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自称悪魔と付属品 ~魔力なしの異世界攻略法~  作者: ひのる
第一章 悪魔の潜む街
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あくまで本

 あれから数分が経過した。

 この現状を説明するため、ゴードンたちが起きるまで待っていたが……こいつらまだ気を失ってやがる。

 俺も戦っていたところを見られているので、周りに敵ではないということ、警戒しないでほしいと証明してもらいたんだが。


 さっき周りの野次馬に呼びかけたときは、攻撃されるんじゃないかと警戒されてか、障壁を張られました。さすがに傷つく。

 それもこれも、近くにいるこいつのせいだろうな……。


 メフィストはというと、相変わらず俺の周辺をぐるぐるとしていた。

 とくに離れるわけでもなく、ただ浮遊して遊んでいるような感じだ。


 ……そろそろ遠巻きから見ている連中も、興味を失って散ってくれるとありがたいんだが。

 広場で倒れていないのは、俺とメフィストだけだ。しかも片方は浮いている。

 何者かという疑問と、敵か味方かの判断に迷う……というのが野次馬の意見だろう。

 ただの想像なので、全く的外れかもしれないが。




 ……待つだけというのも暇だな。

 どうせなら、メフィストが持ったままの本でも読ませてもらうか。


「なあ、メフィストはその本を知っているのか?」

「ん? ボクはこの本の持ちぬ……いや、悪魔さ。当然だろう?」

「……持ち主?」

「いや、悪魔だよ。この本について知りたいのかい?」

「ああ。一応俺の能力なんだろ? 使い方もわからずに死ぬのはゴメンだぜ」


 生きるか死ぬかの状況で、縛りプレイは推奨できない。

 全力で生きなければ絶対に後悔するだろう。


 メフィストはいつの間にか俺の前に来ると、両手で本を差し出した。


「なら、開いてみると良い。もっとも、マスターにその言語が理解できるかは別だけどね」

「くっ……」


 この世界に来てから、文字が読めない不便さを痛いほどに思い知っている。

 これで『能力の使い方もわかりません』となったら、どうなるんだが。

 最悪のパターンも想像しつつ、恐る恐るその表紙を開く。


「おっ、これ日本語じゃん。これなら俺にも読めるぞ!」

「マスターに理解できなくても仕方ないさ。その文章はボクと共に幾度となく変化している。そして時代に合わせた改変と同時に、この世界の音を聞くことで今の世界に適応していくのさ。だから…………今なんて?」


 饒舌になっていたメフィストには悪いが、これは俺の世界の言葉だ。

 つい最近まで見ていた俺が見間違えるはずもない。


「え? ボクの聞く音は…………え?」

「ほう……次のページは……目次はどうなって……って、これ!」

「っっ! きゅ、急にどうしたんだい?」

「………………………」

「………………………」

「今から三つ質問したい。答えてくれるか?」

「ま、ますたーのないようによるとしか……」


 書かれている内容の重要さに気づき、隣をギロリと睨みつける。

 いきなり叫んだからか、なぜか慌てだすメフィストに、こんな反応もするんだなーと思ったが。今、重要なのはそこじゃない。


 こっちは真剣なんだ。それも、これからの行動が決まるくらいには。

 仮にも悪魔なんだろ。そんな怯えた目で見ないでくれ。




「一つ。スライムという魔物を知っているか?」

「……ああ。たしか、駆け出しの冒険者が集まる町外れによく出現するよ。攻撃もパターン化されているから、最初の冒険者にはもってこいの魔物さ」


 ここにもいるんだな、スライム。

 今は最初によく出てくる魔物ということがわかれば十分だ。

 このページで最初にいる魔物ということは、そういうことだろう。


「二つ。この世界に魔法は何種類ある?」

「どうだろうね。魔法は可能性がある未知の領域だ。そのことを省くと、基礎的な六種類かな」


 火、水、風、土、光、闇の六種類か。組み合わせ次第では派生できると。

 ここら辺もリアンに教わったのと同じだな。


「じゃあ、少し質問を変えよう。メフィストが使える魔法は、何種類……いや、何パターンある?」

「ボクが理解できている分だと、220パターンかな。このボク以上に魔法を使える者は、数えるほどしか存在しないだろうね」

「そうか……ほとんど使えるが、使えないものが30パターンほどある、と」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! それはどういうことだい?」


 メフィストにとっては、自分の知らない魔法があるということが衝撃だったのだろう。だが、今重要なのはそこじゃない。

 困惑する悪魔を横目に、最後の質問をする。


「最後だ。メフィスト、この本が読めるか?」

「ボクは仮にも、その本の悪魔だ。当たりま………………え? 何だい、これは。見たこともないような記号が書いてあるね。ここの絵のようなもの……は、先程言ったスライムに似ているね」


 隣から覗き込む感じで見られているので、自然とメフィストが密着する。

 フワフワ浮いているくせに、ちゃんと暖かさはあるんだな……ということは、霊体ではないのか。

 いや、それよりも本の内容だ。


「やっぱりか……」

「これはどういうことだい? ここに書かれている内容は、ボクの知っているモノとは全く別物だ!」


 あまりの衝撃だったからか、メフィストは息がかかりそうなくらいまで顔を近づけてきた。そんなに密着されて近づけられると……その、困る。


 なんとか後ろへ下がるように押しのけると、それでもメフィストは不満そうな目でこちらを見ている。

 ああ、どうやって納得してもらおうか。


「コホン。この本についてだが……メフィストが知っている本とは別物。ということで良いんだよな?」

「ああ。確かに外装はほぼ同じと言って良い。だが、ボクの本の内容とは全く違う内容だ。そもそも、このボクに読めない文字などあるわけがない」


 断言するとは、相当な自信のようだ。

 しかし、残念ながらこれも文字なんだ。


「ここに書かれている記号は……俺の元いた世界の文字だ」

「別世界? マスターはこの世界の人間ではないのかい?」

「そういや説明していなかったな。俺は『禁忌』と呼ばれる呪文でこっちに来た。目的は元の世界に戻ることだ」

「…………ああ、通りで。だからマスターには魔力を感じないのか」

「ん? どういうこと?」


 魔力を感じない……と言ったか?

 え、せっかく魔法のある世界に来たのに、魔力がゼロだから何も出来ないとか、そういうことなの?


「人間は生まれつき魔力を持つ生き物さ。そして、普段から微弱でも魔力を放出している。それに比べ、マスターからは……何も感じないんだ。ボクは人間じゃないのかとも予想していたが、そういうことだったとはね」

「マジか……俺も魔法が使えて無双できると思っていたのに。でもそれなら、なんで勇者と言われる人間は魔法を使えるんだ?」


 そうだ。

 たしかリョウタは魔法を使えていた……はずだ。

 だから俺も、部屋で一人魔法の練習をしていた。ファイヤーボールとか、ウォーターストームとかいう魔法があればだったが。

 ……実際に発動していたら大問題だったな。


「魔法というものは、文字の読み書きと同時に理解していくモノらしい。もっとも、ボクらには関係ないが、人間は文字を媒介として発動しやすくしているという予想だ」

「つまりそれは……」

「勇者が文字を読めるのなら、魔法も使えるだろうさ」

「…………あああああああ! またそれか!」


 チクショウ! ふざけやがって!

 また女神様の祝福ですか。何か女神様に嫌われるようなことしたか?

 縛りプレイの項目にあった『文字不明』に追加で『魔法不可』が追加されてしまった。




「……マスター、混乱しているところ悪いが、ボクも理解らないんだ。結局その本は、何だい?」


 ……そうか。

 その世界の情報が記載されている。尚且つ、俺の知っている言葉。本。

 力を貸してくれた存在が、何を考えているか知らないが……これはまさしく。


「これは、俺の世界で言う『攻略本』そのものだ」

「攻略本?」

「まあ……簡単に言うとだ。この世界の情報が、ほぼ記載されている」


 目次をざっと見ただけでも、この世界の呪文一覧、魔物の種類、それに伴う弱点や生息地。あとは武器防具などの情報か。

 ざっと見たところ、世界地図や街などの情報はなぜか載っていない。

 もしこれが攻略本なら、イベント情報やダンジョンマップとか記載されていてもおかしくないんだが。


「もしかすると、魔王の倒し方やメフィストの正体までもが、どこかに載っているかもしれないな。HAHAHA」

「まさしく、悪魔みたいな本だね」

「悪魔はお前だろ」


 俺がそうツッコミを入れると、メフィストは口にこそ出さなかったが「てへぺろ」といった感じで舌を出した。

 チクショウ、可愛いじゃねぇか。




「そういやマスター、ボク……いや、その本を呼び出す際には、名前を呼ぶと良い。だから、その本にも名前を付けてみたらどうだい?」

「名前? メフィストと呼べば、来てくれないのか?」

「それはボクの方さ。残念ながら、今のボクは対価無しだと何も出来ないよ。せいぜい、マスターの壁になるくらいかな」

「壁になるなんて言うなよ。悲しいだろ」

「お、嬉しいね。そんなことを言ってもらえると、ボクも頑張りがいがあるよ」


 となると、防御はこの『本』が担当で、攻撃はメフィストが担当ということか。

 対価が必要な分、なるべく攻撃は避けて通りたい。

 となると、俺の役割は? もしかして現金担当……じゃないよな。使っているのは一応俺だし。

 そこら辺の役割も、後で確認するか。


「じゃあ、この『本』の名前は攻略本でいいや」

「なんというか、そのままだね」

「じゃあ、メフィストが取り憑いているから、これはメフィ本とでも呼ぶか?」

「……っ! な、なんだいその呼び名は!」


 なんとなく語呂の関係でそう言ってみたが、メフィストの慌てようからすると、何か不満だったのか?


「メフィストの本だから、メフィ本」

「い、いや……その、ボクはメフィストと名付けられたはずだが。格好良さに釣られてつい了承したが、省略した名前は、その…………く、ないか?」


 最後の言葉は聞き取れなかったが、もしかすると、省略することは良くないのかもしれない。

 いや、あまりに長いと噛む可能性があるから、ここは納得してもらおう。


「省略するのはあまり良くないだろうが、呼びやすさの関係で言うと、緊急時に備えてだな」

「い、いや! ただ、メフィストという名前に不満があるわけではないが、その……なぜ、本の呼び名だけ省略するんだい?」

「あー……これの愛称みたいなものだ。何か問題が?」

「……いや、問題ないさ。そうだ、せっかくマスターに名付けてもらったが、メフィストというのは少し長いだろ? だから、これからボクのことは愛称でメフィと呼んでもらいたい。そうなると、ボクの本は攻略本のままでいいんじゃないかな? 同じ名前だと、マスターも言いづらいだろうしね。そもそも緊急時にはボクのほうが…………」


 ……いきなり饒舌になったな。

 まあ俺が名付けた名前だ。短くして欲しいならそう呼ぶか。


「わかったよメフィ。これからよろしく」

「っ! う、うん! よろしく頼むよ、マスター……今からボクは、マスターの所有ぶ…………っ! 自動防御オートガード! マスターを守れ!」


 俺とメフィが握手しようとした寸前、俺とメフィの仲を裂くように飛んできたのは……何だ?


 自動防御オートガードが間に合った攻略本の前から、ナイフと思わしきモノが一本地面に落ちた。

 状況からすると、俺かメフィに向けて投擲されたものだろう。

 俺とメフィの握手を邪魔する敵はどこだ! 何処にいる!


「悪魔というのはそいつか? 随分と遅くなったが……覚悟しろよ!」


 声のする方へ顔を向けると……そこには、いつかと同じく生意気な幼女。

 でも、そんな可愛らしい声で凄まれても、全然迫力ないっすよリョウタさん。

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