ボス級ラッシュ
作戦通り、メフィに麻痺袋を持って奴らの上からばら撒いてもらう。
さすが悪魔というべきか、飛んでいって真上から振りかけるとはなかなかの所業だ。
これが香辛料とかなら、痛みに苦悶の表情を浮かべるところだっただろう。
「おい、いくぞ」
「あ、ああ」
見事な手際に一瞬我を忘れてしまったが、今の目的はドライアドより先に魔石を回収することだ。
見張りに顔を見られるかと思ったが、これもメフィがうつ伏せにしてくれたので顔は見られないはず。
「……っぁ……ぅぅぁ……ぁぁ……」
「どうやら麻痺で声もでないらしいな」
「シーッ! いくぞ」
いくら麻痺しているといっても、後でどんな報告をされるかわからない。
ここはあまり関わらずに通り過ぎるべきだろう。
ギルドの内部も外と同じで、活動している人の気配はない。
違うところは、何人か倒れている姿が見えるということか。寝息を立てていることから襲われた心配はなさそうだ。
「見張りがいたということは、敵の手も伸びていると見て間違いないだろうね」
「そうか。別行動で探すか?」
「いや、俺達は一人で戦えるほどの力はない。なら全員で動いたほうが良いだろう」
悲しい理由だが、バルドの言う通りだろう。
まず受付の裏。そして訓練場、ギルド長の部屋など馴染みの場所を回ってみる。
しかし、それでも怪しい気配は何もない。
……ただ、ギルド長の部屋で寝ていたランドには空っぽになった麻痺袋を被せておいた。
待遇などの不満が溜まっているんだ。あまり麻痺効果が残っていないにしろ、これくらいのいたずらは許してもらおう。
「定石ではギルド長の周辺が一番怪しかったが、ここでもないのか」
「あと怪しい場所は……どこかあるか?」
「ボクはあと一カ所しか思いつかないね」
その言葉に、俺も思いつく。
メフィがよく知っていて、あいつらの目的のモノもありそうな場所。
「「資料室だ!」」
「……というか、初めから気づいていたんじゃないか?」
「いやー、マスターとの散歩も楽しかったよ」
この非常時に何を言っているんだコイツは。
しかし、よく考えれば魔石の保管場所しか敵が行きそうな場所はない。
なんたって、街の人間はほとんど眠りについているのだから。
資料室に近づくと、見張りはいないようだが中から音が聞こえる。
「……全部仕分け終わったが、こんなんどうやって運ぶんだよ」
「……わからん。このカートごと移動させるか?」
「……階段は無理だろ。お前が担げよ」
「……あの方に頼むか」
「声からすると、二人中にいるな」
「こっちは三人だが、戦闘になると厳しいな」
「ボクが少し様子を見に行ってくるよ」
そういってメフィは壁の向こうに消えた。
こういうとき気づかれずすり抜けができる偵察って便利だな。
あいつには斥候の役目をあげよう。
メフィの報告では、中にいるのは三人らしい。
声からは判断できなかったが、どうやら無表情無反応の人物がいた。
偵察って大事だな。
「あとは……リョ……んんっ、君の知るシーシアが幸せそうな顔で寝転がっていたよ。ボクも我慢するのに苦労したよ」
「あいつが? なんでこんなところに」
「なっ! まさか『爆炎の姫君』がいるのか!」
あいつの二つ名は有名らしいが、いまのリョウタが姫君とか、元のハリネズミでも笑わせにきてる。
本人たちはマジメだろうが、俺にとっては悪手だからやめてくれ。
「作戦はどうする?」
「そんなの……戦えないならどうしようもないじゃないか」
「そういうと思ってね、あの娘の懐を確認しておいたよ」
元勇者は中々の小金持ちだったらしく、金貨10枚と銀貨300枚ほどは持っていそうだという。
俺と別れる時はそんななかったはずだが、いつの間にそんな稼いだんだ?
「しかし、あいつの懐なんか知ってどうする…………まさか?」
「マスターはあの娘と知り合いさ。そしてマスターの味方なら、メンバーから多少強力してもらっても良いと思わないかい?」
「さすが悪魔、考えがエグい」
つまり、寝ているシーシアの金を勝手に使っちゃおう! ということか。
後で散々文句は言われたり、弁償ということになりそうだが、チラッと横のバルドを見る。
……よし、なんとかなりそうか。
「ならメフィ、先に部屋に入ってやっちゃえ!」
「了解したよマスター」
「内容は理解できないが、どうやら君達が悪巧みをすることは理解できた」
正義感の強いバルドには悪いが、これもこの街の平和のためだ。
シーシアの懐には犠牲になってもらうとしよう。
……やがて、侵入者と思われる二人の叫びが聞こえたと思うと、床にドンと倒れた音がこちらにも聞こえてきた。
しかし、メフィはまだ出てこない。
終わったら報告に来るはずなんだが……おかしいな。
「何かあったのかな?」
「どうする、俺達もいくか?」
考えていても仕方ない。
メフィの反応がないのが気になるが、俺達も資料室へと突入する。
鍵もかかっていない扉を開けると、そこには倒れた人間が三人と、その中心に立つ人物が一人いた。
「おいメフィ?」
「……………」
「どうやら、メフィストさんは姿を消したらしいね。コイツから逃れるため」
そこには、叫び声の主であろう二人の男と、シーシアが倒れていた。
そしてこちらを感情の読めない顔で見ているのは、二メートルはありそうな大男だった。
「メフィの魔法で倒れていない……だと?」
「考えるのはあとだ! 避けるぞ!」
大男の突進に俺とバルドは左右に飛ぶ。
遅れて、壁にぶつかった大男からドォン! という音が聞こえた。
頑丈そうな壁に大穴をあけるとは、どんな重量しているんだよ。
「……マスター、聞こえるかい?」
「メフィか! あいつはどうにかできないのか!」
さっき何があったかも気になるが、今はこの状況をなんとかするのが先だ。
倒れているシーシアのほうを見る……よし、まだお金は使えそうだな!
「マスターが何を考えているのかわかるけど、これでもボクは遠慮したんだよ? 所持金の半分で」
「あいつに遠慮はいらない! 現に倒せなかっただろ?」
目の前の大男の攻撃を避けつつ、時に攻略本で受け流しながら、次の対策を考える。
まだ金が残っているなら話は早いな!
「あの男は、多分ゴーレムだろうね。あそこまで人に近いタイプは珍しいよ」
「観察はいいから! あいつを倒そうぜ!」
盾を失ったバルドはもちろん、元から俺たちも疲れ気味だったんだ。今は避け続けているが、お互いあの攻撃を食らうのも時間の問題だろう。
「なら、全ての金貨を使っちゃっても良いのかな?」
「シーシアが寝ているいま、俺が許可する。やってくれ!」
あいつが起きていたら絶対に止めるだろうが、これも街の平和のためだ。
正確には魔石を守るためだが、勇者ならそれくらいの犠牲はわかってくれるだろう。いや、最悪ギルド長に請求するか。
「――――人ならざるもの、無に帰れ『リベラ・ツィオーネ』!」
呪文が発動した後、音もなく……目の前の大男は動かなくなった。
そして、攻撃しようとした体勢から自身を支えられるはずもなく、そのまま床に倒れ込む。
「……勝った、のか?」
「敵を全員無力化したという点では勝利だろうね」
「ありがとう! メフィストさんといったか? あなたは命の恩人だ!」
騒ぎ立てるバルドが鬱陶しいが、一番のMVPは大金を所持していたシーシアだろう。彼女が居なければ倒すことはできなかった。
しかし、どうしてこんな場所に?
「ところで、いつまでここにいる気だい?」
「そうか、まだ敵がいるんだよな」
敵の狙いはこの魔石との予想。目の前には大量の魔石。
そして守っていたであろうシーシア。
「……全部回収するか。容量空間は大丈夫か?」
「シーシアの銀貨まで全て受けとるなら問題ないよ」
「ならそれで」
「……確認するが、君と『爆炎の姫君』はパーティなんだよな?」
「え? 違うけど」
「なら冒険者仲間のお金に……いや、なんでもない」
バルドが賢くて助かった。
街の平和か一人の所持金か。比較するまでもない対象だ。
いやしかし、シーシアが起きたときのフォローは考えておかないとな。
俺達はメフィの容量空間に素早く魔石を突っ込むと、シーシアも放置して建物の出口へ向かう。
「正午まであとどのくらいだ?」
「まだ一時間くらいあるな。ドライアドという魔物はどこだ!」
「ボクがちょっと見てくるよ。マスター達は入り口付近で待機して」
「わかった」
斥候を出して、俺達は入り口まで向かう。
ここまでそんなに時間は経っていないはずだ。ドライアドは植物だから動きも遅いはずだし、離れるまでは十分に時間が稼げるはず。
「そういや、ドライアドってゴーレムも配下にできるのか?」
「いや、そんな話は聞いたことが無い。しかし、もしかすると森に放置されたゴーレムを操ることくらいはできそうだな」
「なら、ゴーレムを倒したこともドライアドは察知できるのか?」
「そこまでは……そもそも、普通のドライアドは森から出ないしな。もしかしると、ドライアドではない可能性もあるか?」
「いや、メフィが見間違うことはないだろう。ドライアド前提で動こう」
仲間の情報まで疑いだしたらキリがない。
無双できる戦力があるならまだいいが、こちらの戦力はゼロに近い。
いまは限られた情報で行動していくしか無いんだ。
ようやく一階の受付に向かう階段まで着いたところで、メフィが戻ってきた。
「いや驚いたね……ボクでもドライアドが見つけられなかった」
「見つけられない? 隠れたってことか?」
「わからない。潜んでいそうな道は上空から回ってみたけど、建物も破壊されたような跡はなかったよ」
「てことは、いきなり消えたってことか……」
俺達がゴーレムを停止したのを察知したか。
それで逃げてくれたらよかったのだが、メフィが逃げている姿すら発見できていない。
「……あるいは。上から見ただけでは気付かない建物の中、とかね」
俺達が階段を降りたとき、ギルドの入り口には。
緑色の人型を取った何かが、立ち塞がっていた。




