ぶらり港町
宿は奮発して一人一部屋……にしようとしたが、シキの強い希望で二人一部屋にした。
どうやら一人部屋だと、ギルドの依頼から帰って顔を合わせる時間もなさそうだからということらしい。
受付の人に何か邪推されそうだったが、堂々としていれば問題ない。
むしろシキが鬼だとバレないかが心配だ。
ついでにメフィのおもちゃにされることが確定したみたいだが、そうなったのはシキの希望のせいでもあるので我慢してもらうしかないだろう。
こうして、俺達のローリアの街での一日は過ぎていった。
あれから三日が経った。
この三日間は特に何事もなく過ぎ去っていく。
シキがギルドへ調べ物兼仕事に行き、俺はそれを送って帰宅する。
最初は俺も調べ物を手伝おうとしたが「Eランクに閲覧可能な資料はないさハッハッハ」と追い返されてしまった。
助けてほしそうな視線を感じたが、追い出されては俺に出来ることもない。
それに、文字が読めないのに資料を探せというのも無理な話だ。
せめてもの助けとしてメフィに手伝うように頼んだが、本当に手伝っているのか怪しいところだ。
そしてメフィもいなければシキもいない。
あるのは存在感の薄い攻略本のみときたら、俺のやることは一つ。
宿でゴロゴロとするだけだ。
これでも最初の方は攻略本を見て勉強をしていた。
この世界の魔物についてや、武器について。あとは魔法にどういった種類があるかなどだ。
しかし、街の名前を見ても何処にあるかわからないし、魔法に至っては自分が使えないので勉強しても無駄になりそうだ。
なにより、一人で見ていても知らないことが多すぎて虚しい。
地域や街の名前もろくに知らないのに、何とかの街で入手可能とか書かれてあっても入手難易度がわからない。
攻略本にしてはデータ類しか載ってないし、不備が多すぎるだろ。
仲間が近くにいれば聞くこともできるが、まさかこんなことでメフィやシキがいないことによる寂しさを感じるとはな。
よって、しばらくは昼寝をしたり、攻略本をペラペラと眺めれたりして過ごした。
夕方になればシキとメフィも帰ってくるので、昼の堕落生活のことはおくびにも出さずに対応する。
行き帰りのシキに付いて行く時間のみ外出し、残りは宿でゴロゴロする。
そんな生活が続いたある日、シキが帰り道で興味深いことを話しだした。
「そういや、Aランク冒険者のパーティが近いうちに来るらしいですよ?」
「Aランクのパーティ? あいつらはBランクだから違うか……」
俺としてはベヒーモスの報酬を受け取るためにも、あいつらが来てほしかった。
まあそれでも、強いパーティが来るということはこの街はしばらく安全に違いない。
「やっぱそいつらにも二つ名とかあるんだろうな」
「そうですね……聞きましたけど、忘れちゃいました。てへ」
可愛く首を傾げる仕草も、年相応だと思えばおかしくない。
実際はわからないが、見た目では年相応なんだ。横にいる悪魔もこれくらいの自然な可愛さを見習ってほしい。
「ん? ボクに何か言ったかい?」
「いや、なんでもねぇよ」
たく、勘だけは鋭い悪魔だ。
「そういや、資料の進み具合はどうなんだ?」
「そうですね……やはり何十年も前のことなので、探すのにも一苦労です。まだメフィストさんが仕分けしてくれるので助かりますが、一人だともう諦めたくなるくらいには大変です」
「何十年ね……」
本人は隠したいのか、隠すつもりがないのかどっちなんだろう。
しかし、嘆く気持ちもわかる。
俺も一回部屋を見たが、さながら図書室に大量のファイルが詰め込んである感じだ。
しかも、ラベルで項目が区別されていない。
まずファイルを取り出して、中身を確認。そして求めている記述と全く違うものなら元に戻し、少しでも関係しそうなら中身を確認。
大体は年度が違うらしいが、中には何年前の資料か日付が見当たらないものもあるので、整理整頓しながら進めているらしい。
資料管理の怠慢が垣間見えるが、事務仕事メインなギルドならならこういうところはきちんと管理してもらいたいところだ。
「あ! 探している途中で、面白そうな記述があったんですよ! 例えばこのスライムの大量発生の話なんかは、突然変異のスライムが現れたとかで……」
「大量発生とかはシキのケースと似ているな」
「そうなんですよね。なのでその事件について調べていたんですけど、突然変異のスライムの特徴として……」
「よしわかった。資料捜索が捗らない原因はシキにもありそうだな」
「その通りだよマスター……」
俺の前では滅多に疲れた顔を見せないメフィも、脱線しすぎた行動にはまいっているようだ。
悪魔をもコキ使い疲労させるとは、さすがこの鬼。タダ者ではない。
「そういや、ここって港町のわりには海に関するものが売っていないな」
「そんなことないですよ? 大体わたしたちがギルドに着いた後に売り出されているはずですが……見たことありませんか?」
なぜギルドにカンヅメのシキが知っているのかはともかく、これでは俺が堕落生活を送っているとバレそうだ。
人に仕事をさせて、俺はゴロゴロ生活……うん、まずい。
「いや、見たこと無いな。街を散策している最中に見てもおかしくないが、たまたま視界に入らないらしい」
「そうですか。なら明後日一緒に見に行きませんか? 案内もしてほしいですし……海鮮と聞くと、もっと色んな物を食べてみたいです」
そういって、両手を頬に当てながらうっとりしているが、こっちは別の意味で気が気じゃない。
案内? できるわけないだろ。
「そういや、シキは森育ちだったね。食事の度に魚を頼むのはそういう理由があったとは……どうかしたかい、マスター?」
「いや、なんでもない。明後日は休みなのか?」
「たまには、休みでにしてもいいかなーと思いまして。そろそろ半分ほど終わりますし、ギルドの方にも休んだほうがいいと気を使われてしまって」
「それなら明日でも良かったんじゃないか?」
まさかこっちが街を案内できないことを承知で猶予をくれたわけでは……短い付き合いだが、シキならそれくらいのことを予想しそうで安心できない。
「明日は……その、いま見ている資料を中途半端で切り上げてしまったので、出来ればキリの良いところで休みたいなと。どうしてもというなら明日でも大丈夫です」
「いや、どうせこっちは暇だから、明後日にしようか」
たしかに途中で引き上げると思いっきり楽しめないかもしれない。
懸念材料は解消しておいたほうが吉だ。
「ほう……ボクらはこんなにも忙しいのに、マスターは暇なんだね」
「あっ、いや! 俺は入れないから仕方ないだろ!」
二人にだけ作業させているのは心苦しいが、上からの命令なら俺にどうすることもできない。
せいぜい明日楽しませるためにリサーチするくらいか?
「明後日埋め合わせするから、な?」
「まあ悪いのはあのランドとかいうギルド長だからね。仕方ないか」
「そこの悪魔も一因になっているような……」
「何か言ったかい?」
「なんでもありません」
下手に反論して機嫌を損ねると、何を要求されるかわかったもんじゃない。
その日は宿に着くと、シキの明後日やりたいことはなんだとか、メフィに暇ならあれとあれを買ってほしいなどの依頼を受けて床についた。
ギルドで二人と別れた後、俺は明日のためのリサーチという名目で街を散策していた。
この街について四日ほど経つが、初日くらいしか観光という観光はしていなかったからな。
しかし、いくら明日三人で回ると言っても、一人で色んな店を回るのには少し寂しさがあるな。
今まで気が付かなかったが、朝というには遅すぎるような時間になると、ちらほらと海鮮類を売り出す市場が見えてきた。
どうやら朝に漁へ出て、戻ってくるのがこの時間帯らしい。
もっと早めに売り出せば良いのにとも思うが、住民の起床時間も考えるとこのくらいの時間が一番売れるのだろう。
シキのためにいくつか見繕ったが、食事は好みがあるので予想がしづらいな。
断られてもいいように、保存の効く干物類をいくつか買っておくか。
他にも禍々しい見た目の魔物だが、美味だという魚や、貝のような食べれるかどうかわからないものが捨て値で売っていたので買っておいた。
もしこの場にメフィがいたら、謎コレクターとでも呼ばれていたかもしれないな。
魔物なら攻略本に載ってるはずだし、なんとかなるだろう。
そうやっていまだ活気の衰えない市場をあさっていると、何か見覚えのある小さな魚を見つけた。
値段を見ると……銅貨5枚? 普通の魚と同じくらいの値段だな。
「おやっさん、この魚ってどうしたんだ?」
「ん? ああ、そいつは俺の網に引っかかってよ。そこで放流すればよかったんだが、後にしていたら忘れちまってな」
「そういうことってたまにあるよな」
「そうだろうそうだろう! だからこうして売りに出してるってわけさ!」
話しながらもよく観察していると、これは攻略本で見かけた魚に間違いはなさそうだ。
だとすると魔物なわけだが……名前までは思い出せない。
「面白そうだから俺に売ってくれよ」
「お、兄ちゃんが買ってくれるなら助かるぜ! はいよ! ……たしかに銅貨5枚だな。持っていってくれ」
勢いで買ってしまったが、時間だけはたんまりあるんだ。
詳細は後で調べてみるか。
「ついでといっちゃなんだが……同じ魚があと何匹かいるんだ」
「フッ、全部くれよ」
「兄ちゃんならそういってくれると思ったぜ! ほら持っていけ!」
「ありがとな」
食べられるかどうかも覚えていない魔物をゲットしたぞ!
二人のどっちがいたら、絶対に怒られていたな。
それからは冷やかしという名の市場調査を行なっていたが、どうやら市場の撤収時間となってしまったらしい。
各ブースが片付け作業に入る中、ふと静止したまま全く動かないブースが目に入った。
いや、これだけ人がいれば周りと違う行動は目立つはずだが、誰も気にしていない?




