置き去りデート
魔力は移動させたといっても、身体能力の衰えはなかったらしい。
シキによる跳躍により、なんとか門が完全に閉まる前には間に合った。
本当のギリギリセーフというやつだ。
「な、何だお前たちは!」
「俺達は冒険者……ではまだないけど、旅人さ」
「そんな怪しい旅人がいるか!」
改めてこちらの格好を見てみる。
空から降ってきた丈短着物の女の子。それに抱きかかえられている俺。そして大量の荷物に抱きついてる俺。
確かに怪しさ満点だな。特に空からというのがヤバイ。
「……街に入れてもらえませんかね?」
「通せるわけないだろ!」
「ですよねー……どうしたら良いんだが」
「あ、あの……わたしたち、長旅で疲れているんです。その、どうしても……ダメ、ですか?」
そういって上目遣いで見上げるシキ。
さっき泣いていた効果もあってか、目が潤々としている。
「うっ……なにか、通行証か身分を証明できれば、考えてやらないこともない」
「ほんとですか! ほら、ヨーヘイさん!」
と言われても、俺には身分を証明できるようなものはない。
これから作りに行くというのに、初っ端から詰みなのか?
横からささるシキの期待する瞳が眩しい。
「生憎と今から作りに行くところなんですけど……通行料で勘弁してもらえませんかね?」
「あぁ? 金だけ渡されても通せるかよ。魔族が入ったら俺らが責任を問われるんだぞ」
魔族と言う言葉にシキの身体がビクっと反応するが、幸いにも門番達は気が付かなかったらしい。
仕方ない、こうなったら最後の武器だ。
「では、これを担保にするので、身分証明を発行するまで待って貰えませんか?」
「担保っていっても、大抵のものじゃ…………こいつは! ちょ、おい、これってまさか」
「…………ヴェノムダガー、なのか? 俺も初めてみたな」
「お、お前! 触って大丈夫なのか! 死ぬぞ!」
「いきなりテンションが上がったな……」
Sレア級の武器ならもしかして、と思ったが、効果は絶大だ。
これならレイナからもらったあの大鎌でも説得できたかもしれないな。
あれは容量空間の中だが。
「お前、これを担保にとか……正気か? いや、これをどこで……」
「確か、何処かの街のベテランが保管しているはずじゃなかったか?」
「そのベテランってゴードンと言う名前ではないですか? これはその彼から貰い受けたものです」
「Aランク冒険者のゴードンさんからだと! てめぇ何をやったんだ!」
あのハゲの名前はそれなりに有名らしいな。
これから何かあったら名前を借りるか。あの悪魔を倒した報酬をネコババされた手前、それくらいは許されるだろう。
「……まあいい。あのゴードンさんの知り合いなら大丈夫だろう。担保も要らないが、一応キマリなんでな。身分証がなきゃ通行料を払いな」
「ありがとうございます! 銅貨のみだと、いくらになりますかね?」
「証明書がない人間は、銅貨なら20枚だが……ところで、その嬢ちゃんも証明書はないのか? 俺の勘が只者ではないと告げているんだが」
その言葉に、シキは咄嗟に俺の背中へ身を隠す。
ツノは隠れてると言うのに、この門番……まさか気づきやがったのか!
「おいおい、二人してそんな怖い顔をしないでくれよ。お前の妹なんだろ? 証明書がなければ二人で銅貨40枚だ」
「あ、ああ。わかった……銀貨がなくてすまないが、これで銅貨40枚だ」
勘違いしてくれるならこっちのものだ。
やれやれ、街に入るだけでも一苦労だぜ。
俺達が中へ入ると同時に、街の門が閉められたらしい。
「さて……ようやく着いたぜ、ローリアの街に!」
「ん? お前さん、ローリアの街はこの先だぞ?」
「え? じゃあこの街は……」
「ここはマルクの街だ。近くに海がないから間違える人もいなかったが……お前は間違えてきたのか?」
「う……すみません。わたしがよく確認しなかったばかりに」
いや、思えば確認もしなかった俺も悪い。
せっかくだから、この街を楽しむとするか。
……ただまあ、金策をどうしようかね。
目的地とはまた違った場所だが、やはり街中というのは活気づいているのが一番だ。露天が並ぶ道や、街行く人々を見ると、強くそう思う。
しかし、今回は何事にも興味を示すシキがいるからだろうか。
見るもの全てがまた新鮮に思えてくる。
……俺もこの世界に来てからは一回買い物をした限りだからな。あまり商品を知らないだけかもしれない。
ただまあ、なんに関しても目を輝かせるシキに対して、お金の関係で買ってやれないということは心苦しいが。
「ごめんなシキ。連れてきたはいいけど、買うことができなくて」
「いいえ! こうやって眺めているだけでも十分です! 例えお金がなくても、売り物を堂々と見れるだけで幸せですから!」
「そ、そうか……嬉しいけど、もうちょっと声を抑えてな」
まるで俺たちが貧乏みたいじゃないか。
金欠なのは間違ってないけど、なんだろう、この気持ちは。
『…………あの男、彼女に何か買ってやれないほど貧乏らしいな』
『…………あの子も苦労するだろうな』
『…………あの足がッ! ああ、まだ太陽は沈んでいないのかッ!』
『…………それにしてもあの着物……ごくり』
周りから何か聞こえてくるが、無視だ無視。
ただまあ……せっかく街に来たんだ。何か買ってやるべきかもしれないな。
「ヨ、ヨーヘイさん」
「ん? どうかしたか」
「いえ……そういえば、着物の丈を直すのを忘れていたなーと。今更になって、少し恥ずかしくなってきました」
どうやら通行人の会話で気づいてしまったらしい。
好きで見せているのかと思ったが、やっぱり普段見せていない分恥ずかしいのだろうか。
「どこかで直すか? さすがにここでは魔法を使えないだろ」
「い、いえ。せっかくなので、今日一日くらいは我慢します。こうして人間の方々に見られることもなかったもので」
「そこは別に我慢しなくても……まあいっか」
本人が良いと言っているんだ。俺がとやかく言うことでもない。
周りを見ると、俺達が街に入ったのが遅いこともあってか、ちらほらと店仕舞いが始まっている。
ここが目的地じゃない以上、明日には出ないと金が持たないだろうが……せっかく街にきたんだ。
シキに見せるだけじゃなくて、何か買ってやりたい。
「なあシキ、いくら俺が金欠だからといっても、銅貨なら30枚分くらいは余裕があるんだ。何か欲しいものがあれば買ってやるぞ?」
「いいんですか!」
そう伝えると、両手を顔の前にやり、瞳をキラキラさせて下から覗き込んでくる。
くっ、こんな顔をされると、金額がしょっぱいのが申し訳ない。
「ああ、あまり高いものは無理だけどな」
「ありがとうございます! じゃあ、どれにしようかなー」
選んでいる姿は、まさに年相応と言った感じで実に可愛らしい。
本当に妹がいたらこんな感じだろうか。
いや、年齢は多分俺の親くらいだろうが、本人の自己申告に合わせれば年相応の振る舞いだろう。
やがて、一つの露天で立ち止まると、何か気に入ったものがあったようでどれにするか悩み始めた。
「あれもいいけど、こっちもいいな……銅貨30枚までならあれにしようかな……あっちも可愛いけど、でもあれは銀貨5枚分だし……」
「おいシキ、他の露店はもう仕舞っていくぞ。ここでいいのか?」
「はい、どれにするか悩んでいるので、もう少し待ってくれませんか?」
シキが気にったのは、アクセサリ系の露天だった。
こういうところを見ると女の子というか、普通の人間らしい格好に憧れていたのかもしれないな。
女の買い物は長いと言うが、こちらが退屈するよりも早く何にするか選んでしまったようだ。
「……これにします。では、これを買ってもらえますか?」
「あれと悩んでいたみたいだが、こっちで良かったのか?」
髪飾り系のアクセサリで悩んでいたみたいだが、シキが差し出してきたのは黒いネコ耳のカチューシャだった。
一瞬どんなチョイスだ、とも思ったが、装備したシキを見てみたい好奇心もある。値段も銅貨5枚とお手頃価格だ。
「……これでいいのか?」
「はい、これなら魔法を使ってもらわなくても、わたしのツノを隠せそうなので」
「たしかにこれならいけそうだが……」
俺がそういう趣味の人に見られそうだ。
最後までこれと何かで悩んでいたようだが、シキの視線を追うと一つの花飾りが装飾されたペアピンがあった。
何か付与効果があるのか、値段は銀貨5枚と少しお高い。
……そんな物欲しそうな顔をされたら、せっかくプレゼントする意味が半減するじゃないか。しょうがないな。
「すみません。これと、あとそれもお願いします」
「えっ、それは! お、お金は大丈夫なんですか!」
「まあ気にするな。次の街まで持てばなんとかなるさ」
「ありがとうございます。大切にしますね!」
「お嬢ちゃん、早速装備していくかい?」
「はい!」
隣では、露天のおばちゃんとシキが鏡を見ながらペアピンの位置を調整している。一瞬ネコ耳が装備されるかと思ったが、あくまであれはカモフラージュ用の買い物らしい。
銀貨は残り15枚。
また魔力譲渡を頼むにしても、使える銀貨は5枚ほどか。
容量空間開く分しかないや。
……まあ、横で顔を綻ばせてるシキを見ると、これで良かった思えてくるな。
「そういや、何か忘れている気がするな」
「そういえば、メフィストさんへの贈り物は良いんですか?」
「あっ、そうか。おい、メフィもこっちきて……メフィ?」
いつもなら呼ばなくてもでてくるメフィの姿が見えない。
あいつ、どこいったんだ?




