アンサーチェック
突然の乱入に、どうやらトミーのほうも面食らったようだ。
奴のポチは、何回か攻撃して壁を破れないか試していたようだが、無駄な足掻きはやめたらしい。
さすが頭がいいだけはある。
「そういや、不思議な姉ちゃんの姿が見えないと思ったら……姿まで消せるとは、何処の精霊様だ?」
精霊様? それは俺も詳しく聞きたい。
チラッとメフィのほうを見ると、とくに慌てた様子もなくすまし顔だ。
「ボクは悪魔さ。それも、君の想像の上をいく……ね」
「悪魔だと? 馬鹿いうなよ、お前みたいな悪魔なんて……」
「おいトミー、さっきの続きだ。俺から三つ質問をするが、お前の質問にも三つ答えよう」
「……おもしれぇじゃねぇか。いいぜ、答えてやる」
メフィの障壁がいつまで持つかは知らないが、こいつが急に襲ってくるということはないだろう。
向こうも時間と情報が欲しいはずだ、その点は心配ない。
……心配なのは俺の懐だけだ、大丈夫だろう。
「まず、お前は勇者か?」
「何を言い出すかと思えば……ックック……ハッハッハ! こいつは傑作だ。この俺が勇者だって? 勘弁してくれ」
「でも、このオーブを集めているってことは……」
「……どうやら、お前はこれを知っているらしいな。ちょうどいい、俺の答えは違う。ただの冒険者だ」
「お前がただの冒険者なわけないだろ!」
あいつはこれ以上答える気がないらしい。
くっ、しかし先行が俺でよかった。
「じゃあ次だ。なぜ魔物を従えてるんだ?」
「まず、どうして俺がこいつを従えてると思ったんだ? 答えるのはそれからだ」
「暗殺獣に命令したり、名前がポチだったり……それに、フレッシュハーブという素材に心当たりがあるだろ?」
「あの場所は良い群生地だったな。あの村にいる間は、随分とポチがお世話になったぜ」
フレッシュハーブ。薬の原料にもなるそれは、魔物にとっては極上の甘味ともなるらしい。暗殺獣をおびき寄せるエサとしても使われる……そう記載されていたが、主人としてはエサをストックしていても不思議ではない。
恐らく匂いに釣られて、二匹もの暗殺獣が集まったのだろう。
「それにポチって……どうみてもペットだろ?」
「ククッ……教えてやるよ。テイマーって聞いたことはないか? 俺は元々、そういうことに長けた村の出身でな。珍しくてもしょうがねぇな」
あ、知り合いにいるわ。
リアンがそのテイマーとやらだったな。
しかし、暗殺獣なんて魔物をテイムするとは、相当な手慣れらしいな。
それよりも、重要な疑問がある。
「じゃあ俺から最後の質問だ……お前は、魔王側なのか?」
「そこに気づくか。答えはどちらでもない、だ。しかし、人間が魔王と手を組んじゃいけないって決まりはないだろ?」
「そうだな、現に俺も悪魔と組んでいる……自称だがな」
「それだ。お前からの質問は終わっただろう? 次は俺だ」
これでも約束は守る男だ。
聞きたいことは聞いたが、こいつにも答えてやろう。
「俺からは、そこの姉ちゃんについて聞かせてもらおうか。悪魔だとか言っているようだが、何処でその精霊を手に入れた?」
「何処で? 魔王の間かな」
「まっ! ……お前、あの場所からの帰還者かっ!」
なんかトミーだけではなく、近くにいた村長とリューも驚いているようだが、別に嘘は言っていない。多少の誤解はあるかもしれないが。
しかし、こいつと同様にこれ以上答える気はない。
「これ以上知りたければ次の質問をしな」
「チッ……じゃあ、お前は何だ?」
なんというか、すごくアバウトな質問が来た。
そう言われても、回答に困る。
「人間……勇者ではないが、勇者に巻き込まれた一般人、かな?」
「何だそれ。いや、そうとしか答えようがないのか」
「そう解釈してくれると助かる」
俺だって、なんで自分がここに来たのか理解していないんだ。
せめて魔法くらい使わせてくれよ。
しかし、やけにこいつの物分りが良いのが気になるな……オーブを集めているようだし、ひょっとして。
「……こっちも今更になって聞きたいことが出てきた。ほら、最後の質問をしろよ」
「これ以上は俺も話さないぜ? そこの姉ちゃんが壁を解除してくれたら考えるけどな」
「生憎とボクは、マスターの命令にしか従わないのさ」
「そうだ。最後に、その姉ちゃん……悪魔といったが、契約したのか?」
こいつ、メフィのこと好き過ぎるだろ。
そんなに興味を持たれても、俺の相棒はやらんぞ。
「契約も何も、メフィは俺の所有物さ」
「マ、マスター! そういうことは、もっとこう……相応しいタイミングと場所で言ってもらわないと、ボクとしてはちょっと……恥ずかしいかな」
「てめぇら何イチャついてんだ!」
「おおっと、男色特有の嫉妬かい? 悪いが男には……」
「だぁー! もうっ、ポチに壁が破れないなら、俺の魔法でっ!」
奴が急に暴れだしたが、本当に大丈夫なんだろうな?
堪らず横のメフィを見ると、既に詰みの段階へ入っているらしい。
俺の財布も詰みになりそうだ。
「……なんだこれ、俺の魔法が効かない? いや、後ろからも壁が!」
「何も考えずに質問をするとでも思ったか? 俺は魔法を発動していたのさ! 話に乗った時点でお前とポチは詰んだんだよ」
「実際に仕掛けたのはボクだけどね。マスターは何もしていないさ」
そこ、ネタバレしない。
メフィの作戦はこうだ。
先に俺を先行させ、障壁の範囲を定める。俺のいる位置よりも、少し後ろといったところまでか。
あとは門番二人が洞窟の中に入ったことを確認し、入り口から障壁の位置までどんどんと空間を狭めていけば良い。
要するに空間圧縮だ。張った本人はすり抜けれるもんだから、必然的に残った二人が圧縮される。
なかなか酷いことをしやがる。さすが悪魔だ。
空間が狭くなればなるほど、より強固になっていく空間らしいが、俺からの位置でも、既に迫ってくる壁が見えている。
あれを破れるもんなら破ってみな!
俺の銀貨か、奴の気力か……どっちが持つか。
「く、くそっ! ここでやられるわけにはいかねぇんだ!」
「安心しろよ、お前にはまだまだ聞きたいことがある。そのまま容量空間に閉じ込める手筈になっているが、殺しはしないさ」
「こうなったら……あの手は使いたくなったが。ポチ、待っていろ。俺はお前を見捨てない……送還術・退!」
「っ!! 何をする気だ!」
奴が魔法を使うと、あれだけ巨大な存在感を放っていた暗殺獣がどんどんと小さくなっていく。
やがて、子犬くらいの大きさにまで縮んだと思うと……ポンッ! という可愛い音と共に消滅した。
あいつ、魔物を逃しやがった!
「メフィ! あの空間からは脱出できないんじゃなかったのか!」
「……ボクはあの二人に対しては『存在を空間に固定』しているだけさ。まさか、退化させることによって、別の存在に成りすますとはね」
「あいつのほうは大丈夫なんだろうな?」
「人間というものは、早々に変化ができない。例え薬を飲んで別の存在に変わろうとしても、変化中が終わる前に空間が無くなるだろう」
「そうか……それじゃああれも、大丈夫なんだろうな?」
ちょうどトミーは、何かの小瓶を取り出したところだ。
まさか、魔物化とかするんじゃないだろうな……
既に壁で挟まれそうになっているトミーは、俺の心配を知ってか知らずか、小瓶を勢い良く地面に叩きつけた。
白い煙で一瞬だけ視界が塞がれるが、ただそれだけだ。
……意味のわからない行動だったが、トミーは相変わらずその場に留まっているみたいだ。
心なしか、背が低くなって、右へ左へと頭を動かして、女の子のような見た目になって……って、あれは別人じゃないか!
中の人は状況を把握したのか、迫ってくる壁に対し必死に両手を広げている。
「メフィ! 今すぐ壁を消せ!」
「どうしたんだい? あともう少しで仕上げ……」
「強制終了!」
くそっ、間に合え!
俺はメフィにそう叫ぶと同時に、無駄だとわかっていてもその障壁へと飛びつく。
そのタイミングで強制終了が働いたようで、俺はそのままの勢いで中の人へ突っ込んだ。
……よし、無事だな。
危なかった。このまま容量空間に収納されたら、アイツにかける予定だった拷問魔法が、全てこの子に降りかかるところだったぞ。
おのれ、トミーのやつ! なんて奥の手を隠してやがったんだ!
八つ当たりだとわかっていても、憤慨せずにはいられない。
そういや、アイツの名前を聞き忘れたが、俺も名乗っていない……今回は逃したが、次に会ったときは許さない。
「今、何が起こったかわかるか?」
「……信じがたいことだが、彼はどうやらボクの魔法に気づいていたね。まさか『存在を空間に固定』する方法を逆手にとって、存在の退化と、存在自体の交換を行うとはね。これはボクのミスだ。すまない」
存在の交換。
別の場所にいる人物を自分がいる場所へと送り、自分はその人物がいた場所へと送られる。
メフィの使った『存在を空間に固定』する魔法は、転移魔法などの逃げ出す方法に強い特化型だ。
しかし、奴の使った魔法は魔物を送り返す送還。それと、別の人物を召喚し、立場を交換する道具。
これは転移魔法ではなく、召喚魔法に分類される。
魔物の場合は存在を書き換えるという暴挙に出たようだが、まさか人物ごと入れ替わり、身代わりにするとはな。
身代わりにされたのは、どこかの女の子のようだ。
いきなり壁が迫ってくるというのは、相当な恐怖だったのだろう。
俺が抱きしめるとすぐに気を失ってしまった。
……決して、俺のせいではないはずだ。
御神体も無事、中身のオーブも無事。
こちらに被害はナシか。被害があったのは俺の財布だけでいい。
全て終わり、さて帰ろうかというところで、空気が話しかけてきた。
「お前さん、決着はついたのか?」
「おや、空気が喋ったぞ。メフィもいたずらが好きだな」
「ボクのせいにされるのは心外だけど、マスターの気持ちも理解るさ」
「あのー、お兄さん? トミーさんはどうなったんでしょうか?」
「おや、今度は灯りが喋ったぞ?」
「す、すみませんでした! 口を挟んで良い雰囲気じゃなかったので……」
まあいじめるのはこれくらいにしてこうか。
二人ともただ見ているだけだったが、邪魔されても困るしな。
手早く、トミーと暗殺獣に逃げられたこと。代わりにこの少女が身代わりとなって召喚されたことを伝える。
これで少しでも村から報酬が出ればいいんだけどな。
今の財布を見るのが怖い。
まあ、今は村へ戻るか。
二人に先導してもらい、俺は少女を抱え込もうとして、その頭についているあるモノに気づいた。
「なあメフィ……この娘ってもしかして?」
「一見すると人間のようだが……この頭だと違うね。まさか、あの種族の生き残りがいるとはね」
少女の頭には、ちょこんと、しかし強く自己主張をするように二本の白いツノが、生えていた。




