ユニコーンに跨る元男
そう言って、白馬に乗って現れたのは幼女だった。
訂正。幼女の皮を被った男だ。
二週間も経っていないうちに再開とか、もしかしてこいつらは俺を追って来たのか?
「久しぶりね! 元気にしてた?」
「ブッ」
「あっ……んん。久しぶりだな。元気だったか?」
さっきのことをなかったことにしようとしているが、今更取り繕っても記憶は消せないぞ。
顔を真っ赤に染めながらスルーされることを祈っているようだが、こんな面白そうなことスルーできるわけがない。
「しばらく見ないうちに、すっかり女の子に染まったみたいだな」
「ばっ! 隠すためというか、シーシアのイメージを壊さないためにも必要なことなんだよ!」
「……今も誰かに見られているかもしれないぞ?」
「っっ……! 必要なことなのよ!」
「ぶはっ!」
こんな局面で、まさか乱入者に笑い殺されることになるとは。
笑うと先程の腹パンで負傷した腹部にダメージが入る。しかし、こんな面白いことを我慢できるはずもない。
さすがに仰向けのままでは辛いので、そろそろ起き上がることにする。
「そういや、街に来ると噂のAランク冒険者って、リョウタのことだったのか?」
「そうよ! あれから情報を集めたけど、ここで相談するのが一番だと思ったわ……あ、いや、最善だと思ったんだ」
「リアンとはもしかして別行動で来たのか?」
「違うわ。リアンには先にギルドのほうへ行ってもらっているの。このユニコーンもリアンの召喚獣なのよ」
「オゥ……」
さっきはネタで済んだが、ここまで完全に染まっていると笑いを通り越してドン引きのレベルになってくる。
いったいこいつに何があったんだ?
俺の反応を見てか、リョウタはポツリと漏らすように語りだした。
「くっ……あの後シーシアのように振る舞えるようにと、リアンに叩き込まれたんだ。女性としての振る舞いや、シーシアならどう行動するかってな」
「にしても染まり過ぎじゃないか」
「もう……オシオキという名の蹂躙は勘弁だわ」
「シーシアという人の行動をトレースできる時点でリアンが怖い」
だとすると自己防衛本能で今のリョウタが完成したのだろう。
そういうことなら、俺も協力するか。
「じゃあ、シーシア? 達はどうしてこの場所へ?」
「えっ……ぅ……ここから何か感じたのよ!」
人目につくことを思い出したのか、俺がシーシアと呼ぶことには何も言ってこないな。
しかし、思いっきり睨まれているが気にしないでおこう。
「そ、そうだ! 俺はさっき槍使いに攻撃されて……」
「そいつならさっき倒したわ」
リョウタが指差した場所には、ガレキに下半身が埋もれたさっきの男だった。
グッタリしているところを見ると、さっきの高速飛行物体はアイツで間違いなかったらしい。
俺が死を覚悟するくらいに苦戦したのに、こいつはこうもアッサリと……これが力の差か。
「それにアイツにかけられた呪いで、俺はもう……死ぬんだ」
「え? にしては、元気そうじゃない」
「ん? そういや、なんともないな」
まだ腹の痛みや切られた箇所は痛むが、死を感じるほどの痛みではない。
時間が経てばやがて回復するであろう傷だ。
じゃあ、あの呪いとかいうのはなんだったんだ?
「もし本当に呪われているなら、この子が浄化できるわ」
「この子って、そのユニコーン?」
「そうよ。さっきの男も倒したのは私じゃなくてこの子よ。前の旅の時は、こんな優秀な子だとは思わなかったのよねー」
そう言って、ユニコーンの頭を撫で撫でしているが、ユニコーンなんだろ?
しかし、リョウタも女に染まりすぎだろ……これが初対面なら全く違和感を感じないくらいに成り切っている。
「なんか、私に対して妙に懐いてくれるのよ。昔は全くそんな素振りもなく、乗せてもらおうとしたらよく蹴られたのに」
「それってシーシアだからじゃ?」
「え?」
「だってほら、ユニコーンって処女を好むって」
たしか、処女しか背中に乗せないとか、それが弱点で捕まることもあるとか。
どんだけ処女厨なんだよって話だ。
俺がそう伝えた途端、さっきまで笑顔だったリョウタの顔がかぁーっと赤くなった。まさか気づいてなかったのか?
「そ、そういえば……シーシアのときもよく懐いていたわ」
「じゃあ、そいつはその身体で判断してるってことか」
「や、やめてよそんな、そんな……言い方をっ……するなぁ……」
だんだんと弱々しくなっていくリョウタは見ていて面白いが、コレ以上は恩人に失礼にあたる。
呪いを浄化できるっていうなら、見るだけ見てもらうか。
「おいそこのユニコーンよ、もしよかったら俺の呪いを解いてくれ」
「……フッン」
「…………こいつ今鼻で笑ったぞ」
幻獣だかなんだか知らないが、獣の分際で偉そうにするじゃないか。
ただまあ、こちらは依頼する立場なんだ。いまは我慢するべきだ。
「せめて、呪われているかどうかだけでも」
「……ペッ」
「てんめぇぇぇ! 調子に乗りやがって!」
「ちょ、落ち着きなさいよ。ほら、ヨシヨシしてあげるから!」
慣れた手つきでユニコーンをヨシヨシしているが、別にアイツが撫でられる必要はない気がする。
されるなら俺の方だろう……リョウタにヨシヨシされるつもりはないが。
「……ね? お願い。確かめるだけでも、ね? あとでご褒美をあげるから」
「フッン……クゥ……」
「ほら、いいって! ヨーヘイはじっとしてて!」
俺には何を会話していたのかさっぱりだが、リョウタに手招きされるままにユニコーンの角へと近づく。
そうしてユニコーンの角が俺の頭に少し触れたかと思うと、次の瞬間には前足で蹴られていた。
「……ぐぁぁぁぁ! 何すんだてめぇ!」
「よかったわね! 呪われていないって!」
「え、でもあの時たしかに攻撃を……」
「この子の鑑定は信用できるわ。ね!」
「フフン」
なにそのドヤ顔。
人を蹴って置いて勝ち誇った顔をするのはむかつくが、獣相手にムキになるのも違う気がする。
なんかモヤモヤするな。
「ただの疲労だったんじゃないの?」
「……そう言われると、そうだったのかもしれないな」
「でもほら、呪われていないから安心したでしょ? 立てる?」
「お、おう……」
そう言って、ユニコーンから手を差し伸べてくるが……位置的に高くて掴めない。なんかユニコーンの足がピンと伸びているのは気のせいか?
しかし、中身がリョウタだと分かっていても、ここまで完璧に演じられるとただの幼女だな。
なんか、そう思ったら急に緊張してきたぞ。
「そ、そういえば、周りの人たちはまだ寝て……え?」
「そうね、そろそろ起きても……うわっ!」
会話に夢中で気づかなかったが、俺達の周囲にだんだんと人が集まってきていた。ユニコーンが目立つということもあるが、なにより状況の説明を求めてといったところだろう。
誰も話しかけてこないが、周囲にいる人の頭にハテナが浮かんでいることは想像するに容易い。
「……こほんっ、えー……みんな、誰かに眠らされたようだったから、Aランク冒険者の私、シーシアが助けに来たわ!」
「「「「「おおおおおおおお!!!」」」」」
「うるせぇ……」
やはりAランク冒険者という名の信頼は厚いらしい。
誰も崩れた建物や、襲撃者の惨状には追求しない。Aランクってのは街を護るためなら破壊しまくっても良いってことか?
「悪は去ったわ! 私は敵を回収してギルドに向かう。道をあけなさい」
「「「「「おおおおおおおお!!!」」」」」
そのまま襲撃者をユニコーンが引っ張り上げ、口に咥えたまま運搬する。
そんなに乗せたくないものか?
まああいつが良いならそれでいいけどさ。
ちなみに俺を苦しめた槍を回収しようと思ったが、軽く探した感じでは発見できなかった。
大方どこかのガレキの下敷きにでもなっているのだろう。
そのまま壊れてくれていると良いが。
「ヨーヘイはどうするの?」
「俺も報告があるし、ギルドへ向かう」
明日に何か起こる可能性があるんだ。せっかく得た情報なら、共有しなければ備えも何もない。
「そういえば、近くにもう一人感電させた奴が……」
「え? 私は向こうのほうから来たけど、そんな人物いなかったわよ?」
「あれ、おかしいな」
逃げる前は俺も向こうの方へいたので、転がっていないとおかしいが……まさか逃げられたか!
「取り逃がしたか! やっちまった」
「まあまあ、こうして一人は確保できたんだしいいじゃない」
敵を一人逃したことは痛いが、こいつを捕虜として尋問すればいいだけか。
下手にこちらの情報が向こうに流れていないと良いか……例えば、目の前のこいつが勇者だという情報だったり。
「……何かしら?」
「いや、俺の前では普通にしてくれないと、中身がリョウタだってことを忘れそうで怖い」
「色んな意味で身を守るためにも、そのほうがいいのかしら……」
悲壮感に溢れる幼女はともかく、これなら俺やリアンが話さない限りはバレる心配もなさそうだ。
逃げたもう一人や明日何が起こるかの不安はあるが、とりあえずは所属しているギルドの指示を仰ごう。
「そういえば、ヨーヘイは冒険者になったの? ランクはまだDかしら」
「ああ。俺もようやくな。ランクは初のEランクだとさ」
「Eランク! ははははっ、そりゃ! 傑作だわっ!」
顔でしかわからないが、ユニコーンのやつも笑っている気がする。
リョウタに馬鹿にされるのはいいが、なんだこの敗北感は。
リアンの召喚獣じゃなかったら真っ先に討伐してやるぞこの野郎。




