VS ケルベロス
メフィの話だと、小道を出てすぐの角に奴はいるらしい。
相変わらず進む時は三つの頭で多数決を取っているようだ。
外から守る門番のようなケルベロスだったが、ということはこの街中に首謀者もいるってことだよな。
昨日会ったあいつらみたいな奴も見かけ無いし、敵は何人いるのやら。
でもまずは、目の前のコイツからだ!
ケルベロスは路地から出た俺らを見つけると、すぐに突っ込んできた。
どうやら目標が一致すると多数決を取らないらしい。
まあ当たり前か。
「ケルベロスの頭が三つ……くるぞ!」
「ああ!」
前衛のバルドがまず長剣でケルベロスの突進とツメを受け止める。
衝撃で吹き飛ばされそうになるも、よく踏ん張っているものだ。
俺はその後ろから、牙突でケルベロスの横腹に突き刺す。
「グシアアアアアア!」
「まだもう一本あるぜ!」
あくまでも電撃を放出しているだけなので刺さりはしないが、光が弱点の獣には効果抜群だ。
状態異常耐性のおかげか感電はしないようだが、このまま何度か当て続ければ勝機は……。
「マスター! 防御を!」
「っ! 自動防御!」
メフィの忠告に攻略本を呼び寄せると、ちょうどケルベロスの口から何かが吐かれたところだった。
紫色の吐息は、目の前の攻略本に当たると拡散して消える。
バルドは……素早く距離を取っているな。連れて逃がしてくれよ。
「くっ、あれは毒のブレスか……厄介な」
「マスターは当たっても大丈夫そうだけどね」
「例え大丈夫でも、毒に包まれるなんて良い気分じゃないな」
もしかして大丈夫かも、という予想はあるが、予想が外れて毒で苦しむのはゴメンだ。
リスクはなるべく避けるに限る。
「でも、攻撃が効かないマスターなら、いくら突っ込んでも大丈夫だと思うけどね」
「俺に特攻しろというのかこの悪魔が」
「いや、しかし君しか有効打が与えられない以上、他に方法はない」
確かに自動防御で直撃は防げるし、毒も効かないと思う……多分。
それでも、衝撃や襲われる恐怖はあるし、何より自動防御が発動しないタイミングというものがあるのが怖い。
メフィによればマスターの意志が優先されるらしいが、攻撃を受けない以外に優先する項目なんてあるもんか。
それでも、まだケガしてもお金があれば治してもらえたり、自動で防御もしてくれるなんて恵まれているほうだが。
「チッ、じゃあ俺が突っ込むから、バルドはヘイト管理を頼む!」
「ヘイト管理? 何だそれは」
「あいつの注意を引き寄せてくれ!」
攻撃するスキさえ作れればこっちのものだ。
ケルベロスが俺に攻撃しようとすると、自動防御やバルドによって防がれる。
そしてその後ろから俺がチクチクとライトニングソードを突き刺す。
剣先がめり込まないおかげで手応えはないが、ケルベロスがいちいち叫ぶ当たり、効いてはいるのだろう。
奴の動きは遅いので、ケルベロスの攻撃に合わせて同じ作業を繰り返す。
「よし、このまま喰らえ! ……あれ?」
「っ! 一旦離れるぞ!」
「ああ!」
異常を察知したバルドの判断によって少し距離を取る。
いや、問題は俺の手の中にある。
「ん? ボタンを押しても反応しないぞ」
「使いすぎて壊れたのか?」
「そういえば……内蔵の魔力が枯渇すると使えなくなるとか」
充電すると使えるようになるとか言っていたので、バッテリー切れといったところか。
あれ、唯一の対抗手段がこれって不味いんじゃね?
「魔力の補充は……」
「生憎と俺は纏う系統の魔法使いだ。魔道具に補充したりは得意ではない」
「なら……このもう一本で決めるしかないのか」
二本目の内蔵魔力が持つか。それともケルベロスの耐久力が勝つか。
今はこれでやるしか無いんだ。
少しでも消費を減らすため、俺は常時電撃を放出ではなく、奴に突き刺すときだけ放出に切り替える。
「マスター、魔道具というのは、魔力を使用する際に消費が大きい。だから今の方法だと……」
「ああ! そうかよっ」
そこは電化製品と同じらしいな。
全く、異世界といっても電気が魔法に変わっただけじゃないか。
その魔法さえも俺は使えないわけだが。
メフィの忠告通りに常時放出にするが、さっきも思っていたがこれだとバルドに気を使うおかげで動きが制限される。
バルドのほうはさすがパーティプレイに慣れているようで、上手く避けてくれているが、そのせいでケルベロスからの細かな被弾が増えている。
俺のせいで大ケガとかされたら堪ったものではないな。
「まだ倒れないのか!」
「くっ、何度か当てているはずだが、本当に効いているのか!」
攻略本には体力の数字が書いていないので、残りどれだけ攻撃したら良いかなどは不明だ。
ケルベロスのほうも弱っている感じはしないが、他の魔物に舐められないための強がりかもしれない。
「くるぞっ!」
「えっ!」
一瞬。
攻略本の内容を思い返していたので反応が遅れた。
気づくと、ケルベロスの口から毒のブレスが放たれる。
俺には多分効かないから大丈夫…………と思っていると。
――ドン! と横から強い衝撃にふっ飛ばされた。
「ぐはっ、痛てぇ…………え?」
「う……ぐっ……無事、か?」
俺が見たのは、庇った男性が毒のブレスに直撃するところだった。
動けないバルドに、そのままケルベロスはツメを振り落とす。
「待てや犬ッコロ!」
「グルルルルゥ!」
待てと言われて待つほど大人しくはないらしいが、庇ってくれたバルドの上に覆いかぶさるようにして守る。
そして、俺とバルドの身体の上から、自動防御してくれる攻略本もろとも踏み潰される。
「グハッ!」
「ゲホッ……っぁ……」
いくら防御しているといっても、のしかかってくる重さはどうにもならない。
ダメージがないだけで衝撃は襲ってくるんだ。上からでは力の逃げ場がないので、自動防御の弱点とも言える。
「このっ、野郎!」
「ギャゥ!」
潰された状態から、なんとかライトニングソードを奴の顔へと向ける。
電撃に怯えてか、ケルベロスは飛び退くようにして距離を取った。
「ってぇな……大丈夫か?」
「……………………」
「おい……大丈夫だよな? おい!」
「落ち着きなよ。彼は気を失っているだけさ」
冷静にメフィが分析するが、真ん中に挟まれた俺だって圧死するかと思ったんだ。さらにその下のバルドの負荷は俺以上だったのだろう。
「しかし、彼は骨が折れているかもしれない。内臓は無事そうだけど、早急に治療が必要だよ」
「くっ、俺なんか庇わなくても、効かなかった可能性もあるのに」
「それと同様に、マスターは毒に弱い可能性だってあった。彼は、目の前で人が死ぬのを見たくなかったんだろうね」
「それで自分がやられてたら意味ないだろうに……」
バルドの考えもわからなくはないが、死ぬかもしれないのに会って間もない他人を守るとは。
しかし、こういう時こそ人の本性が見れるので、バルドという人物は気に入った。
だから……目の前のコイツをなんとかしないとな。
「メフィ、俺の残りの所持金で何か使える光魔法はあるか?」
「ようやくボクを頼ってくれたね。威力は期待できないけど、ホーリージャベリン数本で動きを止めるくらいなら可能だ」
「それはトドメに成り得るか?」
「貫通力を上げれば可能性はあるけど、それだと普通のジャベリンと変わらないからダメージは期待できないね」
銀貨10枚でジャベリン一本。所持金的にも三本が良いところか。
……いや、三本もあれば十分だ!
「じゃあ、普通のジャベリンでも良いから貫通力を高めたモノを頼む」
「良いのかい? それだと……いや、そうだね。理解った」
さすが相棒。
察しが良いと助かるな。
俺達は動かないバルドを守るようにしてケルベロスに対峙する。
向こうもこちらの様子を窺っていたが、睨みつけてやると三つの頭が同時に狙いを定めてきた。
そしてケルベロスが突進して来て……俺は静かにメフィの行動を待つ。
目の前から五メートルほどの地点まで迫ってきたとき、メフィの魔法が炸裂した。
「滅せよ悪よ。我は汝を浄化する者――ホーリージャベリン!」
「「「ギャウゥゥ!」」」
メフィが放った三本の槍が、奴らの頭にそれぞれ直撃する。
そしてそれを見届け……俺は奴らの頭に刺さった三本の槍の末端を手繰り寄せる。
「暴れんな……暴れんな、よっと!」
「「「グギャアアアァァァ!!!」」」」
さらにもう片方の手で用意したライトニングソードを接続する。
そしてボタンを押せば……貫通した槍から奴らの頭に電撃が直接流れる!
刺さった槍を通して、ケルベロスのそれぞれの頭に直接電撃を流し込んだ。
さすがの奴も、ここまでしたら沈黙したらしい。
黒焦げとまではいかないが、ケルベロスは頭の毛が逆立った状態でようやくその場に倒れた。
実体がなくて電撃のみのライトニングソードと、光属性はなくなるが貫通はするホーリージャベリン。
魔法が効かない俺だから、魔法の槍も掴めるだろうと思ったが……思いつきの行動でなんとかなってよかった。
「メフィが理解してくれて助かった。ありがとう」
「当然のことさ。マスターとは以心伝心だからね」
以心伝心ならいたずらもやめてもらいたい。
しかし、さっきのことで疑問がある。
「……気になったのだが、悪魔が悪を滅せよとか、そこのところどうなんですかね?」
「天使にも悪はいるさ。逆に、悪魔にも善はいるから問題ないよ」
その理屈でいいのかよ。




