さらばツクモ村
鬼。
メフィいわく、人間に滅ぼされた絶滅種族らしい。
特徴としては、膨大な魔力。とてつもない筋力。そして、頭に生える二本の白いツノ。
この世界での悪魔や鬼などは、魔族の中でも強大な力を持つ。
さらに、その種族は魔王軍に属する者。また、幹部に準ずる者が多く存在する関係もあってか、人には恐怖の対象として見られるそうだ。
それでもメフィが自称・悪魔というのをやめないのは……何かポリシーでもあるのだろうか。
洞窟の入り口から見える灯りを目指しつつ、素早くメフィと今後の方針を話し合う。
村にこの娘を預けることも出来そうにないし、目が覚めないことにはどうしようもない。
「チッ、村に戻ったら、まずはあいつらの家族に報告か。今後の対策として獣避けと、フレッシュハーブについての注意を……」
「ようやく外に出ました……お兄さん! まだ辺りは暗いので、遅れないでくださいねー!」
「すぐ行くから、入り口で待っていてくれ!」
しかし、このままこの娘を連れて行くと、パニックになるだろうな。
ここは村の長である者の指示を仰ぐか。
「ところで村長さん。忙しいところ悪いんだが……」
「あいつらはお前さんがいなけりゃ正体を暴けなかったんだ。レイナのことと言い、ろくにお礼も出せないが感謝している」
「……ああ、驚かないで聞いてほしいんだが、この娘のことなんだ」
「そういや、そのお嬢ちゃんはどうしたんだ? 俺にはあの野郎がいきなり変身したように見えたが……まさかあの野郎なのか!」
早とちりしすぎだろ。男がそんなバンバン少女化してたまるか。
近くにいたリューも呼び寄せ、ハンカチ代わりの布で隠していた少女の頭を露わにさせる。
「え……その、頭にあるそれって……」
「おいおい、冗談じゃねぇぞ……狂人の次は鬼ってか……ハハハ」
「いやこの娘は敵じゃなくて……」
「うるせぇ! 眠っているなら今がチャンスだ! リュー、やるぞ!」
「はぁ……マスターの話を聞きなよ」
「うわぁ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさ…………」
話が聞かない村長に、メフィが上半身だけすり抜けて強制終了させる。
いやー、この光景も見慣れたもんですわ。
リューも呆れた目で村長を見ているし、威厳も何もあったもんじゃないな。
「この娘はトミーがあの場所から脱出するため、身代わりにされた娘だ」
「だが鬼だと? いや、まさか……そんなはずは……」
「鬼ってあの、昔に絶滅したと言われるあの、鬼……なんですか?」
見た目はほぼ人と同じ。しかし、見た目からは想像もできないほどの魔力と筋力。そして何より、人を喰う……という噂。
絶滅したと思われているが、人の街に紛れ込み、夜な夜な食事をしている……という噂まで流れているらしい。
「じゃあ、この娘を連れて村には……」
「すまんな。いくらお前さんが恩人でも、村を恐怖に晒すわけにはいかねぇんだ。報酬も何もなくて悪いが、分かっちゃくれないか?」
「マスター、ボクからも忠告するよ。その娘がいつ起きて、どんな行動を取るかわからない以上、村に入るのは得策ではないね」
なんだよ、ちょっと言ってみただけじゃないか。
それに鬼という種族は、その膨大すぎる魔力が周囲にも干渉するおかげで、近くの格下種族は体調を崩したり弱体化するんだとか。
もちろん人間も格下に含まれるが、俺にはなぜそれで体調を崩したり弱体化するのかがわからない。
あとでメフイにでも聞いてみるか。
それにしても、この娘を放置して、自分だけ村に……なんてことは罪悪感に押しつぶされそうで出来ない。せめて状況だけでも説明してやらないとな。
しかし、報酬がないとなると俺もメフィの対価を払えないということか。
ここは安全のためにも、少しごねてみるか。
「村長さん。私たちはすぐ立ち去ると約束しましょう。しかし、旅をするのにも路銀が必要なのです」
「くっ、これ以上金は出せないぞ! こっちもこれからの処理が色々とあるんでな」
「ではそうですね……この、御神体に入っていたオーブなのですが」
「それならお前さんにやるよ。そのほうが村も襲われなくて済みそうだからな」
「えっ? なんかあっけないな……」
魔王に挑む際の重要アイテムなはずなのに、そんな簡単にいいのか。
しかし、本物かどうかもわからないので、貰えるなら貰っておこうか。
「あ、あの! お兄さん!」
「ん、どうした。俺達はもうこの森を抜けたらお別れだぞ」
村に入れないし、報酬も出せないというなら寄る必要がない。
開けた道に出た後、適当なところで野宿でもしようと思っていたが。
「せめて! せめて村の入口まででも来てください! 報酬なら僕が少しでも出します! 僕達にお礼をさせてください!」
「お、おう……しかし、村長にならともかく子供に」
「マスター、残りは容量空間が三回開ける分しかないよ」
「すまんなリュー! 今は少しでも金が欲しいんだ!」
俺も子供にたかるのはどうかと思うが、こっちも旅の安全という命が懸かっているんだ。
つまらないプライドなんか捨ててやる。
それでも、リューとメフィに無言でアイコンタクトをし、三人で村長をジト目で見つめることくらいはするけどな。
行きとは違い、事件があった現場を回避して村へとたどり着く。
村長の話では、外に出た馬車が戻ってくるまでは村から出ることを禁止するらしい。それと、腕の立つ門番も募集するみたいだ。
不幸な偶然が重なったとはいえ、暗殺獣を一匹連れてきた俺にも責任はある。
報酬に関して「子供に払わせるくらいなら……」と御神体を差し出してきた村長をやんわりと断り、リューには何かモノを一つ貰うことにした。
「しっかし、門番不在で大丈夫なのかね、この村は」
「それまでは、私とエリナで代わりを努めます」
村の入口でメフィと駄弁りつつリューを待っていると、歩けるほどには回復したのか、軽装に着替えたレイナが近づいてきた。
「レイナさん……その、ラルフさんのことは、なんというか」
「いえ、話を聞いた時点で覚悟はしていました。彼のおかげで、私はまだ生きているんです」
「それに、今回の犯人も逃してしまったので……なんというか」
なんというか……のところでメフィに視線を向けてみる。
いや、何もできない俺が言える立場でもないが、あれだけ大量の対価を払ったのに取り逃がしたんだ。文句も言いたくなる。
「ボクは……いや、そうだね。ツメが甘かったのは否定しないよ。すまない」
「いいえ! 私の傷も治してくださった方なのに! そうだ、私からのお礼としてこの武器を差し上げます!」
そう言って、壁に立てかけたままになっていた大鎌を片手で持ち上げ差し出してきた。
……片手で?
「いや、武器なんて貰えませんよ! それに、これがなかったらレイナさんはどうやって戦うんですか!」
「これでもSレア相当の武器なんですよ? 使用者の魔力によって威力が高まるらしいですが、私には真価が発揮できなかったみたいです。それに私は、重さがあればなんでも振り回せるので大丈夫ですよー」
そういって、満面の笑みでこちらに大鎌を差し出してくるレイナ。
これが短剣とかなら可愛かったんですけどね。
魔力が関係あるなら俺にも使えないが……これは、断れそうにないな。代わりといってはなんだけど、今後のためにこちらも武器を渡すか。
「メフィ、対価を払う。容量空間を開いてくれ」
「良いのかい? ボクが言うのも何だけど、残りは……」
「ああ、わかっている」
この村の為でもある。
それに、こんな大鎌どうやって運ぶよ。
メフィに空間を繋げてもらい、レイナにその中へ大鎌を入れてもらう。
え、俺? 案の定両手でも持てませんでした。
この村の女性って怖い。
さて、武器は回収したけど、たしかゴードンからもらった中にアレが……えっと、これとこれか。
あとはついでに野宿セットでも出しておくか。これから容量空間は多用できそうにないし、今のうちに運べそうなモノは出しておこう。
最後にあの武器を……うっ、取り出せ……く。
「メフィ、俺が掴んでいるモノを取り出したいから、容量空間を閉じてくれ」
「そのまま引っ張れば……あっ」
その察したような反応はやめてくれ。
気づかれないよりは良いが、微妙に傷つく。
メフィが無言で空間を閉じていくと、俺の手には大斧が握られ……ていたが、重力によって地面に落とされた。
「っぶねぇ! 手が挟まれるところだったぞ!」
「……マスターも、少しは鍛えたらどうだい?」
「よ、世の中には力の元になる種や薬などもありますので……そう落ち込まないでください」
何故だろう。レイナのフォローが痛い。
でもまあ、目的のモノはあったんだ。
「先程頂いた武器の代わりに、この大斧をどうぞ」
「でも! こんな高価そうな武器はっ」
「レア武器なので大鎌より等級は落ちてしまいますが、貰い物ですのでどうぞ。それに、私には扱えない武器です」
レイナは先程の光景を思い出したのか、すぐに納得してくれたようだ。
間違ってはいないが、複雑な気分だ。
「これは……大鎌よりも重量感があって、振り回しやすいです!」
「それはよかったですね」
笑顔でブンブンと大斧を振り回す様子は、魔物じゃなくても恐怖を覚える。
俺もそうだが、あのメフィですら怯えて俺の背中に隠れるくらいだ。
この女性が入り口にいる限り、悪者はよっぽど近づかないことだろう。
「では……私はもう旅立ちますけど、次に寄ったときに村がなくなっていることのないようにお願いしますね」
「はい! しっかりと村を守ってみせますね!」
片手で素振りを行いながらも笑顔で答えられると、この村はしばらく安全そうだ。
目の前の彼女は、もしかすると村の最強戦士なのでは?
そうこうしているうちに、リューがやってきたみたいだ。
夜も遅く、子供はもう寝てる時間だというのに、なんとも健気なことだ。
「お兄さん! はぁはぁ……よかった、間に合った」
「そんな急ぐなよ。待ってるって言ったろ?」
「でもっ! これで会えないとなると……ってうわぁ!!」
息も切れ切れで話していたからか、隣で素振りをするレイナに気が付かなかったらしい。
リューのすぐ横を大斧の風切り音が通り過ぎ、その存在に気づいたようだ。
「あぁ! 大丈夫っ? ごめんね!」
「レイナさんっ! 嬉しいのはわかりますが、夜も遅いのでお静かに!」
「はいっ!」
この村の力関係が垣間見えた気がした。
しっかり者の観点からいくと、最強はリューなのか? まさかな。
「あの、お兄さん。お礼として、僕の銀貨5枚と、こちらをどうぞ」
「うん? 何だこれ」
出費とプラマイゼロになった銀貨はいいとして、差し出されたのは、小さいトーテムポール? え、俺にどうしろと?
「これは何年か前に森で拾ったんです。なんとなくお守りとしていつも持ち歩いていたんですけど……お兄さんに差し上げます」
「お、おう……大切にさせてもらう」
全く意味がわからないが、お守りというならそういうモノなんだろう。
森で拾ったということは、誰かの落とし物だろうか?
元持ち主に詳しく聞こうと思ったが、レイナがリューに銀貨を渡しているところが見えた。
うん……やはり子供にたかるのは罪悪感に押し潰されるな。ありがたく貰うだけにしておこう。
「じゃあ、そろそろ行くよ。また近くまで来たら寄るさ」
「ありがとうございました!」
「お元気でー!」
結局、村長は来ないし、まだこの娘は目を覚まさないしで、旅には不安が残る。
しかし、こういう旅立ちも悪くないな……お金はないけど。
そう思いつつ、深夜の中、村から道なりに遠ざかって行く。
「ところでマスター、いまから何処へ向かうんだい?」
「……とりあえず、寝れそうな場所を探すか」
未だ目覚めない娘はメフィに任せてあるが、野宿セットは意外にも重い。
調子に乗ってテントまで出すんじゃなかったな……と、今更になって後悔した旅立ちだった。
ストックがつきかけているので、更新頻度が落ちます。
あと、今更ですがブクマ登録ありがとうございます!




