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自称悪魔と付属品 ~魔力なしの異世界攻略法~  作者: ひのる
第三章 ギルドに加入するということ
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鬼の人間

 野宿をするにしても、あのハゲ親父いわくどこでも良いというわけではないらしい。


 まず、道の邪魔にならない場所。

 これは当たり前だが、通行の迷惑になるからだと。

 俺も道のど真ん中でテントを広げるほどの世間知らずではない。


 次に、背後を隠せる場所。

 常に背後まで警戒するのは難しいため、少しでも安心できるようにという配慮だ。人間の心理的にも、後ろに壁があると安心できると聞いたことがある。


 最後に、視界がひらけている場所。

 目立たない場所でひっそり、というほうが好みだが、この世界では魔物が存在する。誰にも助けてもらえずに行方不明……となりたくなかったらやめとけとの忠告を頂いた。

 こっちが目立たないということは、狩りをする側にとっても好都合だ。

 わざわざエサになりにいく必要もない。


「ところで、良い場所は見つかったのかい?」

「あの木の近くとかちょうど良さそうだから、あの辺にするか」

「しかし、ボクに本以外を持たせるとは、マスターも中々やるね」

「うっ……その事に関してはすまない」


 俺は今、容量空間ストレージから取り出した道具を背中と両手で運んでいる。

 女の子のほうも無理をしたら運べないこともなかった。

 しかし、見ず知らずの女の子を荷物みたいに扱うのは抵抗があったため、メフィに任せた。

 当初は「ボクが持つのは、この本とマスターの肩だけさ」などと言っていたが、試しに攻略本のみ消してみたところ、よっぽど送還されるのが嫌だったのかしぶしぶ引き受けてくれた。


 どうやら、攻略本が消えたらからメフィも消える。という風にはならないようだな。

 この本といい、メフィの存在といい……まだまだ謎だらけなので、この娘の件が落ち着いたら聞いてみるか。




 重い荷物を運ぶのも一苦労だ。ようやく腰を下ろせる。

 本来ならツクモ村で一泊させてもらう予定だったのだが……想定外のことが多すぎたからな。

 つい先日のことなのに、宿で過ごした日々が懐かしいな。


 休憩もそこそこに、背中に担いだままになっているテントを準備する。

 テントと言っても、ゴードンが使っていた一人用のワンタッチ式なので、暗闇の中でも楽々設営できる。

 実際に広げてみた時「え、こんなに小さいけどあいつ使えたの?」と思ったくらいだ。


「やっぱり、少し狭いよな」

「マスターとボクが使う分には問題ないけど、その娘にスペースを占領されるとなるとボクは密着する必要性が出てくるね」

「なんでメフィも一緒に寝る前提なんだよ」


 スペース的にも、今日は遠慮してもらいたい。

 というか、野宿するときはいつも送還したほうがいいんじゃないか。


「じゃあ、俺は寝るから送還するぞ?」

「なっ! マ、マスターはそんなにボクと一緒なのが……嫌、なのかい?」

「そんな目で見るなよ」


 おそるおそるといったように、上目遣いでこちらを伺ってくる。

 普段は雑に扱っているが、メフィは控えめに言っても十人中九人が認めるくらいには美人だ。

 誰かをモデルにしているらしいが、そんな姿の女性が常に横にいる。

 嬉しいけど一緒に寝るのは勘弁してくれ。

 しかし、だんだんと泣きそうになっていくメフィを見ていると……くっ、そんな目をされると弱いんだよ。


「……わかった。一緒に寝るか」

「そ、そこまでは……マスターは大胆だね」

「ばっ! いや、ちがっ!」

「そこまで言うなら……ボクは一日中、マスターの抱きまくらとしての役目を果たしてみせよう」

「そこまでしなくていいから!」


 少し優しくすると、すぐこれだ。

 メフィは顔を覆っているが、あれは多分からかって遊んでいるだけだろう。

 チクショウ、この悪魔が。


「さて、冗談はここまでにして、ボクは周辺の警備と共に、マスターの寝顔を堪能するよ」

「できれば警備だけにしてもらいたいが……まあいいや。とりあえず、俺は寝るよ」


 さすがの俺も、そろそろ限界に近い。

 今日一日で色々合ったが、その中でも村の入口からここまでの運搬が一番疲れた気がするな。

 楽することに慣れると怖いな。容量空間ストレージバンザイ! ……俺は使えないけど。


 ようやく横になってふと隣を見ると、ここまで運んできた少女の顔が真横にあった。

 寝る間には仰向けに寝かせたはずなのだが、もしかして起きたのか!


 そう思って一瞬ドキッとしてしまったが、目をつむったまま起きる気配はない。

 この娘の顔をこっちに向けたのは……メフィの仕業か。

 上を見ると、俺の反応にメフィがニヤニヤしながら浮いていた。

 今日はこれ以上動きたくないから勘弁してやるが、今度から寝るときはテントの外にでも出しておくか。

 攻略本と一緒に外へ出しておけば安全な気がする。


 俺は横で寝る少女と、真上からの視線をシャットアウトするうつ伏せになると、今日の疲れもあってかすぐに意識を手放した。






「キャァァァァァァ!」

「うるせぇ……」


 朝一番のニワトリにしては、やけに甲高い悲鳴を真横から聞いて、その日は目が覚めた。

 寝起きの頭にガンガンと響いてくるそのアラームは、どうやら横の少女から発せられているようだ。

 とりあえず、落ち着いてもらわないと話にならない。

 俺は上半身を起こして少女の肩を掴もうとし……寝起きなのでバランスを崩して倒れ掛かってしまった。


「……っと」

「イヤァァァァァァ!」

「ぐぼぁあ!」


 結果的に押し倒す感じになってしまったが、その後すぐにとんできたボディーブローのおかげでメフィに目撃されることはなかった。

 ……ノーモーションから放たれたそれは、俺の意識を刈り取るのには十分だったらしい。


 それだけの攻撃でテント入り口まで飛ばされた俺は、頭だけを外に出しつつ「ああ、良い天気だな……」と感傷に浸ったところで二度寝へと突入した。






 この世界ではない何処かを彷徨っていた気がするが、肉が焼けるような匂いにつられて意識が覚醒する。

 なんだろう、危うくまた別の世界に行きそうだったのは気のせいだろうか。

 別の意味でもいけたかもしれない。


「……目が覚めたかい?」

「ああ、そうか。夢、だったか」


 よくみると、真上にメフィの顔がある。それに、頭の下が柔らかい。この状況から想像できるのは……まさか!


「ボクの膝枕はどうだい?」

「いや最高っす」

「対価として金貨10枚を頂こうか」


 その言葉を聞いて、バッ! と飛び退く。

 冗談だとは分かっていても、この悪魔の囁きには抗いがたい。

 飛び退いた先には先客がいたみたいで、ぶつかりはしなかったものの「きゃっ」と短い悲鳴をあげられた。


 まさか他に人がいるとは思わなかったので、お互いに少しの時間だけ見つめ合ってしまう。

 そこで気づいたが、片手に肉を持って火の魔法を使っているところを見ると、匂いはここから発生していたらしい。

 なんというか……豪快な料理ですね。


「……えーと、はじめまして?」

「先程はごめんなさい!」

「先程? なんかあったっけ」


 この娘とは初対面なはずだ。野宿をしたおかげか寝る前の記憶が曖昧だが、謝られるようなことをされた覚えはない。


「あの……きゅ、急に押し倒されたもので……咄嗟に」

「……ほう、そんなことがあったのかい?」

「え? いや、覚えてないけど」


 なぜかメフィがジト目でこっちを見てくるが、覚えていないことで責められても困る。

 まさかこの娘が夢の内容を知っているわけでもないし、メフィも何か怖いのでシラを切ろう。


「で、でも! そのせいで怪我をっ」

「怪我?」

「わたしの回復魔法が下手なせいか、何度魔法で治そうとしても治らなかったので、そこにいる彼女さんに治して頂きましたけど……」


 俺としては、怪我した記憶も、痛みで苦しんだ記憶もないので反応に困るが……まてよ、メフィに治してもらった?


「全く記憶にないんだが……ちなみに、俺の怪我は酷かったか?」

「鬼である彼女の攻撃を受けたとは言え、まだ銀貨10枚程度で治る怪我でよかったね。膝枕はサービスだよ」

「ああっ! ただでさえ金欠だってのに!」


 俺の叫びに、鬼の娘はビクッと怯えたみたいだが、いまはそこまで気にしている余裕がない。

 あと容量空間ストレージを開く分の銀貨しかないって、これ次の街まで無事にたどり着けるのか?

 幸か不幸か、銅貨はあるみたいなので、多少の買い物には困らないが備蓄食料が取り出せなくなるのはつらい。


「うぅ……すみません、わたしのせいで。せめてわたしの魔法が効けば良かったのですけど」

「なんで効かないんだろうな。種族が違うと魔法の効き目が違うとかか?」

「そうですね。わたしも悪魔の方に魔法を使ったのは初めてだったので、回復する属性が違ったのかもしれません」

「ん? こいつは悪魔かもしれないけど、俺は人間だよ」


 その言葉に、彼女は固まってしまった。

 そうか、メフィのことだからまた自称・悪魔とでも自己紹介をしたんだろう。

 なので、一緒にいる俺も悪魔だと……マジか。これからそういう勘違いもされるのか。

 悪魔の見た目が前のアイツみたいなら良いが、道行く人々に俺も悪魔だと勘違いされるのは堪ったものではないな。


 いまだ固まったままの彼女は無視して、メフィにその旨を伝える。


「例えマスターの命令だとしても、ボクは悪魔と名乗るのを止めるつもりはないよ。こんなボクでも、譲れないものがあるのさ」

「まあ、止めろとは言わないけどさ。この件に関しては、俺が勘違いされないように行動するだけでいっか」


 今回は俺のいないところで勝手に勘違いされただけだ。

 常にメフィから離れず、初対面の人には説明していけば大丈夫だろう。

 メフィの相棒というよりは、なんかサポート役って感じだな。


「ところで、その肉は良いのかい? 彼女は動かないが、肉はいつまで燃やすんだろうか」

「そういや肉が……ちょ、キミ! 火、火!」

「え? ああッ! た、大変です!」


 料理の途中に気を失ったその状況に気づいたのか、彼女は片手に持っていた肉を放り投げる。

 もう既に丸焦げになっているが、うさぎの大きさくらいはある肉の塊が放物線を描いてこちらに飛んでくる。


「食べ物は大事にしないと……って、アッチ! うわっ!」

「マスター……先程まで加熱されていたんだから、熱いのは当たり前だよ」


 鬼の彼女から俺へ、俺が熱さに手放してからメフィへ。

 意図せずに肉のキャッチボールが行われたが、メフィもそんな呆れた目で見てこないでくれ。

 確かに俺のエラーをカバーしてくれて助かったのは事実だけどさ。


 俺達のキャッチボールを他所に、最初にパスした彼女は別のことを考えていたらしい。

 俺が肉キャッチをドヤ顔で自慢しようとするよりも先に、質問という名のパスが返ってきた。


「あの、確認ですけど……あなたは人間、なんですか?」

「ああ。こいつは自称・悪魔だから本当かはわからないが、俺は人間だよ」

「わたしは……この頭にあるツノの通り、鬼……ですよ?」

「うん? それがどうしたの?」


 俺の返答に呆気に取られていたみたいだが、こんな娘が鬼と言われてもピンとこない。

 金はないけどメフィも傍にいるし、もっと命の危機を感じる姿じゃないと恐怖を感じない。


「わたしは鬼ですけど……元、人間だったんです」

「え、どういうこと?」


 どうやら、この世界の鬼というのも色々いるらしい。

 にしても、腹が減ったな。

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