交渉と追求
ようやく出番があって嬉しそうなメフィとは裏腹に、戦闘隊形のまま固まっている二人に説明する。
「すまない。俺のツレなので安心してくれ」
「安心できるか! そ、そいつは悪魔なんだろ!」
「フッ……その通りさ。ボクは悪魔……それも、高貴な存在で……」
「こいつが自称しているだけだから、信用しなくていい」
「マスター、その言い方はあんまりではないかい……」
「メフィストさんが可哀想です……」
仕方ないじゃないか。話がややこしくなる前に本題に入りたい。
「とにかく、獲物はこのメフィが持っている。だから……見せるためにも銀貨10枚ほど、先に貰えないか?」
「ハッハッハ、さっきの悪魔の事と言い、君は面白い冗談を言うんだね」
……まあ、さすがに何もせずには貸して貰えないですよね。
託してくれたアイツには悪いが、そうなればこの手段しかない。
「この短剣を担保にする」
「ほう……これがガルの言っていた武器か」
「ああ、俺の見間違いじゃなければ、こいつは持ち主がすぐ死ぬというあのヴェノムダガーだろうが、そうだよな?」
「その通りだ。もしこっちの獲物に銀貨10枚ほどの価値がなければ、この短剣を手放そう。だから……前金をくれ」
「そんな呪われた武器いるか! い、いや……そうですよね、ランドさん」
今更だが、この人はランドというのか。
しかし、このギルド長はヴェノムダガーを興味津々といった感じで眺めている。
これはもしや、俺の予想が外れたか?
「……いや、その前に確認したい。呪いは……解除されているのか?」
こいつ、核心をついてきやがった。
予定では呪われた武器なんか要らないと言われ、回収しつつも信用してもらう予定だったが……さすが偉い人が相手となると、リスクを負わないといけないらしい。
信用を得るためには、こちらも正直に言うか。
「ああ、この悪魔のおかげで呪いは解除できた」
「ほ、本当なのか!」
「メフィストさん、すごいです!」
なぜかシキも賞賛しているが、褒められてドヤ顔のメフィについてはスルーだ。
「……では、もし君の獲物に価値がなければ、そのヴェノムダガーをこちらで買い取らせて貰おう。適正な値段で買い取るので安心すると良い」
「そうならないことを祈ろう」
とりあえずこれで交渉成立だ。
あとは……
「この場所じゃ狭いから、どこか広い場所を使わせてもらえないか?」
「そんなでかい獲物がいるのか? いや、例え容量空間があっても、入るわけが……まさか!」
「フッ……このボクに不可能はないさ。例え、この街を潰すような大きさの魔物でも、ボクの容量空間には問題なく収納できるだろうね」
さっきのカバで最大容量を更新したくせに、この悪魔は大口叩いてますよ。
でも、あながち嘘でもなさそうなところが怖いな。試す気はないけど。
「制限のない容量空間持ちに、悪魔といいながらこの威圧感……ランドさん。もしかしてこの悪魔と名乗る女性は」
「あなたは……いや、まさかですけど……勇者、なのですか?」
「そんなわけあるか」
全く、俺が疑われるのだったらともかく、さっき悪魔と名乗っていたやつを勇者と間違えるとか何事だよ。
しかし、間違われた本人は満更でもなさそうだ。
「いやー、このボクが勇者だとはね。しかし残念だ。君たちの希望には答えられそうもないよ。なぜならボクはこのマスターと……」
「で、場所はあるのか? 俺の提案としては、出した後片付けはしたくはないから街の外で放置したいんだが」
別の世界へトリップしている悪魔は置いておいて、こちらは本題を進める。
出したは良いが、邪魔だから片付けろと言われても困るからな。
主に、追加料金の関係で。
「確認だが、どれくらいの大きさだい? いや、どんな魔物かな?」
「えーと、暗殺獣ていうやつと、馬鹿でかいカバみたいな魔物だ。カバに関しては別の冒険者と共同で倒したから、後でそのパーティが説明に来るだろうよ」
「暗殺獣? なんだそりゃ」
「今……なんて?」
反応はバラバラだが、やはりギルド長ともなるとその存在は知っていたらしい。
俺も攻略本で調べて判明したくらいだ。目撃率は極端に低いのだろう。
「実物はすぐに見せる。だから、街の外まで同行してくれないか?」
「……わかった。行こう」
「でもギルド長!」
「これが本当だとすると、十数年ぶりの快挙だ。例え嘘だとしても、騙されるだけの価値はある」
「おお、よくわかってる。さすがギルド長!」
「それに、騙されていたらヴェノムダガーが手に入るんだ。こちらにデメリットはないからね」
くっ、何気にちゃっかりしてやがる。
こうでもなければ、ギルド長なんてものは勤まらないのかもしれないな。
「ガル、君は先に戻ると良い。私達も後から門まで行く」
「いや……でも、ランドさんが抜けて大丈夫なんですか?」
「ここは優秀な副長にでも任せて、私は街並み観光とでも洒落込むよ。すぐに門まで行くので、君は仕事に戻ると良い。ハッハッハ」
「それでいいのかギルド長」
「まだ見ぬ副長さんが苦労している姿が、目に浮かびますね」
普段からこんな感じだと、部下は相当苦労してそうだ。
まあ問題ごとを持ち込んだ本人が心配することでもないが。
ガルはこちらをちらちらと疑いながらも、ギルド長に促されたことでようやく退室していった。
そんなに俺が信用出来ないのだろうか。
……いや、思い返してもこちらに信用できる要素が見当たらないので当然だな。
一人が退室して、そのまま外に向かうと立ち上がったら、なぜかギルド長がガルのいた席に腰をかけた。
「さて、外に行く前に少し話をしよう。座りたまえ」
「え? 話は纏まったんじゃないのか。それ以前に近いんだよ! 離れろ」
「石版」
「……っっ!!」
「石版? それがどうかしたのか?」
石版が反応しないからEランク。それで話が終わったはずだと思ったが、まさかこいつはシキのことを言っているのか!
完全に油断していたので、シキの反応が肯定しているようなものだ。
まずはとぼけてみるが、ギルド長であるランドの視線はシキを一直線に見ている。これは……俺のほうは眼中にないな。
「石版が反応しないのは実例がない。しかし、今までも割れた事は何度かあるんだ。それは何故だと思う?」
「俺の逆なら……魔力が膨大だってことか?」
「その通り。私が知るだけでも、過去に三回はあった。一人は勇者、一人はエルフ。一人は…………魔族、とかね」
「えっと……あの……っ」
「さて……そこのお嬢ちゃんは何者だい? 獣人にしては特徴が少なすぎるし、魔族としては人間に近すぎる」
「彼女は俺の妹で……」
「君には聞いていない。彼女から直接聞かせてほしい」
「これは、マスターも諦めたほうが良さそうだね」
この態度からすると、ほぼバレているといっても過言ではない。
資料を探すためには協力を仰ぐ必要があったが、問題は敵か味方か……どっちだ?
「そうです……わ、わたしは、魔族、です……」
「お、おい! 確かに彼女は魔族だが、こっちにいる悪魔と同じで……」
「いや、魔族だからって何も差別するわけじゃない。現に、数こそ少ないが魔族でも冒険者として活動している者はいる。もっとも、差別する人間も多く存在するがね」
人間と違うから全てが悪、ということにはならないみたいだ。
獣人やエルフがセーフで、魔族と呼ばれる種族がアウトって、排他的にもほどがあるからな。
「よかった。実は彼女は……」
「だが、しかし」
「……え?」
「しかし、だ。魔族でも人間に害を成す存在は別だ。そこの女性は悪魔? といったな。とてもそうには見えないが……もし本当ならすぐにでも討伐対象となる。君のツレというから見逃してるがね」
こいつは悪魔と自称しているだけで、まだ最初の街にいたような悪魔の凶悪さを見ていない。
行動にちょいちょいと悪魔的な行為は入っているが、それでも人を攻撃するような行為はないので、例えるなら無害な悪魔だろう。
だとすると、シキは……?
「そこの彼女は魔族と言ったね? 君みたいに人間味に溢れ、それでいて石版を割るほどの魔力持ち。本来は街に一人いるだけで騒動になる種族だが、彼女に該当するような種族を私は一つだけ知っている」
「わ、わたしは!」
「鬼と呼ばれる種族……君は、鬼なのか?」
いつの間にかランドの手には、鞘に入ったままの刀が握られていた。
こちらの返答次第では、すぐ戦闘に入れるようにといったところだろう。
俺には自動防御があるからいいとしても、シキは硬直したまま動けそうもない。
もしかして……詰みましたかね。




