椅子
瞳以外は男受けが良さそうな肢体だったモノ。
将来的に男たちを弄べるだけの器量を持っていたモノ。
弾けて消えた。
このような惨劇を見ているにも関わらず吐き気すらなく、ただただ不愉快な感情だけが積み重なってゆく。しかし目の前の光景から目が離せない。
ふと視線がこちらと合った。
『さて御足労お掛けしました、あちらのテーブルでお話をしましょうか』
背後から声がかけられ思わず反射的に振り向くとそこには身長2メートル近くの黒装束の男が穏やかな微笑みを浮かべてこちらを見下していた。
(あー分かっちゃいたけど絶望的状況なんだね)
にこやかにされどその瞳は嘲るような視線を感じつつ指定されたテーブルに足を運ぼうと前を向くと赤い球形が宙に浮いていた。
球形の下にあったはずの女子高生の肉塊は既になく、直感的にそれが先程までの肉塊だったモノではないかと想像してしまう。
次第にそれは小さく萎んでいき最終的に飴玉ほどの大きさになってしまっていた。
(理解の範疇はとうに超えてるけどなんなんだよ一体)
『お気になさらず私の一部が変化したまでのことです、それよりも席に着いて今回の願いついてお話ししましょう』
一部と言われた瞬間赤い球形はふらふらと空中を浮かびテーブルの上に置いてあるこれまた黒く奇妙な多面体のオブジェの上に移動していた。
(奇妙な多面体、赤い球形、破裂した女子高生、マスターと呼ばれる長身黒装束の人物、奇怪な掛け時計、本棚も部屋)
テーブルまでの短い距離の間に見たものを整理していくと若い頃少しだけ読んでいた小説に出てくるモノに想像が行き着いた。
『そちらの椅子にどうぞ、茶菓子はご自由に手にとって下さいね』
椅子と呼べる代物なのは間違いないだろう。
四本の足に背もたれと肘掛けが付いているのだから間違いなく椅子の定義にはあてはまっている。
だが少なくとも人間の足が四本、背もたれと肘掛けは女の首から上がない上半身、座面には女の顔が張り付けられていた。
(帰りたい)