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自称悪魔と付属品 ~魔力なしの異世界攻略法~  作者: ひのる
第三章 ギルドに加入するということ
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眠れる姫とケルベロス

 

 翌日。

 いつもの様に起床すると、横には珍しくシキの姿があった。

 いつもなら俺よりも早く起きて料理やら何やらしているのだが、昨日のリアンの話でも堪えたのだろうか?


 時間にはまだ少しだけ余裕があるので、起こさずにそのままにしておくか。


「おーいメフィ、いるか?」


 いつもはシキに引っ付いているメフィの姿も見当たらない。

 大方どこかに探索に行っているのだろう。

 しかし、今日は妙に静かだ。


 ふと、街の外を見てみる。

 いつもなら窓から通行人や、近くの商店の活気がここまで聞こえてくるはずが、窓を開けても何も聞こえない。

 小鳥のさえずりや、馬車の動く音もしないな。


「…………なんか、おかしくないか?」


 さすがにこれは異常事態だ。

 すぐさま寝ているシキを起こす。


「おいシキ、起きてくれ。起きろって」


 何度揺すっても、悪いと思いつつ頬を叩いても、シキが目を覚ます様子はない。

 一瞬死んでいるのかとも思ったが、呼吸はきちんとしているようだ。


「まさか、街全体なのか?」


 人々の生活音がしない。

 ということは、街全体が眠っている可能性が高い。

 何をしても起きないシキがいい例だ。


 ……いや、まだ試していないことがあった。


「まさかな……」


 おとぎ話で聞いたことがある。

 眠り姫を起こすのは、王子様のキスだと。


 一般的に知られる方法は試してみたが、さすがにキスなんてものは試すわけがない。

 しかし、魔法で眠っているなら可能性はある。


 俺は柔らかそうなシキの唇にだんだんと顔を近づけ……。


「マスターは何をしているんだい?」

「どわぁあああああ!」


 悪魔の乱入によりシキの顔から飛び退く。

 出て来るタイミングといい、まさに悪魔の所業だ。


「いや、お姫様が目覚めないから、魔法の解除をだな」

「じゃあ、街中の男性にでもキスをするといいさ」

「え?」

「どうやら、ボクら以外は全滅だよ」


 悪い予感が当たってしまったようだ。

 ついに、恐れていた事件が起こったらしい。




 先に偵察していたメフィの話だと、街中の人々が眠ったままらしい。

 どの家の中も、また冒険者ギルドにも起きている人間はいなかったのだとか。

 道端で倒れているような人はいなかったらしいので、昨日の夜から朝にかけて仕掛けられたということだろう。


「気付け薬というのは、いつ頃使われるのかい?」

「ギルド長の話だと、早くて正午だな」


 設置も間に合わないので、一日二回。

 正午と夜になる時間に使われるらしい。

 話では今日中に夜の分を仕掛けるとか言っていたな。しかし、まさか朝から問題が起きるとは。


「じゃあ、正午までボクたちも引きこもろうか」

「それが一番安全だな」


 敵に気づかれる可能性も考慮すると、一番の安全策といえる。

 二人だけの今、下手に動かないほうがいいだろう。


 そうしてメフィと二人、ただ気付け薬の時間まで待機していると外から何か音が聞こえてきた。


「? 気のせいか何か聞こえなかったか?」

「もしかしたらマスターの言う敵かもしれないね」


 この状況で動けるやつなんて、あいつらの言っていた護石を持つ奴らしかありえない。

 対策は既に打ってあるんだ。ここは隠れているべきか。


「……やっぱり、外に誰かいないか?」

「人が動けるわけが……いや、何か聞こえるね」

「なんか、走る音が複数聞こえるんだが」

「ちょっとボクが偵察に言ってくるよ」


 そう残すと、メフィはそのまま窓をすり抜けて外へ出ていった。

 さすが悪魔な分、好奇心旺盛でフットワークが軽いな。


 残されたのは、いまだ眠るシキと暇を持て余す俺一人。

 ……試すべきか?


「今なら誰もいない。戦力は一人でも欲しい」

「シキがいれば文字通り百人力。しかも仲間なので信用できる」

「これは治療、治療なんだ……」


「楽しそうだね、マスター?」

「おわぁぁぁぁぁ! お、おかえり」


 シキの柔らかそうな唇に釘付けになっていたので、いつの間にか横にいた悪魔に気づかなかった。

 横に現れたその顔は、悪魔ではなくまさに天使の笑顔のようにニッコリと微笑んでいた。


「ボクがいない間に……ナ・ニ・シ・テ・タのかな? かな?」

「落ち着けメフィ、俺は何もしていない。未遂だ」


 しばらくは帰ってこないと踏んでいたが、思っていたよりもすぐに戻ってきたので何もできなかった。

 いや、時間があっても何か出来たかは怪しいところだが。


「……まあ、マスターはチキンだからね。信用するよ」

「なんかいやな信用のされ方だ」

「外には普通の冒険者が一人、魔物に追いかけられていたよ」

「マジか。他に動ける人がいたのか!」


 メフィの評価はともかく、理由はわからないが俺の他にも起きている冒険者がいるらしい。

 しかも、魔物に追いかけられているって相当なピンチじゃないか?


「それって無事なのか?」

「それはボクが判断することではないね。それとも、マスターの財布が勝手にすっからかんでも構わないなら、ボクの判断で行動するよ」

「よし、助けに行こう! 判断は俺に任せろ!」


 これでも悪魔なりに気を使ってくれているらしい。

 勝手に所持金が消えるなんて恐怖、味わいたくもないしな。




 何も音がしない建物を出たまではいいが、先程まで聞こえていた音もしない。

 シキを部屋に残したままだが大丈夫だろうか?

 この状況で狙われるとすると、敵にロックオンされているということだが。


「このまま待つのかい?」

「いや、まず上空から何処にいるか探してくれないか?」

「全く、人使いが荒いね」


 文句を言いながらも、頼んだ通りに空へと向かってくれる点はさすがだ。

 こういうとき飛んだり姿を消したりできるのは便利だな。


「お待たせ。冒険者は見当たらなかったけど、魔物はここから東の方角でうろうろとしていたよ。多分、隠れたのではないのかな?」

「じゃあ俺達も魔物に見つからないように移動するしかないのか……メフィ、悪いけど上から道案内頼めるか?」

「やれやれ……マスターが魔物に食べられないためにも頑張りますか」

「ちなみに、その魔物って?」

「あれならボクでもわかる。地獄の番犬と言われるケルベロスだよ」


 それって、危険度大の要注意に分類されるやつでは?

 メフィの指示通りに進みながら、攻略本で念のため調べる。


 ケルベロス。頭が三つある魔物。

 光、呪いに弱いが、何よりも速さが足りない。

 しかし、耐久力も攻撃力も高い。状態異常耐性持ちで、放つ毒に注意。


 必要な情報としてはこんなもんだろう。

 調べるのに夢中になっていたが、どうやらケルベロスの傍まで来てしまったらしい。

 奴がここをうろついているなら、追いかけられていた冒険者も近くにいるはずだが……どうやって探そうか。




「ストップ。そのまま進むと行き止まりだから、横の道だね」

「そうか。追い詰められるところだったな」

「ちなみにケルベロスは、どの方向へ進むか三つの頭で多数決を取るらしい」

「なにそれ面倒くさそう」


 頭は三つでも身体は一つか。喧嘩しそうな魔物だな。

 しかし、そんな情報は攻略本にも書いてなかった。


「なんでメフィはそんなことを知っているんだ?」

「そりゃあ勿論、さっきそんな姿を見たからさ」

「なんだ。てっきり何年か前に見たことがあるのかと……」


 この悪魔の知識も侮ることはできない。

 むしろ、攻略本の知識よりも経験がある分信用に値する。悪魔だけど。


「……誰かいるのか?」

「メフィ、何か言ったか?」

「いや、ボクじゃないよ。そこの行き止まりかな」


 俺たち以外の声がした方角。

 さっきメフィが行き止まりといったので進まなかった道に、誰かが立っているのが見えた。

 どうやら、逃げていた冒険者というのは彼らしいな。


「お前たちは無事なのか……すまない、この通り負傷していてね」

「これは……凄いケガだな」


 逃げてくるまでに何度か襲われたのだろう。

 着ていたと思われる鎧は半壊のまま装備されており、壊れた箇所からツメで抉られたような跡が三本見える。

 そこまで深くはないようだが、肩口は噛みつかれたような跡、腕も片側が骨折しているようでぶらんと垂れている。


「頼む……お礼はする。このケガを治してくれないか?」

「メフィ、いけるか?」

「これは金貨5枚以上は貰わないと無理だね」


 こんなときでも対価は請求するメフィストさん、さすがです。

 仕方ない、今は非常事態だ。もしものための金貨5枚を使うか。


「じゃあ、金貨5枚。これで頼む」

「……ボクが5枚で治せるのはケガのみさ。体力回復や、この男性が戦力になるまで回復するとなると、金貨6枚は必要だ」

「うっ……説明は有り難いが、金貨6枚か」


 三人で買い物へ行った時に金貨3枚。今回金貨6枚か。

 そうすると、昨日の買い物で使った残りの銀貨しか所持金がなくなるが……ええい、ままよ!


「構わん。やってくれ」

「了解したよ」

「すまない……すまない……」


 男性の言うお礼に期待すると碌な目に合わない。

 金を貸す時はあげるつもりで、とはよく言ったものだ。

 これでケルベロスに対抗する手段は限られるが、今は一人でも仲間が欲しい。


「おおっ……おお! 身体がどんどんと軽くなっていく!」

「ボクの魔法は完璧さ。それこそ、元通り以上に調子が良くなる」


 見た目では、光包まれた身体に変化は見られない。

 しかし、本人が言うくらいなら、身体のほうは治っているのだろう。

 傍観者としては、治癒魔法は派手じゃないから効いているのかどうかわからないな。


「治ったよ」

「患者の笑顔がプライスレス」

「? 何か言ったかい」

「すごいな君は……ここまで完全に治せるなんて……おや?」


 先程の男性は、腕の状態を確かめたり身体の動きを確認していたが、こちらを向くと何かに気づいたらしい。


「君たちは……あのカバのときの!」

「ん? 誰ですか」

「ほら、街で合流するといったグループのリーダーだよ」


 メフィの援護で思い出したが、そういえば何処かで見たことがある顔だ。

 よし、これで金貨のアテがようやくできた!


「……マスターが何を考えているかはわかるけど、まずは皆を起こさないと話にならないよ」

「それまではメフィに頼れないか……」

「なんかすまんな……しかし、助かった。有難い」


 戦力は増えたが、結果的にはプラマイゼロのようなものだ。

 さて、所持金がほぼゼロに戻ったわけだが、まずはあのケルベロスか。

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