ヤシロ様の正体?
どうしてあんなものが?
いや、蓋を開けてみたい。もしかしたら、何かアイテムが入っているかもしれない……まさか腐ったお米ではないよな?
「一応確認するが、触っちゃダメなの?」
「絶対にダメです!」
「……どうしても?」
「……村長様の許可が出れば、大丈夫だと思います」
しかし、ヤシロ様の御神体というから興味本位だったが……まさかそう来るとはな。
この蓋の中にヤシロ様でも封印されているのだろうか?
蓋を開けると、中からホカホカのヤシロ様が……さすがにないか。
ここで無理やり中身を見てもいいが、もしあれがパンドラの箱なら、責任は取り切れない。
仮にも御神体だが、神様が出てくる可能性があれば、中から悪魔が出てくる可能性だってあるんだ。
取り憑く悪魔は一人で十分に間に合っている。
これはますます村へいく必要が出てきたな……ヤシロ様の正体というのは、一体何なのか。
「ちなみに、ヤシロ様は勇者と何か関係しているか?」
「勇者様とですか? わかりません……勇者様が僕の村に来ることすら珍しいので…………まさかヨーヘイさんはっ!」
「俺は勇者じゃないぞ」
何か期待されてしまっていたが、俺も残念なことに勇者ではないんだ。
魔王にまで挑んだ勇者に直接言われたんだ。
間違えようのない事実だろう。
しかしそうか。
リョウタがこの日本語を読めないってことは、勇者たちも日本語を読めないんだろうな……この『炊飯』という文字も、俺しかわからないのか。
なんというか、胸が熱くなるな。
「結局、ヤシロ様というのも謎だらけだな……」
「あの……村長様なら何か知っているかと」
「ああ、そうだった。村へ向かうぞ」
「そ、そうでした! 早く行かないと村の皆が!」
「それはいいから、村へ案内してくれ」
俺らはまず、ここら辺に村があることすら知らなかったんだ。
……いや、メフィは知っていたかもしれないが、せっかく村人がいるんだ。
ここは専門家に任せよう。
それに、あの獣から逃げる際に、随分と道から外れてしまっていたから元の道がわからない。
村にさえ着けば、少なくともローリアの街へ行く方向は教えてもらえるだろう……あわよくば地図が欲しいけどな。
先頭を走るリューの魔法で、周囲を照らしつつ道の悪い森を走り抜ける。
さすが村人というべきか、先導する子供は慣れたモノらしいが、俺にとってこの道を走るのはキツイ。
何度か躓いたり転びそうになったが、その度にメフィがニヤニヤとした顔でこっちを見てくる。
……浮いている奴は楽でいいよな。
これは意地でも転んでやるもんか!
……宣言も虚しく、二回ほど派手に転んだところで、ようやくリューが立ち止まってくれた。
メフィに至ってはこちらを向かないが、肩が震えているところを見るに、笑いを我慢しているだけだろう。
「ヨーヘイさん……」
「その、俺だってな。こんな道だとは思ってなくて」
「ここです」
「着いたのか?」
「いえ……この場所で、僕たちは襲われたんです」
そこには、森の一角だけ荒らされたような跡が残っていた。
そこら中に枝が散らばっていたり、木が何本か折れているところを見ると、戦闘があったというのは疑いようがない。
これは……斬り傷か。向こうの燃えたように見える跡は魔法か? 火事にでもなったらどうするつもりだったんだ。
「これは誰かが火の魔法を使った跡だね……安心しなよマスター、水魔法の使い手がいる限り火事にはならないよ」
「そ、そうか」
こいつ、心を読みやがったな!
自身が使えないからか、魔法という概念に未だ慣れないな。
メフィもそれを見越して教えてくれたのかもしれない。
「おいリューよ。お前の言う仲間って、剣の使い手と、火と水魔法の使い手で合っているか?」
「いえ……レイナさんは当てはまらないですが、ラルフさんが剣も水の魔法も使えました……」
「あれ、火の魔法を使える人はいなかったのか?」
「え? あ、そうですね……僕以外では誰も……」
そうなると、ここには火の魔法を使う第三者がいたわけか。
いや、魔物か? それにしても、火の魔法か。
「念のために聞いておくが、リューは使っていないんだよな?」
「僕はあの獣を見てから、すぐに逃げてきましたので……戦闘があったということも、この光景を見て理解しました」
「わかった。とりあえず村へ向かうか」
ふとメフィのほうを観察すると、どうやら向こうも引っかかる点があるらしい。
まだこの段階では仮設でしか無いが、懸念材料は多い。
とりあえず、今は村へと急ぐか。
それから数十分は走っただろうか。
あれからリューにスピードを落とすように頼んだが、いつの間にか最初のスピードに戻っていた。
対する俺も、隣で浮いてる存在は完全に無視をし、何回転んでも躓いても、必死に小さな身体を追いかけていった。
……何回も吹き出すような声が聞こえたが気のせいだ。村の安否がかかっている時に、そんなこと気にしてられるか!
そうこうしているうちに、ようやく森を抜けたらしい。
ああ、平坦な道というのがこんなに歩きやすいなんて。何故だろう、涙が溢れてくる。
つまんなくたっていいじゃない、だって平坦なんだもの。
「ヨーヘイさん! 僕の村まではあともう少しです! もうすぐ見えて……見えました! あの場所です!」
「はぁ……はぁ……ちょ、待って……」
子供は元気一杯だな。
村が見えてくれば、もう道案内を頼む必要はない。
俺は先行するリューは放っておいて、その場で少し休憩をとる。
「さて、水は何処に仕舞ったかな……」
「なんだい、水ならボクが魔法でいくらでも」
「金を使わないならな!」
全く、油断も隙もあったもんじゃない。
しかし、今ならリューもいない。あの事を話すにはちょうどいいか。
「……あの場所で、メフィも気づいたか?」
「ああ、戦闘があった事に間違いはないが、あれは何者かが手を加えているようだね。どうやら、一筋縄ではいかないようだよ」
「やっぱりそうだよな……あの村に、そいつも潜んでいるのかな?」
「どちらにせよ、マスターはあの村に行くのだろう? 安心しなよ、このボクが付いている」
「……頼もしいな」
一番の問題は、あの場所で火の魔法が使われたことだ。
まず、リューは人間だ。
これはメフィのお墨付きなので間違いないと思う。
それに、泣きながら助けを求めてきた人間が、あの戦闘跡を見せておいて嘘をついているとは考えにくい。
そして、あの暗殺獣も火の魔法は使えない。
リューには伝えていないが、メフィと共有している攻略本の情報だ。
つまり、あの場所で起こった戦闘で火は使われていない。
そして最後に。
ラルフと言われるものが水魔法を使うなら、先程の燃えたような跡は何故……無理やり燃やしたような感じになっていたんだ?
火を消すために水を掛けるならわかる。
しかし、さっき見た燃え跡は、濡れている箇所に火をつけ、すぐに消火したような跡に見えた。
元々濡れているので、ほとんど燃えずに意味のない行為だが……誰が? 何のために?
レイナとラルフという目撃者がいれば、意味のない行為だ。
二人とも火の魔法は使えないのだから。
もしそれでも、暗殺獣が火を使うというアピールがしたいのなら……偽造したやつは、何を考えているんだ?
どちらにせよ、ここまで来たんだ。あの村とは無関係なままサヨナラはできないだろう。
色々と不安要素はあるが、いまは村の入口で待ってくれているリューの元へ、ゆっくりと歩いていくことにした。
「ヨーヘイさん! 早く来てください! お兄さんも村長に話があるんでしょ!」
「……ごめんなさい」
遠くから聞こえた声に、先程と同じように走って村へ向かった。
疑問には軌道修正を入れました。




