生意気な幼女
こんなちっちゃい子に、拒否られて切れるほど子供ではない。
ここは紳士的な対応で行きましょうか。
「お初にお目にかかります。まず自己紹介を……私の名前は大宮陽平。なぜかこの世界に来てしまった一般人です」
「この世界に……て、ことは、お前も勇者なのか?」
思わず『おまえは何を言っているんだ』と口に出そうになったが、ここは我慢だ。
この娘の常識では、異世界人は全員勇者なのかもしれないからな。
「お言葉ですが、私にそのような称号はありません」
「そっか……お前も勇者なら、是非ともパーティを組んでもらいたかったが、仕方ないな」
「ところでその……貴方はシーシア様かと見受けられますが?」
「いや、俺はリョウタだ。一応ここでは、勇者をしている」
「えぇ! あの、シーシアさん!」
その発言に驚いたのは俺だけではない、リアンもだ。
むしろリアンのほうが、俺の何倍も驚いているように思える。
しかし、どういうことだ? 勇者は石になり、シーシアだと呼ばれる人物はリョウタと名乗る。ということは……
「もしかして、シーシアさんとリアンも勇者だったり?」
「そんなわけないじゃないですか! どうしましょう、シーシアさん、頭の打ちどころが悪くておかしく……あぁ、わたしはどうしたら!」
「落ち着け! いや、寝起きの頭に響くから静かに!」
このままでは埒があかないので、リアンに『大丈夫だよ』や『悪いのは君じゃない』といった言葉をかけて落ち着かせる。
その様子を自称・勇者は複雑な顔をして見ていたが、何も言ってこなかったので無視しても大丈夫だろう。
「お前らの距離感が近いのが気になるが……それは後にしてだ。俺はリョウタ。今はシーシアの身体になってはいるが、中身は石にされた勇者だ」
「え、それじゃ……シーシアさんは……」
「おそらく、俺の代わりに石に……」
「そんなっ!!」
要するにだ。
何らかの原因でリョウタとシーシアが入れ替わって、シーシアは勇者の身体ごと石にされたらしい。
本来なら石にされるのは勇者だったのに、とんだ被害だ。
「じゃあ、シーシアと呼ばれる君が、リョウタってことでいいんだな?」
「ああ。だから、俺のことはシーシアと呼ばないでくれ」
「でもシーシアさんは……すぐ横にいるのに、この場にいないなんて」
「俺だって悪いと思っているよ。その……あいつの身体を勝手に使って」
「でも、勇者さまが無事で、よかったです……」
リアンとしては複雑だろう。
いなくなったリョウタの中身がシーシアで、目の前のシーシアにはリョウタがいる。これからどういう旅をしていくのやら。
いや、待てよ。その仲間に加えてもらえば、だ。
「確認するが、見た目だけの変身とかではないんだな?」
「ああ。現に俺の魔力は、ほとんど感じない。シーシアの魔力は感じるが……」
「じゃあ、君も女の子なんだね。安心したよ」
俺のその発言に、シーシア……もとい、リョウタはギョっとした表情でこちらを凝視してきた。
あれ、俺なにか間違っていること言ったかな。
これから可愛い女の子二人と旅ができる。何も問題はないな。
「その、見た目はシーシアだけど、俺は男だからな?」
「見た目というか、身体も女の子だけどな」
「うぅ……そうなっているが、その、女の子扱いはあまり……」
そう言ってリョウタは、何かを探すように目をキョロキョロさせる。
しかし、目的のモノはなかったのか、すぐに俯いてしまった。
……いや、よく見ると、リアンのほうへチラチラと視線を送り、何かを訴えかけている。
たまに見える横顔は赤く染まっているし、何かを我慢しているようだ。
「ところでリョウタ。さっきからモジモジして、何か落ち着かないみたいだけど……どうかしたのか?」
「きゅ! 急に呼ぶな……いや、その、なんでもない……」
「勇者さま! 何かあるなら言ってください! こうなってしまった以上、わたしが全力でサポートいたします!」
「うぅ……大声を、だすなぁ……」
だんだんと弱々しくなっていくリョウタ、もとい勇者。
これはさすがに……察したほうが良さそうだな。
「リアン、俺は部屋に戻るよ。あと、リョウタに付き添ってやってくれ」
「えっ? どういうことですか?」
「部屋の入口近くだ。我慢の限界らしいから、リョウタをそこまで運んで、扉越しにレクチャー? かな」
「ぅ……たす、かる。リアン……はや、く……お願い……」
「え! えぇ!」
……その後、どうなったのかは何も知らない。
ただ、隣の部屋に戻ったすぐ後に、どこからか泣き声が聞こえてきた。
この部屋、防音もバッチリだと思ったんだけどな。
俺がトイレまで運んだほうがよかったんじゃないかって? そこはメンバーを拒否されたささやかな仕返しだ。
それに、女性同士のほうが色々と都合が良いだろう。
まあ、どうなったかなんて、俺には関係のないことだ。
ただ…………昼飯、食べ損ねたな。
その後、もう夕飯でもおかしくない時間帯にリアンが訪ねてきた。
どうやら、夕飯はご一緒にということらしい。
予想通りだ。
もし俺に尻尾があれば、扉がノックされた時点でブンブンと振り回してリアンを困らせていたことだろう。
「先程は、その……すみませんでした」
「いやいや、俺は何もやっていないからね。それよりもさ、飯行こうぜ。昼飯食べてないから空腹でさ」
「え! あの後食べに行かれなかったんですか!」
「ああ、俺は文字が読めないからね」
「文字が……あれ、でもメニューを指で差せばよかったのでは?」
「…………その手があったか!」
この世界の言葉は通じることだし、文字が読めなくても何か注文できたな。
俺にチャレンジ精神があれば……くっ、無駄な時間を過ごしてしまったぜ。
その後、リアンの真後ろにいたリョウタに驚きつつも、何も言わずに一階の食堂へと向かう。
服装が変わっていることや、それがゴスロリ服からピンクでフリフリのワンピースにレベルアップしていても、こちらからは話しかけない。
それが優しさってもんだ。
食堂へ着いた。
ここでも、皆しゃべらない。無言でメニューを差し、次々と注文をしていく姿を見ると、俺もこうすればいいのかと勉強になる。
注文を終えても誰もしゃべらない。
……ここは、先陣を切るか。と思ったところで、奴が先制攻撃をしてきた。
「ど、どうだこの服装…………俺に……シーシアによく似合って可愛いだろう?」
「とっても可愛らしいよ。でもその服のチョイスは……」
「それなのですが……この宿の女将を呼んで、シーシアさんに合う着替えがないか聞いてみたのです。そうしたら『まあ! なんて可愛らしい子なの! あなたにピッタリのお洋服があるわ!』と言われまして……」
「お、おう……」
「ああ、どうだ、かわ……ぐすっ……いいだろっ……うぅ」
着替えている時点で、気づくなっていうほうが無理だろう。
多分あの後……それと、泣き声の正体は……いや、指摘するのは無粋だろう。
それにしても、リアンの声真似、妙に上手だったな。
頭の中で別のことを考えていたが、どうやら目の前の姫様はご乱心らしい。
俺が返答に困っていると判断するや否や、テーブルに身を乗り出し、胸元というか服を過剰にアピールしてきた。
「ほら! 可愛いって言えよ! お前の為に着替えたんだ! 頼む、いってくれ……」
「でも女の子扱いは……」
「俺は……いや、私は……うぅ、でも女の子になっちゃったから……」
リョウタは認めたくないのか、混乱しているようだ。
しかし、本人は気づいていないようだが……それ以上アピールすると、中が見えてしまいそうなくらい服を引っ張っている。
いや、リアンと違って、スレンダーすぎるから興味はないんだけどさ。
放っておくと、さらに自滅しそうで可哀想だ。
ここはお望みどおりに事を進めよう。
「…………か、かわいいよ」
「うぅ……ありが……とぅ」
「勇者さま…………」
また微妙な空気になりかけたが、こちらの雰囲気を見計らったようなタイミングで料理が到着したため、なんとか回避できた。
ここのウェイトレスさんグッジョブ! と思いつつ視線を巡らせると、一人の女の子と目が合った。
そういやさっき運んでくれたのはあの子だったな……あとでお礼を言っておかないと。
料理を食べ始めてからは、最初の空気などなかったかのように落ち着いていた。
食事中に会話こそなかったが、気分転換にはちょうど良かったらしい。
先程のお姫様なんかは、山菜のようなものを食べては渋い顔をしていたが。
やっぱり美味しいものを食べると、人は幸せになれるな。
「で、ここからが本題なんだが」
「ん? どうしたんだ?」
見ると、リョウタは目の前の料理を半分以上残している。
もしかして、食べられないから食べてほしいとの話だろうか。
「今後の旅についてだ」
「……っんく。これ、食べ終わってからでいいか?」
「ん? ああ、すまん。俺はもう食べられないからな……」
「シーシ……勇者さま! 料理を残すのですか!」
「あぁ……思った以上に食べられなくなっている。身体が違うと、こうも違和感があるんだな……」
そういってリョウタはお腹を擦っているが……気づいているんだろうか?
その仕草、まさに妊婦さんがお腹の子を撫でる行為だ。
いや、いまのリョウタは女の子だから、間違ってはいないのか?
「その仕草……いや、なんでもない」
「ん? どうかしたのか?」
「……いまの勇者さまには、なんとなく母性を感じました」
「どういう意味だ? …………っ!!」
あ、気づいた。
行く行くはそういったこともあるかもしれないが、今のリョウタには刺激が強すぎたらしい。妊婦ってことは……あれだよな。
男なのに、女として行動をした結果というか、幸せというか。
肝心のリョウタもそういった想像をしているのか、全身から火が出そうなくらい真っ赤に染まっている。
リアンの話では、こいつも俺と同じくらいの年齢みたいだからな。こういった話に免疫がないのも仕方ない。
俺は男側だから、むしろ可愛い反応が見れて満足です。
話を流さずに仕掛けたのはリアンですけど。
俺とリアンが食べ終わってからも、リョウタはしばらく顔を上げなかった。
よっぽど恥ずかしかったんだろう。
俺は無言で、デザートを三つ追加注文する。
……しばらくして、運ばれてきた一つをリョウタの前に置く。
そして、皆の前からデザートがなくなる頃には、リョウタの表情も大分落ち着いたみたいだ。
顔はまだほんのりと赤いが、顔を合わせられる程度には回復していた。
「で、ここからが本題なんだが」
「ん? どうしたんだ?」
「先程と同じやり取りですね……」
ここは気にしていたら負けだ。
何事も勢い。そうでなければ全く進まない。
「お前を仲間にすることはできない」
「勇者さま! この人は恩人なんです! それに戦力としても……」
「リアン。こいつと少し、話をさせてくれ」
「……………………わかりました」
どうやら訳あり……みたいだな。
こちらとしても、パーティに入れてもらう為の準備として、材料はいくつか用意しているが……きちんとした理由があるなら、話は別だ。
何しろ、俺には情報が全くないんだ。
七日間の安全は保証されている事だし、残りの日数で意見も変わるかもしれない。
それなら、交渉といきましょうか。
「ヨーヘイといったな?」
「ああ、多分君と同じ世界からきた」
「だろうな。なので、単刀直入に言おう」
そういった後、リョウタは近くに人がいないかを確認した。
そして、俺とリアン。二人にしか届かないような声でこういった。
「お前、魔王と繋がっているだろ」
…………まず魔王なんて存在、知りませんけど。




