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自称悪魔と付属品 ~魔力なしの異世界攻略法~  作者: ひのる
第二章 ヤシロ様の村
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パン騒動

 街から出て、そのまま南へと向かう。

 門番の話では、この道を進んでいけば、ローリアの街まで続いているらしい。

 ただ、徒歩と伝えたときにされた門番の反応が気になるが……こんなことなら、地図か何か探しておくべきだったか。

 まさか攻略本にマップが載ってないとは予想外だったからな。


「ところで、メフィは一回『本』に戻ったりしなくても大丈夫なのか?」

「!! マスターはそんなにボクにいなくなって欲しいのかな……」

「い、いや! 魔力補填とか、必要ないのかなと思ってだな! 単にメフィのことを心配しているんだよ!」

「嬉しいことを言ってくれるね。ボクが姿を現すのは、ただの好奇心からさ。対価も何もいらない、大丈夫だよ」


 ということは、これってメフィがその気になれば、魔法も対価ナシで使えるんじゃないか?

 いや、メフィの存在固定法が魔法と決まったわけじゃない。下手にヘソを曲げられるよりは、このままでいいか。


「このまま街へ行くみたいだが、あとどれくらいかかるんだい? ボクとしては、マスターの手持ちと体力が心配になるよ」

「そうだな。何処かで手っ取り早く稼げるといいんだが」


 ギルド登録というものを行なわなければ、いくら強力な魔物を倒しても報酬が半減するらしい。

 正確には、素材分の買取金額は貰えるものの、魔物を倒してもギルドは無関係ですよ、ということだ。


 どちらにせよ脅威が去ったというなら、報酬を全額渡しても良さそうなもんだが……それじゃギルドの運営もやっていけないのだろう。

 経営するというのは大変だな。




 大体二時間ほど歩いたところで、休憩にちょうどいい大木があった。

 時間的にはそろそろ昼時といったところなので、今のうちに休んでおくか。


「ちょっとここで休ませてくれ」

「了解。見張りは任せてよ」


 街を出てからというもの、まだ魔物というものに遭遇していないが、ここら辺に出現する魔物は中々の強さらしい。

 依頼も何も受けてないなら相手にする必要もないが、売れる素材の魔物がいないか、少し攻略本で調べてみるか。


 ここはベルルクの街の周辺だから……生息地から調べて……チッ、こういうとき逆引きができないと不便だな。

 一覧からいちいち探すのは面倒だ。


 そんな感じで魔物データを見ていると、少し気になる魔物を見つけた。


「メフィ、ちょっとこっちに来てくれ。聞きたいことがある」

「ん? どうしたんだいマスター、まさかボクに食べさせて欲しいというお願いかい?」


 なぜかキラキラした顔でこっちに寄ってくるが、そうじゃない。

 それとも、お願いしたら本当に食べさせてくれるのだろうか……ゴクリ。


「あー……うーん……そ、そうだな! いまちょっとページを捲るのに忙しいから、このパンを食べさせてくれるか?」

「まったく、仕方ないね。ほら、口を開けなよ。あーん」


 まさか本当にやってくれるとは思わなかったので、少し驚きながらも言われたとおりにする。

 ……なんか、急に恥ずかしくなってきたな。攻略本に視線を注いでいるが、内容が全く頭に入ってこない。

 俺は口を開けたまま、メフィが差し出すパンを今か今かと待って……待っているが、さすがに遅くない?


 いつまでも有りつけない食事に、ふと疑問に思って目線を上げると、メフィの手にはパンが半分しか残されていなかった。


「んむっ……このパンも宿で食べたモノに比べると味は劣るが……はむっ……別に悪くはないね。さすが旅の常備食だ」

「俺のパンが!」

「ふむ……いや、マスターのために毒味してあげたのさ。このパンに毒はないよ、安心していい」

「そもそも、飯は要らないって言ってなかったか?」

「確かに必要ないさ。しかし、目の前に用意されて、ボクの好奇心を我慢しろというほうが無理なお願いさ」


 さすが悪魔。

 期待を裏切ったり、やることはちゃんとやってくれるじゃないの。


「ボクが味見した結果、大丈夫だと判明したんだ。ほら、口を開けてくれマスター……あーん」

「うっ、でもこれはさすがに……」


 そういって差し出される、半分のパン。

 逆に言えば、メフィが食べた後に残った部分とも言える。

 半分に割ったわけでもなく、食べかけ……つまり、間接的にアレだ。


「でもこれは……いや、俺のメシだ。じゃあ、食べさせてくれ……あ、あーん」

「残念だけどマスター、時間切れのようだ」


 急に離れていったメフィを追って視線を上げると、そこには黒い毛並みをした野犬のような獣が複数いた……あれ、もしかして囲まれている?


「マスターはその『本』から手を離して。抱えていると、自動防御オートガードが発動しない可能性があるからね」

「そうか、俺の意思が優先されるんだな」


 持っていた攻略本を地面に置くと同時に、あらかじめ腰に刺していたヴェノムダガーを構える。

 ゴードンの薦めで腰ベルトを買っておいてよかったぜ! 

 ちなみに初期武器のノーマルダガーは、予備武器として鞘ごとリュックに括り付けた。


「一応聞くけど、魔法の使用許可は貰えるのかな?」

「……いや、ここは俺だけでいい。たかが犬相手に、無駄金を使うこともないしな」


 群れているので多少の脅威だろうが、見た目も大きさもただの犬だ。

 このヴェノムダガーで毒状態にして逃げ回っていれば、いつかは勝手に力尽きてくれるだろう。


 動くなら、向こうが様子を伺っている今がチャンスだ!




「注意したほうがいい。あの獣はファントムドッグといって……」

「っ! おらぁ!」


 何かメフィが言っていたが、こういうのは先手必勝だ。

 初めての野良戦闘なんだ。ここで躓いてたら、旅なんかしていられない。


 一番攻撃しやすい真正面へいた犬へ斬りつけると、確かに手応えがあった。

 よし、まずは一匹……


 って、消えた?

 おかしいな……確かに手応えはあったんだが。まさか今の一撃で倒したのか?

 だとすると、このヴェノムダガーというのは相当攻撃力が高いらしいな。


「まだだ! ファントムドッグが二体……来るよマスター!」

「っ!! うおっ、あぶねっ!」


 正確には手遅れだったが、そこは俺の攻略本が代わりに攻撃を受けてくれた。

 思いっきり爪で引っかかれた気がしたが、本には傷一つついていない。

 さすが俺の能力だ。


「なんだこいつら、瞬間移動でも使えるのか!」

「その獣はファントムドッグだよ。少ない個体で、数を多く見せて相手を威圧するんだ。敵は十匹ほどに見えるが、実際は三匹といったところだね」

「つまり、どういうことだ?」

「当たりを攻撃しなければキリがない、ということさ。ちなみに分身体にも攻撃判定はあるらしいよ」

「攻撃判定があるなら、もうそれ威圧じゃねぇだろ!」


 ということは、さっき消えたやつは分身体だったのか。

 どれが本物か見分けなければ倒せないうえに、分身体からもダメージをくらうとか……初っ端から強敵じゃないかよ。

 それにしても……なんでこいつ、攻撃判定なんて言葉知っているんだ?


「こういうのはまとめてぶっ放したほうがいいんだよ。マスター、魔法の使用許可をくれないかい?」

「いつからそんな脳筋になったんだよ! それは最後の手段にしてくれ!」


 にしてもだ。

 実際問題、分身体と本体の合わせて十匹に襲われる状態なら……どう回避するべきだ。

 攻撃さえ当てれば勝てる。

 初っ端から複数との戦闘なんて予想外だぞ。


「確認するが、こいつらは一匹から分身は二つしか出ないのか?」

「亜種になれば、数十匹出せる個体もいるようだけど……ここにいるのは通常種だからね。本体は三匹さ」

「……わかった。なら!」


 さっきのやり取りでわかったことは、攻撃を当てたのが分身の場合、一瞬だけ消える。もっとも、本体が要る限りすぐに復活するが。

 なら、やることは同時攻撃だ。


 襲ってくるファントムドッグから多少距離を取り、二匹が固まるように誘導する。

 そして……奴らが飛びかかってくるタイミングで、何度か守ってくれた攻略本を片手に持ち、アンダースローで投げつける!


「ちょ、ボ、ボクの本が!」

「っ! シャァア! こいつは消えないってことは、当たりかッ!」


 攻略本を当てた個体はハズレだったみたいだが、ヴェノムダガーで斬りつけた方は、血を流したままこちらを睨みつけている。


 消えたはずの分身体がその隙に襲ってきたが、そこは安心の自動防御オートガードだ。

 いくら飛ばしても瞬間移動して守ってくれる。心強いね。


 さて、傷ついた個体は毒が効くまで待つとして、残りは二匹か……おや、メフィさんが口を開けたまま固まっているぞ?


「おーい、いくら自称・悪魔でも、獣に襲われて負傷するような真似はしないでくれよー」

「……ハッ! ま、ますたー? 一応聞くけど、今の攻撃は……」

「ん? 攻略本を投げつけただけだけど?」

「ちょ、ボクの本体を乱暴に扱わないでよ!」


 どうやら俺の攻撃(物理)が相当不満だったらしい。

 一応奥の手として持っておきたいので、ここは説得するか。


「といってもな。打撃にちょうどいい重量で頑丈。しかも、俺の傍に一瞬で戻ってきてくれるんだ。何も放ったままというわけでもない」

「いや、そうだけど……」

「それにな、俺一人だとどうしても手数が足りないんだ。わかってくれ」

「なら、ボクが魔法で!」

「対価がないときはどうする?」

「うっ……それは、そうだね……」


 俺の方も、いつでも対価を用意できるわけじゃない。

 対価さえあれば、ほぼ無敵と思われるメフィだが、そこら辺の事情も分かってくれたようで何よりだ。


 メフィと会話しているうちにも奴らは襲い掛かってきてたが、そこの対処は頼れる攻略本に任せてある。

 もっとも、複数攻撃は防げないようなので、予備のダガーも使った二刀流で応戦していたが。


「血を流している個体はまだ二匹か。そもそも、あれが普通のダガーでの傷なら一匹しか倒れないな」


 あとの隠れた個体をどうするか考えていると、奴らの一匹が伏せるように倒れた。どうやら猛毒の効果で力尽きたみたいだな。


 一匹が倒れると同時に、ファントムドッグも二匹消滅した。


「よし、あと七匹だ! 本体が二匹なら、せめて二手に分かれくれるとわかりやすいんだが……」


 いくら分身体といっても、さすがに本体と別々の行動は取らないだろう。

 これが半分に分かれてくれると有り難いんだが。


「おや、分割作戦かい? 囮ならボクに任せてくれ」

「大丈夫なのか?」

「何、簡単なことさ。これを向こうのほうへ投げれば……」


 メフィが何か投げた途端、それに追従するようにして四匹の獣が離れていった。

 よし、手負いの個体も向こうへいったみたいだ。

 今のは魔法……ではないよな。


「さすが獣だね。食べ物を使うと思い通りに操れるよ」

「……俺のパンが!」


 チクショウ。あいつら俺の食事を邪魔したうえに、メフィの食べかけを……いや、まだチャンスはあるはずだ。

 今はこの怒りを、目の前の犬っころで発散せねば。


「俺のアンダースローを……舐めるなぁ!」

「ギャウッ!」


 怒りのままに振りかぶった攻略本は、見事に二匹へヒットした。

 片方が消えなかったところを見ると……アイツが本体か!


「っ! これで終わりだ!」


 分身体から攻撃を受ける前に、すぐにヴェノムダガーのほうで突き刺す。

 斬りつける攻撃と違って隙は多いが、怒りをぶつけるからにはこうしないと気が済まない。


 すぐに分身体が襲ってくると思い身構えていたが、どうやら突き刺した一撃で勝負は着いたみたいだな。

 いつのまにか分身は消滅し、突き刺した個体もグッタリとしている。

 残り一匹! パンの恨みだ!


 ……そう思い、離れていった奴らのほうへ顔を向けたが、ちょうど一匹が倒れるところを目撃した。

 それと同時に、近くにいた二匹も消滅する。


「どうやら向こうにいったファントムドッグも、ヴェノムダガーのほうの傷だったみたいだね」

「……パンに毒が入ってたわけじゃ、ないよな?」

「フフッ」


 そこで誤魔化すなよ。

 毒味した結果、アウトだったから食べさせなかった……とか、まさかな。


 さて、倒した奴らの素材でも回収するか……と思ったところで、そいつの存在に気がついた。


「なあ、ファントムドッグて分身を二匹出すんだろ?」

「そうだね。マスターはこれで本体を三匹倒した。十匹いたあの獣は全滅……おや、数が合わないね」

「……てことは、あの犬は……」

「おっと、マスター……今すぐ荷物をまとめるんだ。そうか、あいつは擬態して群れに混ざっていたのか……」

「あいつは何だ?」

「説明は後でするよ。さあ、走って!」


 ……なんだかメフィに急かされるまま荷物をまとめたが、逃げる途中に思ったのは、あとで素材回収できるかな……といったお金の心配だった。

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