マスターという助手
宿泊は昼までだったが、受付へ挨拶もそこそこに撤退する。
多分、従業員さんも部屋を見たら察してくれるんじゃないかな……俺が起こした修羅場だと思われるのは心外だが。
そのまま街の出口へ……とは行かず、目的地は一つだ。
「ところでマスター、街の外に出ると言っていなかったかい?」
「あのハゲにガツンといってからな」
あいつが奢るとか言っておきながら、俺の取り分から払わされたんだ。
悪魔相手には歯が立たなかったくせに、こういう時ちゃっかりしているとは、さすが店主と言わざるを得ない。
……あわよくば、お金を貰おうと思っているわけじゃない。
「そういや今から旅に出るわけだが、メフィが必要なものって何かあるか?」
「ボクかい? 別にボクは、食べなくても寝なくても平気だよ。マスターが親しみやすいように肉体を作っているけど、本来はその『本』の中さ」
「じゃあ攻略本でメフィが載っているか探してみるか……て、名前がわからないんじゃ探しようもないか」
メフィストという名前も俺が付けた名前だ。イラストだけで探すといっても、本来の姿かどうかも不明だとな。
知っている姿がないか、パラ見したときは見つからなかったが……代わりに魔王だと名乗る中二病の情報なら見つかった。
「そういや、メフィの分の武器や防具とかはいるか?」
「似たようなものを構成することはできるけど、ほとんどの魔法を網羅しているというのに、道具に頼る必要性を感じないね」
要するに、対価がなければ何も手伝ってくれないのか。
くっ、あまりお金を使わない為にも、戦闘は一人で行うと考えたほうが良さそうだな。
「じゃあ髪飾りなどのアクセサリーも無駄になるか……」
「!! それは、その……貰えるなら、嬉しいけど……せっかく貰ってもボクが送還されると……いや、一緒に送還するためには物質変換の…………」
「着いたぞ」
宿からこの場所まではそこまで遠くない。
雑貨類が新たに必要ないというなら、ものの数分程度で到着するというわけだ。
何やらブツブツと言っているメフィは置いといて、店の扉を開く。
さあ、ガツンといってやるぜ!
「おいゴードンの旦那さんよ! あの討伐報酬なんだがな……」
「おお、あんちゃんじゃねぇか! ちょうど良かったぜ。昨日はロクに礼もできなかったからな! 今から旅立つんだろ? よかったらこれも持っていけよ! 俺が冒険していたころに使っていた旅用品だ!」
そういうと、あらかじめ準備してあったのか、カウンターの下からドン! と荷物の塊が出てきた。大きさは、俺の持っているリュックの二倍はあるだろうか……貰えるのは有り難いが、どうやって運べと?
「でか! いや……そうじゃなくて、あのとき酒場で……」
「いやー、昨日準備しておいて良かったぜ。あんちゃんなら、旅立つ前の挨拶に来るだろうと思っていたからな。ハハハ!」
「ああ、色々とお世話になったからな……そういや、悪魔の討伐報酬の……」
「あと、コレとソレと、ついでにソイツも持っていけよ! なぁに、お代は要らねぇさ。なんたって街を救ってもらったしな!」
「お、おう……」
あれよあれよという間に、カウンターへ道具がどんどん積み上げられていく。
いや、こんなに持てないしな…………そうだ。
「そういや、この街の武器屋ってここしかないのか?」
「いや、他にあともう一軒あるが……なんだ、今になって俺の店じゃ不満だとか言うのか? おおん!」
「ちょ、違うって! 落ち着いてくれ。この街の武器屋に『ヴェノムダガー』て武器が売ってないかと思ってな」
昨日、酒場で初めて聞いたが、この街はベルルクの街と言うらしい。
何気なく攻略本を見ていたときに、先程の『ヴェノムダガー』がこの街の入手となっていたので、もしかしたらと思ったのだが。
「そいつは俺の店に置いてあるが、あいにくと非売品でな……あんちゃん、どこでその情報を手に入れた?」
「ちょっと、俺の能力というか、連れからの情報でね」
その時、ちょうどメフィが店に入ってきたので、入り口を軽く指差す。
扉が開いていない事を見るに、どうやらすり抜けてきたらしいな。そんな芸当もできるのか。
「……いや、そういや浮いてる嬢ちゃんは悪魔って言っていたな。なるほど、そういうことか」
「ああ、そういうことなので、その武器を売って貰いたいんだが」
勝手に納得してくれるなら好都合だ。
毒系統の武器でも、一位二位を争うほどの猛毒効果を誇るSレア武器、それが『ヴェノムダガー』らしい。
この世界では、レア度によって武器の等級が分かれている。
流通している店売りのコモン、その中でも品質の良いレア武器。特殊効果のあるSレア級の武器と、一品モノで最上級のSSレア武器。
店でSレア級の武器が売られていることは滅多にない。
なので非売品ということも納得だ。
そもそも『ヴェノムダガー』という武器が欲しいのは、攻撃を一撃でも与えれば、あとは防御だけで敵を倒せると思ったからだ。
あまり魔法に頼れないとなると、ヒットアンドアウェイ戦法が自動防御と相性が良さそうだ。
その為にも、毒効果がある武器は是非とも手に入れたい。
「残念だが売ることはできない。ちと曰く付きの品なんでな……使い手が何人も死んでいるんだ」
「何それ怖い。呪いでもかかっているのか?」
「それが、わかんねぇんだ。どうしようもないっつうから、俺のところで厳重に保管してあるが……こっちとしても扱いに困っていてな」
「その武器、少しボクに見せてもらえないかな? 何、ボクは毒にならないし、マスターも自動防御さえ使えば……いや、毒は防げないな」
え、自動防御って状態異常は防げないの?
衝撃の事実が判明したが、確かにメフィが見る分には問題ないだろう。
なんたって自称・悪魔だ。これで毒状態でポックリいくとか、さすがにないだろう…………ないよな?
「……いいだろう。ただし、見せるだけだ。とくにあんちゃんは絶対に触るなよ。死んでもいいっつうなら止めないが」
「いや、俺は離れておくから、メフィに全て任せるよ」
俺だって死ぬのは怖い。
最初の街で、何回即死イベントを経験すればいいんだよ。
ゴードンが武器を用意する間に、何気なく展示してある武器を眺めるが……武器も防具も、メフィに合いそうなモノは見つからない。
悪魔的には、弓とか鎌みたいな武器が合いそうだけどな……本人が要らないと言っているなら、無理強いする必要もないか。
そもそも、置いてある武器のセンスが悪いんじゃない?
男らしいというか、どうみてもガタイの良い男用の武器しか置いてない。
もしかして男性用、女性用で武器屋が分かれているんだろうか?
そんなことを考えて時間を潰していると、いかにも『高級品が入ってますよー』という木箱を手にゴードンが戻ってきた。
「待たせたな……もう一度言うが、絶対に触るなよ」
「オーケーオーケー……メフィ、頼んだよ」
メフィは箱の中身に興味津々のようだが、俺はいつでも逃げ出せるように、店の入口前で待機する。
いきなり毒の霧とか発生したら怖いしな……臆病なのが長生きするコツだ。
ゴードンが焦らすようにゆっくりと蓋を開けると、そこには攻略本の絵と同じ武器が仕舞ってあった。
見た感じ、あれが『ヴェノムダガー』なのは間違いないな。
「……なんだ、そういうことか。マスター、こっちに来てくれ」
「ちょ、安全なんだろうな!」
「この状態なら、何の問題もないさ」
「お、おい! 嬢ちゃんには、この武器の呪いがわかるのか!」
「ボクを誰だと思っているんだい? ただ単に、呪いが絡まりすぎている。だから原因不明として、今まで仕舞われていたんだろうね」
さも当然のように言い放つメフィに、俺とゴードンは顔を見合わせる。
まあいい。メフィがわかるというなら、あとは交渉するだけだ。
「ゴードンさんよ。もし、この武器……呪いが解除できるなら、俺が使ってもいいか? 本当に安全になったのか、実証する必要があるだろ?」
「でも……もし失敗だった場合は死ぬぞ? あんちゃんの遺品としてこれを受け取るのは……」
「俺はメフィを信用している。出来るっていうなら、任せるだけさ」
「……マスター!! よし、それじゃあ期待に答えるとしよう。対価として銀貨10枚ほど貰えるかな?」
やっぱり対価を取るのか。
まあいい。銀貨10枚でこの武器が買えると考えれば安い出費だ。
メフィのお手並み拝見と行きましょうか。
「此の武器に集う怨念よ、剣に宿る精霊よ、我に従い、解放されたし……――ディズィンカーント…………うん、終わったよ」
メフィが何か呪文を唱え、ものの数秒で事が済んだらしい。
失敗したのかと少し疑ったが、用意していた銀貨10枚が無くなっていることを考えると、宣言通りにすぐ終わったのだろう。
「もう終わりか? なんか呆気ないな」
「これは確かに複雑な呪いだけど、このボクが苦戦する程ではないしね。それともマスターは、呪われるほうが好みかい?」
「そんな危険な真似はしないわ……さて、ゴードンの旦那。じゃあこの武器は借りていってもいいか?」
「ああ。その……本当に、大丈夫なのか? その武器はこの街以外でも、幾つもの教会で見てもらってんだ。それでも解呪できなかったからこうして仕舞ってあったんだが……」
まあ、それくらいは試してますよね。
単純に見た人物のレベルが低いのか、それともメフィが凄すぎるだけなのか。
未だにこの自称・悪魔には謎が多いが、仕事は信用できる。
俺も対価を払っているんだ、これで失敗なら無駄金だぞ。
「それはこれから、俺が身を持って証明してやるよ」
「……ああ、そうか! じゃあ、その武器はあんちゃんに託そうか! 元々売り物じゃないんだ、そのまま持っていけ!」
「てことは、このまま貰っていいのか?」
「ちげぇよ! あんちゃんが死ぬまで貸すんだよ! だから、それまで売ったり無くしたりするなよ?」
つまり、永久的に借りて良いってことか。
さすが呪われた武器。デメリットさえ消えれば、ただの強力な武器だな。
「実はそいつの他にも呪われた武器が……っと、これ以上はさすがのアンちゃんも持てないか」
カウンターには、既に山のように積まれた荷物がある。
主に旅の雑貨用品だか、この前壊れたラウンドシールドみたいな盾や、どこにでもあるような安価な長剣といった武器もちらほらと積まれている。
「……既にここにある荷物も、運ぶのはキツイな」
「そういや、あんちゃんは勇者様とは違って容量空間が無いんだったな……せっかく用意したんたが、片付けるか」
ちらっと見るに、どれも有用そうな道具だったが、運べなければただのお荷物だ。
旅というのは、最低限の装備で身軽なのが一番。その結果、多少不便になろうと仕方ないだろう。
「マスター、なんならボクが収納しておこうか?」
「「え?」」
いまこの悪魔は何と言った?
もしかして俺が持っていない容量空間でも使えるのか。もうこいつ、悪魔じゃなくて勇者でいいんじゃない?
「ボクに掛かれば、銀貨5枚で荷物を出し入れできるさ」
「コインロッカーかよ」
しかも一回5000円て。入れて後から取り出すだけで10000円もかかるコインロッカーとか誰が使うんだ。
……いや、頼るしかないんだけどさ。チクショウ! 足元見やがって!
「安心しなよ。空間を繋げるのに必要な対価さ。もっとも、繋ぎっぱなしというわけには行かないけどね」
「やっぱりそんなズルはできませんよね……」
「……まあ、なんだ。運ぶのが苦じゃなければ、呪われたままの武器と防具をあと三つほど貰って欲しいんだが」
こうなったら毒を喰らわば皿まで、だ。
いつか使うときがあるかもしれないので、とりあえずこのコインロッカーにつっこんで置こう。ゴードンから貰ったものは、全部この中でいっか。
空間を繋ぐ延長料金が取られるかは知らないが、カウンターに積み上げられたものを、素早くメフィの作った空間に放り込んでいく。
槍や斧といった一般的な武器から、鞭やタライみたいなものや、何に使うかわからない仏像みたいなものもあったが、どうせタダなんだ。貰えるものは全部つっこんでおこう。
「……俺が言うのもなんだが、すげぇ嬢ちゃんだな」
「だろ? 自慢の相棒さ」
「またまた、マスターも嬉しいことを言ってくれるね」
さて、すぐ店を出るつもりが、思わぬ長居をしてしまった。
思った以上の収穫があったことだし、そろそろ出発か。
「色々とありがとな。世話になった……そろそろ行くよ」
「おう! あんちゃん……死ぬなよ?」
「まあ、相棒がいる限りは大丈夫さ」
「安心しなよ。その『本』と共にある限り、ボクはマスターと一蓮托生さ」
「ハハハ! そうか……じゃあ、達者でな!」
「じゃあなー」
この世界でも、ゴードンみたいな人間と知り合えたのは運が良かった。
みんなの兄貴分な存在だけあるぜ。
門番と軽く会話し、ようやく街の外へ出た時、ふとメフィが思い出したように話しかけてきた。
「そういや、あれだけしてもらった恩人に、ガツンと言えたのかい?」
「あっ……」
「マスター……」
いつかまた、この街に戻ってこよう。
街から出たときに思ったのは、そんな感傷だった。




