弱肉強食の世界
今日は昨日に比べると、すぐに空の旅は終わったらしい。
俺も気を失うこともなく、シキが順調に魔物を蹴りながら跳躍していくのを眺めていた。
途中馬鹿みたいにでかいイノシシみたいな奴が宙を舞ったり、シカの群れを突っ切るときにシキを避けるように道ができたのは気のせいだろう。
なんだよ、鬼っていうのは百獣の王でもあるのかよ。
途中俺たちに低空でぶつかってきた鳥がいたが、そいつは器用にもシキが片手で捕まえていた。
俺を抱えたままの手でキャッチしているので、暴れたときにツメやクチバシで攻撃されて痛みが連続で襲ってくる。
おのれ鳥野郎、地上についたら覚悟しとけよ。
やがて海と共に、いままで寄ったどの街よりも大きい街が見えてきた。
といっても、まだ三つくらいしか知らないけどな!
「あれが、ローリアの街ですかね?」
「むしろ、あれじゃなかったら何処だよ」
「それじゃあ、ここらへんで魔力譲渡を実行しようか」
「お願いします」
街から少し離れた場所に、シキが軽やかに着地する。
鳥みたいなやつは相変わらず、俺の顔を蹴ったりつついたりしてくるが、拘束された状態では何もできない。
「ではマスターも……何を遊んでいるんだい?」
「おいシキ! この縄を早く解いてくれ! ……ぐほ、この野郎! 俺がシメてやる!」
「ああ、そうですね……まず食事にしましょうか」
そう言うと、俺を解放するよりも先に鳥の首を捻る。その動きで、先程まで元気よく俺に攻撃していたやつは息を引き取ったようだ。
「お、俺の仇が……いや、手慣れているな」
「はい、森ではよく調達していたもので」
森で暮らすということは、随分と逞しくなるものだ。
にしても、飛んでいる鳥を調達するとか、さすが空を跳ぶだけはあるな。
縄を解いてもらい、調理のほうはシキに一任する。
俺もナイフで皮を剥いだり、切り分けたりするくらいはできるが、魔法に関しては全く使うことができない。
なので、水魔法で洗って火魔法で炙るだけの調理でも、何も文句は言わない。
肉が食べられるのは有り難いが、保存食の素朴な味が恋しいぜ。
「メフィストさんは要らないんですよね……では、どうぞ」
「ああ、ありがとう。んっ、意外と……美味しいな」
即席のフライドチキンとでも言うべきか。魔物なのかわからないが、ただ焼いただけにしては脂が乗っていて美味だ。
もしかして、この世界に来てから一番美味いんじゃないか?
「なあなあ、この鳥めっちゃ美味しいんだが」
「どれどれ……はむっ……んっ、なるほど。確かに美味しいね」
「ちょ! 俺の肉を取るなよ!」
「……本当にお二人は仲がよろしいのですね」
俺達のやり取りにシキが呆れているが、この肉が調達できるならもっと食べたい。シキに聞いても、手頃な場所にいたから捕まえただけで、詳しい事は知らないらしい。
こんなときの攻略本だな!
「よし、早速調べるか……いや、こいつは魔物なのか?」
「残念ながら、ただの動物みたいだね」
「そもそも、魔物と動物の違いってなんだ?」
「えっ、ヨーヘイさんはそんなことも知らなかったのですか!」
なにげに貶すのはやめてほしい。
いやまあ、この世界の常識なんだろうが、俺にそれを求められても困る。
「一般的には、魔力を持つか持たないかだろうね。この鳥に関しては全く魔力を感じなかった。だから、食物連鎖の下位に存在する動物だろうさ」
「あと、魔物の場合は魔力を持っているので魔法も使ってきますね。それに、ただの動物よりも凶暴で、より強い魔力を求めて食事を探すらしいです」
「あー、だから人間とか狙われるのか」
魔物に討伐依頼が出される理由がわかった気がする。そうすると、魔力を持たない動物が魔物に襲われることはないらしいな。
でも待てよ、そうなると。
「てことは、魔力を持たない俺も、魔物に襲われることはないということか?」
「魔力を求めてといっても、弱肉強食の世界ですからね。自分より格下の動物を襲うことはあるらしいです」
「ん? じゃあ、俺がファントムドッグに襲われたのは……」
「マスターはそこら辺の動物と同じく、格下の存在に思われたらしいね」
「あのイヌッコロ!」
魔力魔力って、俺に対する当てつけか。
でもそう思うと、もう骨しか残っていないこの鳥にも親しみが出てくるな。
同じ魔力無しの仲間同士、また会えるといいな……フライドチキンに。
結局どんな鳥かはわからなかったが、美味しく頂いた記念として骨だけは保管していく。
食べ残りの骨だが、もちろんシキに綺麗にしてもらってから収納する。
骨さえあれば、何かの拍子に種類が判明することもあるだろう。
あとは昨日と同様に銀貨10枚と引き換えに魔力譲渡をお願いする。
残りは銀貨5枚と銅貨5枚ほどだが、街に入ることを考えると容量空間はもう開けないだろう。
最近は銅貨も使いすぎているので、街に入る分の銀貨は残して置きたい。
……あれ、容量空間が開けないってことは、街に入っても買い取りで詰む可能性があるんじゃないか?
ギルド登録もタダってことは……ない、だろうな。
まあ、それは中に入ってから考えるか。
そんなことを考えているうちにも、無事に魔力の移動は完了したらしい。
隣を見ると、疲れた顔のシキと、仕事をやり終えてスッキリした顔のメフィがいる。
「んっ、ふぅ……必要なこととはいえ……少し……しんどいです」
「辛いなら街に入るのはやめるか?」
「い、いえ! わたしが望んだことでもあるので! それに……街に入れる機会なんて訪れないと思っていました」
「安心しなよ。これで半日ほどはツノも消え魔力を抑えられるはずさ。もっとも、何も問題がなければの話ではあるけどね」
街に入っても半日ほどで効果は切れるんだ。それまでになんとかして換金しないと、住民が体調不良を訴えることになるかもしれない。
問題にならないためにも、早めにお金を稼がないとな。
「じゃあ、時間が惜しいからこのまま街まで飛んでくれ」
「えっと……縛らなくても?」
「これくらいの距離なら要らないだろ!」
そう伝えると、シキは見るからにションボリして縄を仕舞った。
もしかしてそっちに目覚めたとかはやめてくれよ?
すぐなので、昨日と同様に抱きかかえてもらい門の手前まで移動する。
もうお姫様抱っこで運ばれるのも諦めた。抵抗したところで時間の無駄だし、プライドなんて捨ててやる。
今回はいきなり上空からではなく、低空ジャンプで門の傍まで近づいてもらった。姿が見えていたほうが驚かせなくても済むだろう。
「ふぅ……ありがとう。降ろしてくれ」
「はい。足元に気をつけてくださいね」
「何者だ!」
馬車で来るならともかく、走ってきたなら姿が見えても驚かれますよね。
まあいい、やり取りは先日の街で学習したんだ。
「冒険者だ! この街へ入れてもらいたい! しかし、通行証や身分証はない! ……銀貨2枚で入れてもらえますかね?」
「急に弱気になるんじゃねぇよ! 2人なら銀貨4枚だが……お前ら怪しすぎるだろ」
方やネコ耳着物の少女。それに抱えられて出てきた俺。
特に怪しい感じもしないが、それは異常自体に毒されてきたからだろうか。
「さっきの街では、この武器を見せたら信用して貰えたぜ?」
そういい、必殺のヴェノムダガーを腰ベルトから抜き出す。
あのハゲ頭……ゴードンの薦め通り、腰ベルトはなくても困らないが、あると相当便利な品物だった。
そのまま門番に渡そうとするも、案の定受け取ろうとはしない。
「お、おまっ……それは呪われた武器じゃねぇか!」
「ほら、持って確認してくださいよ」
「触れるわけないだろ! いや、お前は大丈夫なのか? そもそも、なんでその武器を……」
質問が多い奴だな。
まあ、これで俺が入るのを認めて貰ったようなものだ。なら、時間もないしさっさと立ち去るに限る。
「では、銀貨4枚を置いておくのでこれで……」
「待てよ! そんな危険なモノを持っている奴を入れるわけにはいかねぇ……仮に無害だとしても、ギルドのほうへ報告を」
「それなら、ちょうど今から向かうところですよ」
「信用できるか! いい、ここは俺が付いていく。おい! お前ら少しここを頼む!」
門番が近くの待機所に入ると、二人ほどお仲間が追加された。
最初はこの男一人しかいなかったのに、代わりは二人か。
「じゃあ、直接ギルドまで向かうぞ? そこでお前の武器も報告させてもらう」
「でも案内まで……良いのですか?」
「お前のためじゃねぇよ! その危険物があるという報告のためだ」
なんというツンデレさんなんだろう。デレがあるのかはわからないが、とりあえず任せておけば安心だろう。
本当の危険はシキのほうだろうが、勘違いもして案内役までこなしてくれるなら、有り難く従うことにしよう。
さあ、やってきたぜ……ローリアの街!
「ところで、ここはローリアの街だよな?」
「? 当たり前だろう。何いってんだ」
「……今度は間違えずに済みました」
隣でシキのホッとした顔が見えたが、ここは俺も確認しないと。
さあ……肝心のギルドは、いくらで買い取ってくれるだろうか。
フライドチキン、食べたいですね。
イブは仕事と共に夜が明けます……




