再びのヤシロ様
何かがおかしい。いや、予想はついている。
「レ、レイナ? お前はラルフに襲われて気を失ったんじゃないのか?」
「いえ……何度か噛みつかれたことは覚えていますが……ラルフさんは私を守ってくださりました。あの獣は、ラルフさんが倒したのでは?」
「いや……え? だとすると……」
レイナが気を失った。その直前まで、ラルフという人物はレイナを守りながら戦っていたらしい。
しかし、結果は怪我人として二人運ばれてきた。
レイナが重傷、ラルフも重傷……というほどでもないが、手負いだ。
暗殺獣が擬態したとしても、本物が近くにいてもおかしくはない。
「あたしらがラルフだと思っていた人物は、魔物が擬態した姿だったらしいよ……ついさっき襲われた」
「そ、そんな! じゃあ、本物のラルフさんは……」
「襲われた場所にまだいるか、或いは……」
レイナ以外の全員は、暗殺獣の本来の姿を見ている。
あの巨体であれば、人を丸々食べるのも容易なことだろう。
俺達の顔を見て、レイナも察したらしい。
相当ショックだったみたいで、両手で顔を覆い隠してしまった。
……誰も何も言うことが出来ずに、レイナの泣き声だけが部屋に響く。
しかし、悪魔には関係なかったらしい。
「ところで、腕はきちんと動くかい? ボクも腕を接続するのは初めてだったからね。何か違和感があれば教えて欲しい」
「っ……っっ! ……腕、ですか?」
「てっきり戦闘で切断されたものだと思っていたが、違うのかい?」
「そんな記憶は……それに、武器も……あれ? そういえば、私の武器は何処にありますか?」
「そういや、腕は一緒に運ばれてきたが、レイナの武器はなかったな」
「おかしいですね……最後まで離さなかったはずですけど」
だとすると、武器を奪うために腕ごと切ったのか?
奪うだけなら、手首のみでも問題ないと思うが。
「ちなみに、どんな武器を?」
「大鎌です」
「え?」
「レイナは大鎌を振り回すんだよ」
何それ怖い。
いや、いま重要なのはそこじゃない。
大鎌……何処かで見たような気がする。
「そういや、この二人を運んできたのは誰なんだ?」
「ああ、お前らも見ただろ? 入り口にいるトミーとイリーだ。あいつらはCランク冒険者なんだぜ? 強そうだったろ」
「そうだな。そこにいるメフィを見ても驚かなく…………あ」
そうか。
入り口に立てかけてあった武器が、たしか大きい鎌だった。
ハルバートみたいな武器かと思ったので、なんとなく印象に残っている。
すると、あいつらがレイナの腕を切り落としたり、火の魔法を使ったのだろうか?
「ちなみにそいつらって、火の魔法とか使える?」
「いや、トミーのほうは魔法に長けている術士だが、二人とも火の魔法は使えなかったはずだ。どうしてそんなことを聞くんだ?」
となると、また別の誰かか?
門番はただ武器を預かっていただけかもしれない。
……悩んでいても仕方ないな。
「まあまあ、これで暗殺獣は倒したんだ。約束通り、報酬を貰おうか」
「ああ、そうだったな。今準備するから待ってな」
……さっきから村長を働かせてばかりだな。
まあ報酬を貰ったらここからオサラバできるんだ。
御神体の中身だけ見せてもらって、あとはさっさとローリアの街にでもいくか。
「そういや、ここからローリアの街への道までって、誰かわかるか?」
「それならここから東へ行ったところに、街まで続く道があるが……あんた、歩いて向かう気かい?」
「そんな遠いのか?」
「この村からでも、馬車で三日といったところだね。あんたの足だと十日はかかるんじゃないか?」
おう……ある程度予想はしていたが、どんだけ遠いんだよ。
まあ歩いても十日くらいで着くということは、行けない距離ではないんだろうけどさ。
「……ちなみに、馬車を借りることは」
「この村にある馬車は、今は全て出払っています。いつ戻ってくるかは、私にもわかりません……」
最初は歩いて向かう予定だったんだ。
当初の予定通りに向かうか。
「……待たせたな。どうした? そんな絶望したような顔をして」
「いや何、ちょっと自分の運動不足と、情報不足を後悔してな。まあいい、早くヤシロ様のところへ行こうぜ」
これからのことはまた後で考えよう。
暗殺獣も片付いたことだ。今はヤシロ様の中身が気になる。
ついてこようとするレイナを説得し、村長とリューを引き連れ外へ出る。
なんでも、村長は光魔法が使えないようだ。村長のくせに。
もう夜も遅いので明日にしようとも提案されたが、ヤシロ様の中身が気になって眠れそうもない。
暗殺獣の報酬として、不足分を村長に護衛してもらうことで説得した。
灯り役と、襲われた現場への案内役も兼ねて、二人と共に来た道を戻る。
……村の入り口に差し掛かった時、行きとは違うあることに気づいた。
「……門番の二人は何処に行ったんだ?」
「ありゃ、ちょうど巡回の時間だったかもしれないな。あいつらにはたまに村の周辺を見回りしてもらってんだよ」
「……にしては、誰もいないなんて不用心だろ。二人いるんだから交代で行けばいいのに」
「細かいこと気にすんなって! あいつらには後で言っておくからよ!」
門番の意味がなくなるほど致命的な行為だと思うんですけど。
まあ、聞いたところによると、二人は火の魔法は使えないんだ。
第三者じゃなければ、別に気にすることでもないか。
森への道は、行きとは違いスムーズに進むことが出来た。
現場を見たいと行った村長さんに気を使ったのか、リューも走ることはせず、村の脅威も去ったということで落ち着いた足取りだ。
とくに躓くことも、転がりまわることもなく順調に進んでいく。
傍の悪魔は何やらつまらないといった表情をしていたが、思いつたように村長へ纏わりつく。
……あいつ、ターゲットを変えたな。村長を驚かすことによって転がしたり反応を楽しんでいる。
常に誰かで遊んでないと気がすまない性格なのだろうか。
そうこうしているうちに、リューやレイナ達が襲われた場所へたどり着いた。俺達が見たときと変わらず、不自然に燃やされたような跡や、戦闘の爪痕といった感じの荒らされ方がそのままだ。
……いや、本当にそのままか?
何か、さっきと変わった点は……
「そんな森の奥ってほどでもないのに、ここでお前らは襲われたのか」
「そうですね。いつもは安全な場所なんですが……」
「そういや、採取していた薬草はどうした?」
「あれ? おかしいですね……僕はここら辺に投げ捨てたはずですけど。トミーとイリーさんが回収してくれたのでしょうか?」
「いや、あいつらは何も持っていなかった。となると、また集めてもらわないとな……」
「そんなに重要なものなのか?」
「ああ、集めてもらっていたのは、薬の材料でな。他にも、安らぎ草やフレッシュハーブなどを集めてもらっていたんだ」
「マスター、一応今言われた名前を調べてもらえるかい? ボクの予想だと、不可解な行動の手がかりはそこにありそうだ」
こいつ探偵気取りか。
俺も頼るしかないんだ。大人しく従おう。
一覧から該当する名前を探していると、後半に載っているということは中々のレア素材らしい。
何の材料になるかを見ると……なるほど、そういうことか。これは用心しておいたほうがいいな。
どうやら、まだ事件は終わっていないらしい。
「まさか森の中を通るとは思わなかったが、今日はやけに森が静かだな。深夜は魔物にとって絶好の狩りだというのに」
「ボクの魔法も効いているのかもね。そんなに珍しい魔法でもないから、今回は報酬分からしか貰っていないよ」
俺の頼みだから仕方ないとはいえ、村長から貰った銀食器類が次々と消滅していっている。
何もしていないのに、リュックがどんどん軽くなっていくという感覚も不思議なものだ。
これもある意味で魔法なのは間違っていない。
ようやく森を抜け、ヤシロ様の洞窟が見えてきたところで……予想通りの展開になっているかをメフィに確認する。
「悟られないように頼むが……追手はいるか?」
「……いるね。どうやらボクの想像通りだ」
「向こうが隠れているなら、まだ仕掛けてこないだろう。このまま中へ入るか? あいつらの目的も気になる」
「そうだね。ここは逃げられないように布石を打っておこう。マスターはそのまま中へ入ってよ。ボクは姿を消すけど、彼らより先には追いつくさ」
「わかった。信用しようじゃないか」
俺はリューと村長に続き、後ろを振り向くこともなく洞窟の中へ入る。
奴らが着いてきていることは確定なんだ。こちらが気づいていると悟らせる必要はない。
追手は門番の二人。
トミーとイリーと呼ばれる人物だが、不意打ちする予定ならかかってきやがれ。




