ランク故の特別扱い
光が収まって、気づくとまた注目を集めていた。
『なんだ今の光は……』
『おいおい、今の光ってまさか……』
『まさか、石版が割れたのか? いや、さすがにあり得ないか』
『あの男か? しかし、あの嬢ちゃんが手を乗せたように……』
一部始終を見ていた周りからは、好き勝手な推測が聞こえてくる。
もしかして、そんなに不味いことをしてしまったのか?
担当以外の受付嬢がこちらを見てヒソヒソしているのが気になるが、どうせ上の人を呼んでいるんだ。
どういうことかわからないが、やってしまったものは仕方がない。
「はわわっ、ど、どうしましょう! わたし、こんなつもりは!」
「落ち着け。どうしようもないさ。頼んだのは俺だ、俺が責任を取る」
「ヨ、ヨーヘイさん!」
そう言って胸に飛び込んでくるが、頼んだのは俺の好奇心からだ。
シキが責任を負う必要はない。
にしても、抱きつかれているのは役得なので、しばらくはこのまま慰める。
やがて、最初にいた受付嬢が人を連れて戻ってくると、どうやらヒビ割れてしまった石版に気づいたらしい。
「この石版が反の……え? どうして割れているんですか!? そんな、さっきまでは大丈夫だったのに!」
「すみません、割れてしまいました」
「え、嘘でしょ! だって、これが割れるだなんて!」
お姉さん、仕事中なのに素に戻ってますよ。
まあそれだけあり得ない出来事だったのかもしれないが、今の俺はギルド登録さえできればいい。
そしてお金を……いや待て、弁償とか言われないよな?
その事実に気づき怯えていると、連れてこられた男の人が傍に立っていることに気づいた。
どうやら、割れた石版をじっくりと観察しているようだ。
「……すみません。これは、あなたが?」
「いえ、この娘が触れた途端割れてしまいました」
「わ、わたしはただ触れただけで!」
「魔力がないというのも、君かい?」
「ギルド長、男の人が魔力を持たないという……方です」
連れてこられた人物は、どうやらギルド長という存在らしい。
副長が出てくるものかと思っていたが、いきなりギルド長が出てくるとはこの規模のギルドでもヒマなのだろうか。
「ほう……これはこれは。君たち、すまないが奥の部屋に来てもらえるかな。なあに、登録のほうはそちらで済ませよう。高級なお茶も用意するよ」
「見るからに怪しそうなオモテナシですね」
「ハッハッハ……ところで、ガル君が言っていた冒険者は君のことかい?」
ガル……どこかで聞いた名前だな。
そう考えていると、シキが裾をちょいちょいと引っ張ってきた。
「ガルさんって、あの門番さんですよ」
「ああ! あいつのことか。そういや、ここで待っていろと言われたな」
「それなら、彼も部屋に待たせているから来るといいさ」
約束があったので移動しないつもりだったが、あいつがいるなら問題ないな。
それに、事を起こしただけにこの場所にいるのは少し気まずい。
怪しいところはあるが、どちらにせよ登録ができなければお金もないんだ。
ここは大人しく、奥の部屋とやらに連行されようじゃないの。
そのまま階段を上がり、いかにも高級そうな扉を開き中へ入る。
ソファに見覚えのある人物が座っていたが、まずはこのギルド長とやらに言いたいことがある。
「さ、君たちもかけたまえ」
「あの、その前に一ついいですか?」
「何だい? こちらにも聞きたいことがあるので、好きなことを聞くがいい」
なら遠慮なしだ。いや、どうでもいいことだけどさ。
「ここ奥の部屋じゃないじゃん! 二階だよ!」
「ま、まあまあ……ヨーヘイさん、落ち着いてください」
「ハッハッハ! そんな些細なこと気にしてたらハゲるよ君」
「余計なお世話だ!」
今度は冷静なシキと思いっきり立場が逆転しているが、ここは指摘せずにはいられない。
だったら最初から二階って言えよ。
見ると、座っているガルも呆れているようだ。
「お前ら……まさか、漫才するために来たのか?」
「そんなわけあるか!」
「あ、あの! 石版の件……申し訳ありませんでしたっ!」
また話が脱線しかけたところで、シキの大声が部屋に響いた。
なんだか土下座でもしそうな勢いで頭を下げている。
「いや、元はと言えば俺が頼んで触れてもらったから俺が……」
「まあまあ……長くなりそうな話だ。座ろうではないか」
そういって、いかにも重役が使うような机の椅子に腰をかける。
俺たちもそれに倣って、ガルと同じソファに腰掛けた。
もちろん、ガル、俺、シキの順番だ。こいつの横にシキを座らせられるかってんだ。
「さて……まず、ギルド登録をしたいというのはどちらかな?」
「俺です」
できれば二人ともしたいが、諸々の事情で俺一人だ。
でもまあ、この人に頼めば資料の方はなんとかなりそうな気がする。
「君は魔力が無いと言っていたが……それは本当かい?」
「そうみたいです」
「ば、馬鹿な! 嘘だろ?」
「私も信じられないが、この魔術石版が反応しないとなると、信じるしかなさそうだ」
さっきのあれは魔術石版というらしいな。なんというか、そのまんまだ。
「でも、ここに来たからには登録はさせてもらえるんだよな?」
「もちろん。ただ、別の方法で行うだけだよ」
「別の方法?」
「ああ……少し、じっとしてくれるかい?」
そう言いながら、ギルド長はジリジリとこちらに迫ってくる。
え、ナニコレ怖い。
「あ……何を」
「黙って!」
「……っ!」
その言葉に、何も言えなくなる。邪魔をして許可をもらえなくなるのが一番困るからだ。
ガルとシキも見守る中、そんな変なことはしないだろう……多分。
「君の全てを見せてもらうよ……何もかも、ね」
「……っ!! ……っぅ!」
声を出そうと思えば出せる。
しかし、その時の俺は恐怖に支配され動けなかった。
お腹から胸にかけて、ゆっくりと撫でる感覚。
その後、円を描くように撫で回される。
その光景に、誰も動けない。いや、ギルド長以外の誰もが停止している。
まさか、こいつは時間停止能力の使い手なのか!
だとしてもだ。せめてこの人が女性だったら!
「……ふぅ、終わったよ。今から君の情報を書き写すね」
「えっ? 終わっ……た?」
「お、おう……お前さん、お疲れ様だな」
「す、すごいです……いえ、すごかったです」
シキは両手で顔を覆っていたみたいだが、その様子だと指の隙間からチラチラ見ていたな。ガルに至っては慣れている様子なので、この方法を取ることは珍しくもないのだろう。
「なんだろう、ものすごく辱めを受けた気がする」
「ハッハッハ! 女性相手だとこうもいかないからね。同性で助かったよ」
「俺は全然助かってないけどな」
まあいい。これでギルド登録とやらが出来るんだ。
ランクはSからDまであるらしいが、俺の経歴なら初っ端からAくらいにはいくかもしれないな。
今まで見たBランクも大したことはなかったし、暗殺獣を倒した実績もあるんだ。
それを考慮してもAか、せめてBランクくらいはいくだろう。
「……さて、これで登録完了だね。これで君も冒険者だ」
「ありがとうございます!」
ギルド長は体を弄っていただけのように思えるが、それでデータが取れて登録できたなら文句はない。
ちゃんと仕事をしてくれたんだ。俺の項目はどうなっているのかな。
???:???
???:???
???:???
???:???
カードって、こんな感じになるんだな。へぇー……そうか。
「ごめん、俺読めないや」
「そういえば、ヨーヘイさんは文字が読めないんでしたね」
「代わりにシキ、読んでくれ」
「えーっと…………怒らないでくださいね?」
そんな確認するほど酷い出来なのだろうか。
おかしいな、功績としては十分な気もするが。
「名前や種族は良いとして、魔力ゼロ、Eランクと書いてあります」
「え、なんだって?」
「Eランクみたいです」
「おめでとう。君は初めてのEランク冒険者だ」
「おいおい、最低でもDランクだってのに、Eランクとはまた……」
それぞれが思いを口にする中、Bランクの聞き間違いだと思ったがEのままで合っているらしい。
どうしても信じることができないので、視線で訴えてギルド長へと詳しい説明を求める。
「人間というのは、魔力を持つ生き物だよ。それが魔力を持たないときたら、動物並と言わざるを得ないね」
「でも、俺が倒した魔物は強力なやつばかりで……」
「あ、ちなみにEランクなんて初めてだから、ランクアップについての規定はまだない。なので、いくら魔物を倒しても私達の許可なしではランクが上がらないようになっている」
なんたる屈辱。
最低のスタートラインから這い上がる方法がないだって?
こんな仕打ちをしやがって、段々と俺の怒りが上がってきたぞ。
もういい、礼儀なんて知るものか。
「それじゃ、Eランク故の特別扱いは……」
「今ので十分特別扱いだとは思うがね?」
「てめぇ! 馬鹿にしやがって!」
「まあまあ、落ち着いて……」
今にも殴りかかりたいが、シキが押さえつけて止めてくるので自重する。
しかし、押さえつける力が強すぎてソファにめり込むので痛い。
「……ふぅ、まあいい。Eランクでも、買い取りはしてもらえるんだよな?」
「ああ、それはもちろんさ」
「じゃあ、買い取りをお願いしたい。そいつを見れば、すぐにでもランクアップをしたくなるはずさ」
俺の容量空間には珍しい魔物が二体もいるんだ。
こいつを見れば、俺の評価も手のひらを返すように上昇するだろう。
「わかった。で、獲物はどこにあるんだい?」
「……そうだな。まず、ガルには謝っておくよ。俺にはツレがもう一人いるんだ」
「あ? でもお前ら、確かに二人で……」
「おーい、もう出てきて良いぞ」
昨日と違って、今は攻略本も手元にあるんだ。
ただ隠れているだけなら、呼べば出てくるはず。
「……………………あれ?」
「出て、来ませんね?」
「お前ら、何遊んでるんだ?」
事情を知らない二人には怪訝な顔で見られている。
はぁ、ここは呼ぶしかないか。予想できる追求が面倒だが、彼女が出てこないことには始まらない。ここは腹をくくるか。
「仕方ないな……――顕現せよ、俺の悪魔!」
「ここまでボクを放置したんだ。マスターにはそう呼んで貰わないとね」
呼んだ直後、背後から脅かすようにしてメフィが現れる。
これは姿を消していただけで、話は全部聞いていたな。
「ばっ! 悪魔だと!」
「今すぐ冒険者を! いや、まずは交渉をするべきか……」
話が進まないからとはいえ、こうなるから嫌だったんだよ。




