起きなはずなのに、数人は走ってどこかに向かっている。
俺に野次馬根性はないが、少し気になって近くにいた女性に話しかけてみた。
「すみません。何かあったんですか?」
「え? いや、私にも何がなんだが……」
俺たちが疑問に思っていると、前のほうからこちらへ走ってくる人と目があった。
「魔物だ! 魔物が出たぞ! お前たちも早く逃げろ!」
「魔物ですって! 今が昼なのも関係あるのかしら?」
「わからない! 捕まったら養分にされるぞ!」
危機は去ったはずだが……養分?
「すみません。その魔物ってどんなやつかわかりますか?」
「名前まではわからない。ただ、緑色のやつで蔦を使って移動している! まだ誰も襲われてはいないが、何をされるかわからんぞ!」
おう。
今の話からするに、その魔物というのは。
「どうするマスター? あのドライアドを探すかい?」
「そうだな。今回の件で言えばあいつも被害者だ。ただ、どこにいるか」
「ドライアド? 何ですかそれ」
あの場にシキはいなかったので、逃げてくる住民のほうへ進みながら説明する。
優しい人はそっちは危ないと注意してくれるが、そこは退治しにいくと言ったら皆納得して方角を教えてくれた。
「そうですか……わたしの魔力を目当てにここまで来たんですね」
「なんか、森も魔力不足で困っているとか言っていたぞ」
「普通の森はそんなことあるんですか? むしろわたしのいた森では、余りすぎて困ってますよ」
どうやら魔力も場所によって差が激しいらしい。
自然の恵みというか、環境破壊とかも関係あるのだろうか?
まあそこら辺は本人に聞けばいいか。
「ここらへんにいるはずなんだが……」
「それらしき人はいませんね……」
目撃情報はこの辺りのはずだが、大きな道はともかく、小道を探してもドライアドらしき姿は確認できなかった。
こうなったらアレしかない。
「よーし………おーい! ここに石の魔力の持ち主がいるぞ!!」
「ちょ! 何言っているんですか!」
「成る程、向こうから出てもらうのか。マスターにしては考えたね」
なんかさっきからメフィに馬鹿にされるのは、攻略本を傷つけたことに対する仕返しだろうか。
まあこれでダメなら、俺らも諦めることにするか。
「あ、あの……ヨーヘイさん?」
「ん? なんだ」
「ドライアドって、もしかしてあの人、ですか?」
恐る恐るといった感じで示された場所を見ると、建物の影から緑色の人型がこちらを伺っていた。
向こうもこちらを警戒しているのだろう。
「おい。覚えているか? このシキっていう人があの魔石に魔力を込めたんだぞ」
「魔石……魔力……クレ……」
「え? え?」
「逃ゲテ……疲レタ……魔力……クレ」
「シキは気づいていないだろうけど、ここで魔力を吸収させたほうがいい。今日はまだ魔石に込めてない分、今のシキからは魔力が溢れているからね」
「そうだったのですか!」
いつもはもっと早い時間にギルドへ行くので気にならなかったが、この状態のシキは周りに魔法低下と魔力酔いを発生させるらしい。
人が少ない早朝ならともかく、今は起きた人々が活動開始している頃だ。
ましてや、予備の魔石もない今、過剰分の魔力を吸収してくれる存在は願ってもないタイミングだ。
そうメフィに説明を受けると、シキはドライアドに差し出された手を取った。
何でも、触れるだけで勝手にドライアドは魔力を吸収できるらしい。
「んっ……んんっ……なんか、むずむずします」
「アア……心地ヨイ……暖カイ」
「なんか暇だな」
「黙って観察するのも、オツなものさ」
やがてドライアドは満足したのか、ようやくシキの手を解放する。
肝心のシキも別に疲れた様子はなく、ピンピンしてるな。
「これで帰れるか?」
「満足……デモ……人多イ……眠ラセル」
「馬鹿やめろ」
せっかく街が活動を開始したのに、こいつが逃げるためにまた眠らされてたまるか。
変なやつが乱入してこないとも限らないしな。
「シキに街の外まで飛ばしてもらうか?」
「それでもいいですけど……えっと、あなたの森は魔力が枯渇しているんですよね?」
「魔力……少ナイ……帰ッテ……寝ル」
「なら、住処を変えてはどうですか?」
シキが言うには、そんな場所にいるより移動してしまえば良いのでは? ということだ。
確かにシキが住むナールの森は魔力が余っているどころか過剰らしいし、ドライアドにとってもちょうど良いかもしれない。
「場所……分カラナイ……移動……デキナイ」
「じゃあ、俺らが連れて行ってやるよ」
どうせ目的地は一緒なんだ。シキを送るついでにこいつも運ぶか。
しかし、連れていくにしてもだ。
「……条件が一つある。そのままだと目立ちすぎだ」
「ワカッタ……小サク……ナル」
そうして、目の前のドライアドはするすると細くなっていく。
そのまま一本の棒きれのようになると、最後は棍棒のような緑色の武器となった。
「コレ……装備……目立タナイ」
「え? いいのか?」
「よかったねマスター、脇差ではないが武器をゲットだ」
これを武器といって良いかは疑問だが、本人もこのまま運んでほしいとのことだ。
しかし、少し長すぎるので背中に背負う必要がある。
「背中に背負うには、なんか固定するものがいるか」
「大丈夫……任セル」
そういうと、するすると蔦が伸びて、襷掛けできるような鞘を作ってくれた。
ただの棒に鞘は必要ないだろうが、至れり尽くせりだ。
魔力さえ常に供給していれば、戦闘になっても力を貸してくれるというので、そこはシキに任そう。
何にせよだ。
「武器アンド仲間、ゲットだぜ!」
「マスターは本当に人以外が好きだね」
俺に言われても困るわ。




