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自称悪魔と付属品 ~魔力なしの異世界攻略法~  作者: ひのる
第一章 悪魔の潜む街
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笑ってはいけない試練

 酒場の喧騒もいつも通りに戻ったと思われる頃、ようやくリアンが再起動したらしい。

 先ほどとは打って変わって賑やかな場に混乱しているようだが、今のうちに料理を薦めておくか。


「ほら、まずは食べようぜ。このおっちゃんの奢りなんだ。次々と運ばれてくるし、この際いろんな料理を楽しもうぜ」

「あ、あの、それよりそちらの女性……」

「ほ、ほら、嬢ちゃん! これもオススメだぞ! なーに、今日は俺の奢りだ、ドンドン食べな!」

「は、はぁ……」


 ナイスおっちゃん!

 と思い横を見ると、クイッと親指を上に立ててくれた。いわゆるサムズアップだ。すかさず俺も同じサインを返す。


 それを見てか、他のテーブルの連中も察してくれたらしい。

 俺のテーブルには、リアンが何かを食べ終わるたび、


『これもオススメだぜ! 一回食べてみるといい!』

『今日のオススメだってさ! 俺も食べたけどすげぇ美味い!』

『これにはこっちの料理が合うぜ!』

『……こいつはサービスだ。なぁに、お代は要らねぇぜ』


 といったように、絶え間なく料理が運ばれてきた。

 食べきれないなら断ればいいものを、リアンは薦められたものは全て食べていた。

 どうやら相手に悪いと思っているようだが……悪いな、そういう作戦なんだよ。


 やがて、限界がきたのかリアンが気持ち悪そうな顔になると、運ばれてくる料理はパッタリとなくなった。

 ……俺とゴードンのために料理を運んでくれてもいいのよ、皆さん。


「……もう、食べられません」

「意外と大食いだったんだな、嬢ちゃん……」

「よくそんな食べられるなー」


 そういや宿の料理も、リアンが全部片付けてくれたな。俺はというと、リアンが食べた量の半分ほどで満腹になった。

 さて、お腹も膨れたことだし、ようやく落ち着いて話し合いが出来る……か?


「見事な食べっぷりだったよ。体重の増加が楽しみだね」

「っっ!! なんですって!!」

「ちょ、メフィやめろって!!」


 いや確かに心配していたけどさ。

 賑やかムードが、メフィの発言により一瞬にして静かになった。

 もうこいつ仕舞っておくか……?


「おいおい、どうしたんだよ。さっきからなんで好戦的なんだ?」

「それはこの女性が……マスターの……」

「え? 何だって?」

「い、いや、マスターこそ、その女性を擁護しすぎではないかい?」


 確かにそうかもしれない。

 ただそれは、何も知らない俺に優しくしてくれた恩返しや、こうして再会できたことが嬉しかったりするからだ。

 未だにリアンと旅がしたいという思いが諦めきれていないこともあってか、自然とそういった態度になってしまっていたらしい。


 それにしても、メフィの行動はちょっとやり過ぎだが。


「とにかくだ! 次に変な態度をとったら、本に戻ってもらうぞ?」

「そんなことを言うが、マスターに方法が理解るのかな?」

「確か顕現せよだから……反対は……消滅せよ、俺の!」

「ま、待って! ボクが悪かった! 自重しよう!」


 メフィの慌てようからすると、呪文はそれで合っていたらしいな。

 消滅させたあとに出てきてくれるかは不安だったが、お灸を据えるためにも結果オーライかな。


 さて、これでようやく話が進められそうだ。






「……ということは、この浮いている嬢ちゃんが、あの野郎を倒したってことでいいのか? 信じられねぇな」

「でも見ていた住民も言っていただろ? 『女性との間に悪魔が吸い込まれていった』って」

「いや、でもなぁ……」

「正確には、倒したのはおれ……んんっ、わたしよっ!」

「……ブブッ」


 メフィを大人しくしてから、悪魔との戦いと倒した後をことを語っている途中でリョウタが正気に戻った。

 正確には、俺が『悪魔を倒したのに勘違い幼女に襲われた』と話したところで、ツッコミを入れる感じで会話に入ってきたのだが。


 どうやらシーシアの身体に入っているのがリョウタ……ということは内緒にするみたいで、リョウタは本人に成り切るようだ。

 しかし、中身を知っている身とすれば……無理にシーシアを演じるリョウタを見て、笑いを堪えるのに必死だ。


「でも、嬢ちゃんに吸収された悪魔を、どうやってシーシア様は倒したんだ? 聞いた話によると、お仲間の勇者様と同じようなオーラが……」

「そ、それは……わたしの魔法で、似たような魔法があるのよ!」

「……ブブッ」


 ダメだ。

 中身がリョウタだとわかっている分キツすぎる。

 何だこれ、絶対に笑ってはいけない何かか。何も知らなければ笑えないだろうが、知っている人には一種の拷問だろ。


 感じる視線に顔をあげると、リョウタ……もといシーシア様がキッ! といった感じで睨んでくる。

 最初に出会ったときを思い出すような視線だが、下手に交流を持った今、その視線は怖くもなんともない。

 いや、逆に笑いを誘う燃料となってしまう。


「なるほどな……で、これがあいつのオーブか。確かに、強敵だったからな……あいつが四天王って言われても納得するしかねぇ」

「言っておくが、これは俺がもらうぞ? 倒したのは俺だからな」

「俺? シーシア様は、いつからそんな言葉遣いに……」

「あっ……いえ! わ、わたしが倒したので、この人に取られないように威圧をしただけですっ!」

「……ぶほっ」


 ちょ、リョウタさんも隠すなら上手くやってくださいよ。

 笑いを堪えるのにも必死だが、顔がニヤけすぎて前を向くことができない。

 さっきからメフィが大人しいのも気になるが、今はそれどころじゃない。


 ……こっちが笑うからって、机の下で蹴ってくるのはやめてくれないですかねリョウタさん?


「ヨーヘイもそれでいいわね?」

「いいわねって……くく……いてっ! あっ、オッケーです」

「そう、じゃあこれはもう、わたしのモノよ」

「……ブブッ」

「てめっ……あとで覚えていろ! ……覚えていなさい!」


 確かに倒したのはリョウタだ。

 別に俺は魔王を倒すのが目的ではない。あいつが欲しいっていうなら、もらったお金を返す意味も込めて譲ろうじゃないか。


 ……それに、今は真面目な話しをできる状態ではない。

 こいつは俺を笑い殺す気か。






 話も一段落して、酒場からもちらほらと帰宅する人が現れた頃、奴が動いた。


「ところで、君が別人のフリをしているのには、何か理由があるのかい?」

「「「「え?」」」」


 こいつ、わかっていてやっているのか!

 いや、不思議そうにしている顔を見ると、本当に分かっていないっぽい。

 まあ広場で見たリョウタしか知らないからな……仕方ないかもしれないが。

 すぐさまリアンとリョウタにアイコンタクトを送り、ここは全力で誤魔化す方向で進める。


「HAHAHA! 何を言っているのかなメフィは」

「そ、そうよ! 何もおかしなところはないわ!」

「ブブッ!」

「で、ですよね! シーシアさんはいつも通りですよ!」

「ちょ、リアンさん!? 誰のことかまでは……」

「まさか……いや、俺からは何も言わねぇが、そんなわけねぇよ……な」

「……そういうことかい、マスター?」


 これはやばい。

 メフィは状況を見て察すると、まるでおもちゃの新しい遊び方を見つけたかのようにニッコリと上機嫌になる。

 傍から見ると、癒される笑顔のはずだが……その笑顔に戦慄が走ったのは俺とリョウタだけだろう。


 酒場での祝杯は解散ムードだったので、なんとかその場は誤魔化したが……あの反応は気づいたかもしれないな。

 さすが元Aランク冒険者だ。戦闘とは関係ないところで能力を発揮しまくる。






 もう夜も遅い。

 今からこの街を出るにしても、明日にしたほうが無難だろう。


 俺は宿に帰ろうとするリョウタを引き止めて、同じ宿へと道案内してもらうことにした。


「さっきはよくも笑ってくれたな! あのおっさんにバレるところだったぞ!」

「ははははっ! いやー、あれは傑作だったな!」

「他人事だと思って!」

「まあまあ、シーシ……勇者さま、落ち着いて」

「大体、リョウタが地を出しすぎなんだよ」

「……くっ、それでもなぁ!」

「そうか、君は男の子だったんだね。だとすると……さすがにあの行為は、刺激が強すぎたかな?」

「ひっ……!」


 いつの間にかリョウタの背後に回っていたメフィが囁くと、リョウタはあの出来事を思い出してしまったのか、顔が見る見ると赤くなっていく。

 たしかにあれは……いや、俺は何も見ていない。


「大体、あそこまでやっていいだなんて、許可してないぞ!」

「約束では、今日一日だったよね? ……今夜は寝かせないよ?」

「や、やめっ……!」

「ダメです! 勇者さまは私が守ります!」


 おや、今度は本格的にリアンも加わるのか。

 よかったなリョウタ、お前はいまモテモテだぞ。

 メフィにとってはおもちゃ、リアンにとってはぬいぐるみの役割だろうが。


 そんなことを考えているうちに、ふと思い出したことがあった。


「なあリョウタ、真面目な話なんだが……」

「ああ、なんだ?」


 リアンとメフィが言い合いをしているので、取り合いになっている本人モノは暇を持て余しているらしい。


「俺のこの『攻略本』なんだけどさ。リョウタが欲しい情報は載っているか?」

「そういやずっと気になっていたんだが、お前の能力らしいな」

「ああ、実はアイツもこの『攻略本』に取り憑いているらしい。まあそれはどうでもいいんだが……石化解除以外で欲しい情報はあるか?」

「その本に載っているのか!」


 そう伝えた途端、リョウタがいきなり飛びついてきた。

 勢い良く向かってきたので、俺はそのまま押し倒されてしまう。いわゆるマウントポジションだ。


 横で言い合いをしていたリアンとメフィも、唖然といった表情でこちらを見ている気がする。


「早く見せろ!」

「まあ落ち着けって……ほら、開いてみろよ」

「ああ…………ん? 何だこれは」

「どうした? 日本語ならお前も『攻略本』を読めるだろ?」

「あ? これが日本語なわけが……いや、確かに見覚えが……」

「お、おい……まさか」

「……ヨーヘイさんよ、これは本当に日本語か?」


 なんてこった。

 同じ日本からきたはずのリョウタが読めない……しかし見覚えがあるときた。

 俺とリョウタの違いは、女神様からの祝福があるかないか。

 あとは……『文字不明』か『言語適正』状態か。


 予想だが、この世界の文字が読める代わりに、前の世界の文字……日本語が読めなくなったということか。

 なんだよ、女神様も能力にデメリットを付けているんじゃないか。

 余り意味がないデメリットだけど。


 つまり、この本は今のところ俺にしか読めない……というわけか。

 こりゃあ、ますますわからなくなってきた。



 ――この力をくれたやつは、俺に何をさせたいんだ?

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