ヒステリックは除外です
代金を払いメフィに治してもらったあと、俺達は再び奥の部屋へといた。
濡れるからと入室拒否されたが、そこも代金を払うことで乾かしてもらう。
「おい、メフィ」
「ボクは言ったよ。文句は受け付けないと」
この悪魔は後に起こる事を気づいて確認を取ったので、悪いのはゴー判断した俺だ。
しかし、何か納得いかないな。
「さて、ギルド長さん? その子がここにいる理由は、あなたが説明してくれるのかしら?」
「いや、俺だ。さっき説明しなかったが、シキは俺達の仲間だ」
「仲間ですって? その魔族が?」
「別にいいだろ」
見た目はこれでも、元勇者のことだ。
持ち前の固有スキルか何かで、多分魔族だってことに気づいたのだろう。
「魔族だからって何だ? 悪さをしてないならいいじゃないか」
「ヨーヘイさん……」
「まあ私はいいわ。敵意があるなら容赦しないけど」
そういって圧力をかけてくるが、固有スキルを発動されたらシキも俺もどうなるかわからない。
ギルド長がいる限りは大丈夫だと思うが、できればリョウタと敵対したくないものだ。
「その子は、鬼……ですか?」
「……はい。わたしは」
「浄化の光よ、我の元へ集え――――」
「ちょ! リアンっ!……まっ」
リョウタが止めようとするのにもかかわらず、リアンの詠唱が開始される。
あれ、このパターン前にもあったような。
「マスター! シキを守るんだ!」
「っ! ああ!」
呆けていた俺と違って、メフィは的確な指示を出してくれる。
そのままシキの前に出て庇った時、リアンの方から俺たちに向かってレーザーのような光が放たれた。
「ちょ! 何するんだ!」
さっき実験したおかげか、後ろにいるシキにも当たらず、リアンが放った光は俺を避けて壁へぶつかる。
さっきの魔法に物理的な効果はないようで、光は壁にぶつかるとそのまま拡散して消えてしまった。
「ヨーヘイさん! 大丈夫ですか!」
「なんともないが……おい、どういうことだ!」
そこには、リョウタに後ろから抱きつかれているリアンと、目の前の出来事についていけないギルド長がいる。
そして、豹変したリアンに困惑する俺たち。
「鬼はっ! 滅びたはずです!」
「わたしは元人間で……」
「黙りなさい! 信じられるわけがっ!」
ダメだ。
事情を知っていそうなリョウタは止めようとしているが、肝心のリアンが暴れていては話にならない。
どうしたものか。
「すまないね。いくら『光の召喚士』でも、これは処罰事項だ」
「私はっ! 鬼を! うっ……」
暴れて話にならないリアンを抑えたのは、意外にもギルド長だった。
てっきり戦闘能力は皆無かと思っていたが、いつの間にリアンの横へ移動したのだろうか。姿が見えなかったぞ。
「……さすがは『神速のランド』と呼ばれた男ね」
「昔のことさ。さて、ギルド内はもちろん、訓練場以外での攻撃魔法は御法度だ。説明してくれるのだろう?」
「当たり前よ。その代わり、リアンの処罰は考えてもらいたいわ」
「それは被害者が判断する。シキ君次第だな」
いくら俺が不遇されているといっても、シキが絡むと途端に優しくなるな。
さすがはロリコンといったところか。
「えっと……わたしは無傷なので……というか、あなた方は?」
「自己紹介がまだだったわね。私は……」
そのとき、リョウタがチラッとこちらを見てきた。
ここはギルド長もいるので、正体は隠すといったところか。
今はリアンの事情のほうが気になる。
「Aランク冒険者のシーシア。魔王の場から帰還した勇者パーティよ。こっちのリアンはその時の仲間ね」
「え! あの場所からの帰還者ですか! ということは……」
「ああ。俺はそこで知り合った。あの時はお世話になったな」
その辺の事情はシキにも話してあったので、すぐに気づいたらしい。
しかし、鬼に関することは俺も聞いたことが無い。
「シキとマスターに危害を加えた。これはボク達と敵対するということでいいのかな?」
「メフィも落ち着けって。シーシアなら事情を知っているんだろ?」
「ええ……といっても、私は少しだけ。シーシアなら知っているわ」
「ん? 君が『爆炎の姫君』ではないのか?」
「あっ……えっと、ゆ、勇者様なら詳しく知っているわ!」
ここにいないからって好き勝手言っているが、自分の首をしめていることに気づいているのだろうか?
「そういえば君たち、勇者様は……そうだったな。すまない、続けてくれ」
「助かるわ。リアンは村を……鬼に襲われたのよ」
「「え?」」
それから話を詳しく聞くと、どうやらシキの村と一緒で、鬼に襲われて大幅な被害を受けたのだとか。
ただ、鬼になった人間はいないこと。
召喚士の村だったので、村の守り神である竜が撃退してくれたということやら、いくつか違いはあった。
なので、鬼という種族は許せないということであった。
それを聞いたシキは、泣き出しそうな顔になっていたが、その事件でもシキが悪いわけではない。
リアンの怒りは、俺にとっては見当違いに思えた。
「だからって、いきなり攻撃はあんまりじゃないか?」
「それについては私から謝罪するわ。ごめんなさい」
いくらメンバーの不祥事とはいえ、リーダーとして止められなかった責任を感じているのだろう。
俺たちに対して、リョウタが深く頭を下げた。
「あと、私達はもう顔を合わせないほうがいいわ」
「リアンがまた襲ってくる……のか?」
「そうね。私には抑えられない」
俺にもリョウタが悲しそうな顔をしたのはわかった。
あいつとはもう少し話をしたかったが、事情を知った今だと不可能に思える。
この世界にはそういう問題もあるのか。
「わかった。俺達はしばらくギルドへ通う予定だ。ここにはリアンを近づけないほうがいい」
「そうね。そうするわ」
「君たちが離れるのは痛手だが、問題を起こされるよりはマシだ。出来る限りは『爆炎の姫君』だけでここに来てほしい」
「……そうね。私達も用があってここに来たから、リアンは引っ込めてさっさと済まそうかしら」
明日何が起きるかわからないのに、何か問題だらけだな。
もう考えるのも嫌になってきたが、いつの間にか目の前にあったお茶を頂き、一息つく。
「シーシア達の用って何だ?」
「……あの外にあるベヒーモスを倒した冒険者はここにいるのかしら? 出来れば私達のパーティにスカウトしたいのだけど」
そういや、リョウタは魔法が使えないからパーティを組める人がいないとか言っていたような。
多分、事情を話せるような強力な助っ人でも探しに来たのだろう。
だがしかし。
「それなら、わたしですが」
「ふぅ……いくらあなたがSランクの冒険者だったとしても、無理ね」
さっきの出来事があったからだろう。
リョウタはすぐに諦めたようだ。しかし、勘違いをしている。
「? わたしはギルドに所属していませんよ?」
「えっ、あなたほどの実力なら、勇者並の強さが……」
「登録料が払えなかったんだ」
「「「……………………」」」
俺の発言に、リョウタとギルド長のみならず、シキまでもが絶句する。
「ヨーヘイさん、その言い方はちょっと……」
「酷い話ね」
「Eランク君よりは何十倍も活躍する。本人の希望次第だが、私の権限で登録してもいいだろう」
「いや! 他にも事情はあるが、俺は事実を述べただけだ!」
周りからはフルボッコだ。
まあ、シキも登録はしないようだし、このままでもいいのか?
しばらくして、ギルド長はまだ目が覚めないリアンを運んで、リョウタと一緒に外へ出ていった。
リョウタは多分ユニコーンに乗せてそのまま宿へ向かうのだろう。
……机の上には、耐性を与えるという護石が一つ。
「なあ、明日何か起こるなら、買い物は先に伸ばすか?」
「せっかく楽しみにしていましたけど……仕方ないですね」
「この護石を貰うことはできないのかい? これをシキが持っているなら、影響は受けないだろうけど」
まさに悪魔の囁き。
証拠品としてギルド長に渡すか、それともネコババして自分たちのために使うか。今なら誰も見ていない。
元々所有権は俺達にあるのだし、バレなければ良いだろう。
いやしかし、街の安全のためにも解析してもらって対策をしたほうが……。
「そもそも、その護石を持っていてもわたし達だけで敵を倒さないといけないのですよね?」
「よし、シキをそんな危険な目に合わせられないから却下だな」
最悪俺一人だけ無事……ということになりそうだが、そこは俺も倒れたフリをすればいいだろう。
あの様子だとみんな寝るだけだろうしな。
何が起こるかわからない以上、ギルドに丸投げするか。
「チッ……」
「おい悪魔。なんか言ったか?」
「なんでもないよ。さあさあ、ボクたちも資料の続きをしようじゃないか」
結局その後は、帰ってきたギルド長に明日の予定を話し、そのまま資料室へと引きこもった。
ただ眠るだけなら、眠らないようにすれば良い。
対策として、時限式の気つけ薬をバラ撒いたり、外部への警備を強化すると約束してもらった。
もし何もなければ、気付け薬も解除したら良い。
事前にできる対策としては、護石の研究とこんなものだろう。
捕虜が目を覚まさない今、詳細は不明なんだ。
今日だけは俺も資料室へ入る許可をもらい、メフィとシキの手伝いをした。
……もっとも、文字が読めないので整理整頓が主な仕事だが。
そして三人で仲良く宿へと戻る。
……この時点で、事の重大さに俺らが気づけなかったら、他に誰が気づくというのだろうか?
深い夜の時点で事件は進行していたが、その時の俺達はどこか楽観的に構えてそのまま眠りへと落ちていた。




