もしかして:雑魚
俺は一人でチェックアウトを済ませ、部屋へと戻る。
シキの言う魔力酔いがどこまで影響するかわからないので、人が少ないうちに街を出ないとな。
「あの……本当にこのまま移動するのですか?」
「魔力譲渡のことか? メフィ、今使うとどれくらい持つ?」
「持続時間は半日といったところだね。次の街で問題になりたくなければ、今使うのはあまりオススメしないよ」
「うっ……そうですか。なら、早めに出ましょう」
俺の所持金に余裕があれば使っても良いが、生憎とそんなことはない。
シキの反応を見るに、よほど嫌な事があったらしいな。
そのままメフィには姿を消してもらい、シキと連れ立って外へ出る。
途中、受付を通った時にネコ耳を凝視されていた気がしたが……多分気のせいだろう。
獣人もいるらしいので、何か言われたらその言い訳も使える。
まだ朝だというのに、街には既にちらほらと人が見える。
商売が盛んだと、朝早くから仕入れなどで忙しいのだろう。
開店前の露店街を歩きながら門へ向かっていると、ほとんど通行人はいないというのに、少しの人だかりが見えてきた。
「ん、なんで人が集まっているんだ?」
「何か男女で言い争っているみたいですが……」
「関わりたくないからスルーするか」
面倒事は避けるに越した事はない。
視線も向けず通り過ぎようとしたとき、ちょうど耳に入ったきた言葉に俺は思わず足を止めてしまった。
「……Bランク?」
「え? どうかなさいました?」
「彼はBランク冒険者みたいだね。あの村長と同じく、とてもそうには見えないけどね」
シキは聞いていなかったみたいだが、いつの間にか出てきたメフィには聞こえていたらしい。
やっぱり、俺の聞き間違いじゃないよな。
冒険者のランクというものに興味があるので、シキやメフィと共に野次馬へ加わることにする。
ギルド登録する際の参考になりそうだしな。
「うるせぇ! 護衛ならランクが高いオレが適任だろ! より強い護衛がいたほうが安心だろうが!」
「それでも私が先に依頼を受けたので……依頼主も私で良いと仰っています」
「ならオレも護衛として連れて行けよ。報酬は半々でいいぞ」
「どうして? 私だけで十分ですよ。あなたは要りません」
「なんだと! 雑魚はひっこんでろ!」
話を聞いていると、モメているのは冒険者のようだ。
男のほうはBランク、女のほうはCランク冒険者らしいな。
しかしまあ……言動を見るに、Cランク冒険者のほうが大人のようだ。
あいつは図々しくも、護衛の依頼を横取りしようとしている。
「ほう……私が雑魚と。あなたこそ、パーティのおこぼれでBランクになっただけでは?」
「てめぇ! じゃあ、オレがBランクだという証拠を見せてやるよ!」
そう言うと、Bランクだと名乗るほうにだんだんと光が集まってきた。
え、あれって魔法なのか?
「まずいね。彼はこの場で魔法を使う気だよ。しかも、さすがBランクというべきかそこそこ強力らしい」
「それでもそこそこなんですね……でも、わたしがいて大丈夫なんでしょうか?」
「むしろシキがここにいるから大丈夫なんじゃないか?」
鬼が言う魔法威力低下がどの程度か気になるという事もあるが、シキがいなくなったら被害が増えそうだ。
俺には自動防御があるし、そこまで慌てなくもいいかな。
『おいおい、まさか魔法を使う気じゃ……』
『馬鹿な! こんな街中で使われたら俺たちまで……』
『逃げろ! いや、警備隊を呼んでこい!』
周りでは、奴の行動に対して阿鼻叫喚の騒ぎだ。
対するCランク冒険者のほうも、魔法に対して険しい顔をするだけ。
もしかして、対抗手段を持っていないのか!
「くらえ! レーザービーム!」
「こい、自動防御! ……ふぅ、大丈夫ですか?」
「…………え? 誰ですか」
思わず割り込んでしまったが、彼女の反応を見ると助けはいらなかったらしい。
よく見ると、構えている盾が光っているような気がする。
多分あれで防御すると攻撃を防げたのだろう。威力も普段よりショボかったらしいな。
「何だお前は!」
「……しまったな。要らないお世話だったか」
「おい、無視するなよ!」
「はぁ……誰でもいいだろ? それよりBランク冒険者様の魔法は、こんなもんなのか?」
「い、いや……そうだ! なんでお前は無事なんだよ!」
「そりゃ、お前の魔法が弱いからだろ」
「てめぇ!」
本当はシキが近くにいたり、自動防御があってこそだが、ここは煽るためにも勘違いに便乗する。
俺に必要なのは時間稼ぎだ。
「警備隊だ! どこだ魔法を使ったやつは!」
「こいつです」
「なっ! それをいうならこいつも……」
「? 俺はこの本で守っただけだが?」
俺に関しては魔法を使っていない。せいぜい、物理防御というくらいだ。
本で守っていた場面は目撃者が多数いるので、誰も俺が魔法を使ったとは言わないだろう。
「周囲にいる住民も不調を訴えている。お前、魔法が禁止されているのをわかって問題を起こしたな。無関係な人まで巻き込んだ罪は重いぞ」
「オレは知らない! そこまではやっていない!」
「被害者がこんなにいるんだぞ! いいからさっさとこい!」
それはシキの仕業かな。隣を見ると顔を逸らされた。
まあいい。どちらにせよ、こんな街中で魔法を使うほうが悪いんだ。
これ以上問題にならないうちにさっさと街から出るか。
野次馬に注目されないうちに立ち去ろうとしたが、どうやら当事者にとっては目立つ存在になっていたらしい。
人の輪からはみ出ようとしたとき、さっき言い争っていた彼女から肩を軽く叩かれた。
「待ってください……一応お礼を」
「いえ、助けは要らなかったみたいですね」
「ですが、助かりました」
俺知ってるよ。
こういうのを社交辞令て言うんだよね。
必要なかったのなら素直に邪魔だったと言ってくれたらいいのに。
でも、実際にそう言われたら傷つく。
「では、俺たちはこれで」
「あの、もしかしてお連れの方は……」
話していて油断していたが、彼女の顔はシキのほうに向いている。
まさか、気づかれたか!
「この子は俺の妹です! それでは!」
「ま、待ってください! ヨーヘイさん!」
疑われたら逃げる。
もし鬼だとバレたら、いきなり襲われたり、街に入れなくなりそうだしな。
せっかく通してくれた門番たちにも申し訳ない。
そのまま後ろを振り返らずに、門まで辿り着いたときに悪魔の忠告が入った。
「今更だけど、こうして逃げると肯定したようなものだね。それとも、マスターに考えがあってのことかな」
「あ、当たり前だろ! だから、さっさと出るぞ!」
「どうしてでしょう……何か考えがあるように思えません」
メフィの指摘はもっともだが、シキの指摘も間違ってはない。
つまり、何も考えてないけどとりあえず逃げる、だ。
追ってきていないよな? 向こうも今から依頼だろうし、どうせもう会うことはないんだ。
少し顔を見ただけの人なんて、すぐ忘れるに決まっている。
こっちのメンツは自分と、浮いている女性と、ネコ耳の少女。
……改めて見ると、印象は強いかもしれないな。
そんなことを思いつつ、門番との会話もそこそこに街の外へ出る。
さあ、次こそローリアの街だ。
待っていろギルド登録。待っていろ金貨!
「ここから歩くんですか? それよりも跳びます? ……飛びます?」
「なぜ繰り返した」
そんな目をキラキラさせて見ないでくれ。
俺としても早く着くのは歓迎だが、また縛られるのはゴメンだ。
かといってまた攻略本とか落下させたら困る。
「ここからだと、馬車でも一日かかる距離だと先程耳にしたよ」
「飛ばせてください」
昨日で随分近づいたと思ったが、まだ歩きで行くには遠い場所にあるらしい。
それなら選択肢は一つに決まっている。
……ただ、荷物と俺を縛るシキの目が爛々と輝き、その目に恐怖を覚えたのは気のせいであってほしい。




