縛りプレイ(物理)
出発の準備も整え、俺達は歩きだす。
シキは何も言わずについてきたが、無言の移動には耐えられなかったらしい。
「ところで、ギルド登録とはどこで行なうのですか?」
「ああ、ここからだとローリアの街という場所が近いらしい」
「ローリアの街? ……ああっ、あの港街ですね! もしかしてここは、海の向こう側だったんですか?」
「海?」
マップがわからないおかげで、どうも位置関係が掴みづらい。
最初から終点だったこともあってか、俺に地理を聞かれても困る。
「その海の位置がわからないが、馬車でいけるくらいだから目的地はこっち側だろうな」
「どのくらいかかりそうですかね?」
「あの道を進んでいけば着くそうだが。なんでも、歩きなら十日くらいかかるらしいぞ?」
「と、十日ですか……そんなに……でもそれなら……」
「まあ、特に急ぐ用事もないんだ。気楽にいこうぜ」
「ヨーヘイさん。早く移動する方法があるんですけど……乗りますか?」
「ん、乗るって?」
なにか道具でもあるのだろうか。魔法で乗り物を作り出しても不思議ではないが。
ここは異世界らしく、ゴーレムでも召喚してくれるのかな。
「多分馬車よりも早く、飛ばせば今日中には着けると思いますよ」
「そんなに時間が短縮できるのか! 是非ともお願いしよう!」
十日の道のりが一日で済むんだったら、用事がなくてもそっちを選ぶ。
メフィみたいに法外な対価を請求されることもないだろうし、安全面もシキがいれば大丈夫。
その点では安心できるな。
「それでは、準備しますね……丈短変化」
「お、おおっ!」
シキが呪文を唱えると共に、彼女が着ていた着物の丈が少しずつ短くなっていく。
この世界にはこんなすばら……サービス満載な呪文もあるのか!
そのまま段々と短くなっていき、膝下、膝丈とシキの細い脚がだんだんと露わになっていく。
思わず、いいぞもっとやれ! と心のなかでエールを送ったが、同時に変化が停まったことを見ると、俺の思いは届かずに終わってしまったみたいだ。
「これで動きやすくなりました!」
「あの……それは一体?」
「あ、これはですね。先生に作ってもらった服なんですよ! このように魔法で形が変わったり、付与効果もされているわたしのお気に入りです」
確かに丈が長い状態では動きにくそうだが、徐々に短くして脚を少しずつ見せていくその過程……一気にその先生とやらの好感度が上昇したぞ。さすが魔女と言うべきか、よくわかっていらっしゃる。
「では、荷物を持ってください」
「ん? わかった」
「しっかり抱えてくださいね。あ、念のために少し縛ります」
「え、ちょ、荷物と俺を巻くのか?」
「じっとしていてください!」
何が起こるかわからずに慌てていると、シキに怒られてしまった。
近くにいるメフィを見ると……見ると……いない?
まあ本があるところに呼べば、あいつはすぐにでも来るだろう。
そんなことを考えているうちにも、俺と野営セット、リュックなどの諸々がシキの手によって縛られてしまった。
さながら芋虫の気分だが……あ、これどうなるかわかったぞ。
「それでは、失礼して……よいしょっと」
「ちょっ、これ本来なら逆のパターンだろ!」
そのままお姫様抱っこをされ、シキに持ち上げられる。
俺は荷物と一括りにして、振り落とさないためのロープか!
「ちょっと風の抵抗やらで息がしづらくなるかもしれないですけど、我慢してくださいね」
「はぁ!? どういうこ……うわっぷ!!」
俺が疑問を口にするよりも前に、急な加速によって生じた抵抗に息がしづらくなる。
……ノーモーションで攻撃を受けたときにも思ったけど、予備動作なしでこんな速く動けるなんて、鬼は間違いなく最強種族だな。
俺は早送りで流れていく景色を追うのは諦め、酸欠と荷物として揺られる振動により、早々に意識を手放した。
どのくらい気を失っていたのだろう。
まだ日が高いところを見るに、そう長い時間というわけではないだろう。
いつの間にか浮遊感と景色の早送りがなくなっているので、移動中ではないらしい。
気づけば誰かが身体を揺らしている気がするが、俺はまだシキに抱えられているのだろうか。
「ヨーヘイさん、ヨーヘイさん。起きてください」
「んん……もう、着いたのか?」
「いえ、少し気になるものを見つけたもので」
気づけば、俺は地面に転がっていたらしい。
荷物と一括りにされたまま、シキが言う気になるものへ視線を向ける。
……荷物と一括りにされたままだ。
「あれは……魔物か?」
「はい。ここまで来る途中にも何匹か蹴飛ばしたりしてきましたが、あれほど巨大な魔物はいませんでした」
今何か聞こえた気がしたが、怖いのでスルーしよう。
重要なのは、巨大な魔物がいるということだ。
見たところ、大きなカバみたいな奴だな。一つ一つの動きは遅いが、地面からたまに伝わってくる振動は、あいつの攻撃によるものだろう。
となると、一撃の威力が強烈そうだ。
「それに、あの下を見てください」
「見てください……といっても、何か飛んでいるな」
地面に転がっているせいもあるだろうが、ここからでは大きなカバと、その下に動くものがあるということしかわからない。
鬼という種族は、もしかして視力も良いのか。
「あの下にいるのは人間だね。どうやら、無謀にも四人であの魔物を倒そうとしているらしい」
「それって、可能なのか?」
「彼らが強いなら可能だろうさ。しかし、ボクの目から見ても劣勢なようだ」
しれっとメフィが混ざって来るが、俺はあの時逃げた事を許さないぞ。
しかし魔物か……どんな種類か気になるな。
「メフィ、ちょっと攻略本であの魔物を調べてくれないか?」
「ボクにあの本は読めない。どうしてそんなことを……あっ」
……縛られたままの俺を見て、そんな目を向けないでくれ。
第一、その攻略本も縛られていたはずだが、本はいまメフィの手の上にある。
あの本、いつの間に抜け出したんだ。
「……マスターがロープから出る気がないなら仕方ないさ。あの魔物を調べることはできない。さてどうする?」
「わたしは……二次被害を受けるのは嫌ですけど、できればあの人たちを助けたいです」
「そうか。かといって見捨てるのも気分が悪いが、俺もこんな状況だしな」
彼らは自分からあの魔物に挑んでいったんだ。下手に首を突っ込んでケガをするのもバカらしい。
それに、獲物を横取りされたとかでモメるのも嫌だしな。
……何より、まずはロープを解いてくれ。
「シキに言っておくが、俺に戦闘の類や魔法については期待しないでくれ。戦闘はともかく、魔法は全く使えないらしいからな」
「わかっています」
「そこにいるメフィは魔法万能、戦闘に関しては……わからないが、今は使えないからな。戦闘要員はシキのみだけど……いいのか?」
「わかっています」
俺に戦闘が期待できないということは今、初めてカミングアウトした気がするが、わかっていたのか。
なんか、何も期待されていなかったみたいでちょっと悲しい。
「なので……ヨーヘイさんが倒したことにしてもらえませんか?」
「え、今なんて?」
「わたしが倒したということは隠して、ヨーヘイさんが倒したということにしてください」
「二次被害が嫌とか……」
「それは、魔力酔いの影響があの人たちに出てしまったり、わたしを見た時の反応が嫌いなだけであって……あれくらいの魔物を倒すだけなら、どうってことないですよ?」
予想はしていたが、相当なバトル中毒なのか。
まあ、倒してくれるっていうなら頼むか。こっちにはデメリットもなさそうだしな。
あるとしたら、街に着くのが遅くなるくらいか。
「じゃあ、人助けといきましょうか。シキ、頼んだ」
「はい! では、一気にあの人達の近くまで飛びますね!」
「ところで、いつロープを解いて……」
「おっと、ボクの本だけは大事に抱えてもらいたいね」
「おい。抱えてほしいなら、俺と荷物の間に詰め込むな。ちょ、待て! 俺このまま――うぇぇ!」
……抵抗も虚しく、二度目の高速移動が始まった。
まさか、この状態で放置とか言わないよな?




