VS 暗殺獣
こいつらは獣のくせに、擬態さえすれば武器も使うらしい。
全く、俺より武器の扱いが上手いとかはやめてくれよ。
「ラ、ラルフさん? どうしちゃったんですか……」
「ま、まさかお前! 怪我したせいで頭がおかしく! ……前々からおかしいやつだったが、遂にそこまで!」
「そいつが暗殺獣だ! お前たちの知るラルフじゃない!」
ラルフという人物も酷い言われようだが、ここで手を抜いてこいつらが負傷することは避けたい。
今は防御をメフィに任せて、俺は攻撃を当てることに集中しよう。
「まさか怪我人に擬態して、治してくれるのを待っているとはね……頭が良いというだけはあるみたいだ」
「んなこと言ってないで! メフィの魔法でコイツを倒せないのか!」
「可能だけど良いのかい? マスターと君たちの安全は保証するが、この家の無事までは保証しないよ」
「ちょ! それはやめてくれよ!」
慌てて抗議する声が入るが、命か家かどっちが大事なんだ。
それは最後の手段にするとしても、問題は……奴の動きに俺がついて行けるかだ。
どうやら人間状態だとそこまでの素早さは発揮できないようだが、それでも俺からすると十分に速い。
最初の一撃も、いつ動いたか判断できなかったくらいだ。
「くっ、おいお前! こいつは本当に暗殺獣ってやつなんだろうな!」
「お前らは攻撃されたんだぞ! まだ疑うのか!」
「だが……どうしてもアイツにしか見えねぇ!」
そうか、こいつは成りすますのが得意な獣だ。負傷者に成りすましたり、細かい仕草を真似することなんてお手の物だろう。
ここまで相手が悪いと……Bランク冒険者も当てにできないか。
「メフィさんや、さっきの魔法はまだ持続していると考えていいのかい?」
「……そうだね。あれはボク達全員を守る魔法さ。それに、マスターには自動防御も付いているから安心しなよ」
なんだ。そうなると俺が攻撃を食らう可能性はないってことか。
心配して損した気分だ。
いくら速さがあっても、こっちが攻撃を受けないということなら何も問題はない。なら……逃げられないようにするだけだ。
この部屋には窓と扉が一つずつある。窓のほうは村人のついでにメフィが護っているが、扉がガラ空き……なら!
「お前の行動はっ! お見通しなんだよ!」
「グルルゥ……ガァァ!」
予想通り、暗殺獣は扉に向けて走り出した。
それを見越して俺も扉へ向かい、そのままの勢いでヴェノムダガーを振りかぶったが……奴はすぐさまバックステップでそいつを躱した。
俺の渾身の一撃だったが、やるじゃねぇか。
元になったラルフの、戦士の勘が働いたとでも言うのか。
大きく体勢を崩した俺に、すかさず奴が襲い掛かってくる。
しかし、それもお見通しなんだよ!
「っふ、らぁ! くらえ!」
「ッッ! グギャアアア!」
振り向き際に、反対の手に持っていたもう一本のダガーを突きつける。
あらかじめ逆手に構えていたこともあり、奴は勢い良くダガーへと突っ込んでくる。
暗殺獣が気づいた時にはもう遅い。ダガーはそのまま、奴の喉元へ吸い込まれるようにグッサリと深く刺さった。
気づくと、奴の剣を受け止めるように攻略本が間に入っていた。
……自動防御がなければ、俺のほうが先にやられていたな。
人間状態の奴が倒れると、まるで魔法が解けるかのようにグニャグニャと形が変わっていく。
変化する姿はスライムそのものだが、しばらくするとそこにはファントムドッグとは似ても似つかない虎のような獣がいた。
……確かに攻略本で見た絵と同じ見た目だが、ちょっとでかくない?
てっきりあの犬と同じ大きさかと思っていたのに。
「こいつが……暗殺獣か」
「ああ……間違いない、と思う。ここまで大きいとは予想外だったけど」
「ふぅ、今魔法を解除したよ。持続型の広域魔法は、消費も大きくて疲れるのが難点だね」
……俺は何も聞いていない。
銀貨の袋を思わず確認しそうになったが、悪い結果しか待っていないので後回しだ。
それにしても、こんなにでかいと邪魔だな。人間状態でなければ、俺のダガーで仕留めるのは不可能だったと思う。
猛毒も効果を発揮するまで、どれだけ時間がかかるのやら。
そういや、どうやって買い取りをしてもらうんだ?
「こいつはどうするんだ? 仕留めたのはお前さんだ。」
「俺はお金が欲しい。買い取ってくれると有り難いんだが……」
「すまんな、こいつはこの村じゃ価値がわからん。冒険者ギルドにでも持ち込めば大丈夫だろうが……」
「ちなみに、運搬は?」
「知らん」
ですよね。
仕方ない、ここはお金さえ払えばなんでもやってくれる便利屋に頼むか。
「メフィさんや。これをあの容量空間に仕舞うことは可能かい?」
「出来るけど、あの荷物と同じ場所で良いのかい? そのまま入れるとなると、腐敗した臭いや体毛などが荷物に付着するかもしれないよ」
「うっ、それは勘弁してもらいたいな……生き物や食べ物の場合、腐らないように分けるとかは出来ないのか?」
「時間凍結の容量空間だね。その場合、一回あたり銀貨10枚貰おうか」
「さすが上位空間。お値段も二倍ときたか」
元々は容量空間なんか使えると思わなかったんだ。
多用はできないが、今回の場合は助かったな。
「じゃあ、よろしく頼むよ。ちなみに村長さんをBランク冒険者だと思って聞くが……暗殺獣の買い取りはいくらくらいが相場ですかね?」
「わからんな。俺も冒険者をやっていたが、そんな名前は聞いたことがねぇ。倒したという報告がない以上、買い取りにも難儀するだろう」
仮にも危険度大の魔物だ。金貨くらいの報酬は出ないと旨味はない。
まあこんなに大きい獣なんだ。少なくとも、今回使用した金額分は取り戻せそうで安心した。
いつかと同じように空間が開かれると、俺は暗殺獣を……入れようとして断念する。大きさがある分、重量も相当なものらしい。
仕方なくメフィに頼み、床から吸い込むような形で収納してもらう。
空間ごと移動させられるというので助かったが、もしこれが一回閉じて新しくとか言われたら、危うく銀貨10枚を無駄にするところだった。
「しっかし、そこの彼女はすげぇな。容量空間まで持っているとは……さっきから驚かされてばかりだ」
「それは……こんな風にかい?」
「うぉう! あっ、ご、ごめんなさいごめんなさいごめ……ぐほぉ!」
「うるさい!」
メフィがまた身体をすり抜けてみせると、案の定村長が壊れる。
このやり取りにも慣れたものだ……しかし、今回は俺が止めるよりも早く、ベッドの上から村長の顔に停止がかけられた。
なるほど……いい右ストレートだ。
あの調子なら、右腕も完全に治っていることだろう。
「レ、レイナ……よかった! 心配したんだぞ!」
「ごめんねエリナ……私も、あのときは死ぬかと思ったんだよ」
「レイナさん! あぁ、よかった! 僕のせいで……っ!」
「リュー! 無事だったのね。よかった、怪我はないかな?」
「はい! そこのお二人が助けてくれたんです! レイナさんの治療も、あの女の人がしてくれたんですよ!」
その言葉に、メフィは軽く向き直って小さく一礼する。
それを見てか、隣でエリナが悔しそうにしていたが……治したのは間違いなくメフィだ。努力は認めるが、子供って残酷だね。
「そうでしたか……その節は、ありがとうございました。それで、その……あの魔物は、どうなりましたか?」
「さっきこいつが倒したよ。レイナもまさか、ラルフに襲われるとは災難だったな」
そういって、バシバシと怪我人の肩を叩くエリナ。
レイナに怒られつつも、お互い笑いながら話しているが、何か引っかかるな。
「レイナさんと言ったか。起きたばかりで悪いが、襲われた時のことを聞きたい。に襲われたってことで間違いないか?」
「はい……あれは多分、ファントムドッグという魔物でした。単体での活動は聞いたことがありませんでしたが……あの強さなら納得できます」
「二人ともソイツにやられたのか?」
「二人とも……そういえば、ラルフさんはどうなりましたか!」
今気づいたといったように周囲を見渡すが、横にあるのは空っぽになったベッドだけだ。
そういえば、本物のラルフはどこにいるんだ?




